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桜鬼と桜樹
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しおりを挟む勢いよく畳に突いてしまった膝の激痛なんてどこへやら。ずっと優しく接する、叱ることのない黒鷹に悲しげな顔を向ける小紅。
小姓としてそばにいるのに甘やかされては成長しない。それがもどかしくて、込み上がってきたものを吐き出しそうになったところで黒鷹が口を塞ぐ。
今度は、その大きな手の平で。特大饅頭のあんこの味は感じず、手の温もりと黒鷹の匂いを感じる。
見つめる青い瞳が優しく鋭利。小紅の心を優しく撫で、引っかいて行った。浮かべられた笑顔は、脅しだった。
冷たく張り詰めた緊張の糸が、黒鷹の柔らかな微笑みで和らぐ。気持ちを落ち着かせようと特大饅頭をかじると、ほんのりしょっぱい。見ると手にベッタリ汗をかいている。
なぜ黒鷹が小紅を止めたのか、意図はわからない。しかし何か考えがあってのこと。小紅が抱える秘密を暴露しなくても構わない、脅威にはならないと思っているのか。
それから2人は特に言葉を交わすでもなく、外を眺めながら黙々と特大饅頭を頬張っていた。
これ以上何も話すことがない黒鷹。これ以上話すことができない小紅。口の中の水分が特大饅頭に奪われ、お茶を用意するのを口実に黒鷹から逃げることもできない小紅。
弱い。心が弱い。生半可な想いでここに来たわけではないのに、全てを放棄して逃げだしたくなる。
そんな時、小紅はある言葉を思い出す。彼女に耐える、立ち向かう力を与えてくれる言葉。それは――
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