59 / 386
知らぬが仏
6P
しおりを挟む主にうるさい高遠のせいでキレる寸前。準備が出来たらさっさと食べる、それが鉄則のようだ。
爆発して、せっかくの朝餉がメチャクチャにされては残念な結果に終わる。朝から血圧が高い高遠は空腹、素直に食べることを選んでスゥっと座布団に座り手を合わせる。
「いただきます」
ようやく食べ始めた。魚の骨からとった出汁に浸っているおにぎりをくずし、口へと運ぶ。
完全に混ざっていない、ご飯の部分と味噌の部分がそれぞれ美味しい。味噌が美味しい。塩辛すぎず甘すぎず、魚の味も残っていて酒の肴にもなりそうだ。
汁椀に口をつけて、今度は出汁も一緒にすすってみる。口の中でご飯がほぐれ、味噌が解けて混ざって味噌汁みたいだ。
それに大葉が加われば。口の中はさっぱりして、とても食べやすくなる。朝餉にはちょうどいい。
味噌が濃いのに出汁が優しく包み込むようで、温かく、暖かい。ホッと一息つくと自然と体の力が抜けて笑みがこぼれる。
「それ、いいね」
初めての味にホワァっと心奪われていると、隣からの声にハッと我に返る。黒鷹がジッと小紅を見つめていた。
「紅ちゃんの自然な笑顔、僕は好きだよ」
そう言うと視線を外し、端が切れていなくて繋がってしまっている大根の糠漬けをかじる黒鷹。これも愛嬌か。
意味深な言葉に、自分をまっすぐ見つめる青い瞳に、優しい表情に胸の奥が熱く軋んだ。痛い。ただの痛み。
黒鷹の優しさは小紅を苦しめる。黒鷹の温かな想いは小紅の心を締め付ける。冷たくなった心はやがて「ありがとうございます」という無機質な言葉を生み出し闇を見つめる。
すぐ隣で黙々と箸と口を動かし続けている和鷹には聞こえていたのかいなかったのか。黒鷹の言葉は、あまりにも自然すぎて小紅の心の隅にひっそりと留まるだけとなった。
心に響かなかった。ただ笑顔を誉められたというだけで、その言葉の真意には気づかなかっただけ。
今、黒鷹は、小紅は何を思って朝餉を口にしているのだろう?和鷹や他の人達もそうだ。昨日突然やってきて夜鷹の娘だと名乗る、密偵かもしれない女が共に朝餉を食べているなんて。
まだまだ怪しさ満点の小紅を、認め始めた?それとも、油断させておいて一気に全員で襲いかかる?
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい
白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。
私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。
「あの人、私が
KAKIDAMISHI -The Ultimate Karate Battle-
ジェド
歴史・時代
1894年、東洋の島国・琉球王国が沖縄県となった明治時代――
後の世で「空手」や「琉球古武術」と呼ばれることとなる武術は、琉球語で「ティー(手)」と呼ばれていた。
ティーの修業者たちにとって腕試しの場となるのは、自由組手形式の野試合「カキダミシ(掛け試し)」。
誇り高き武人たちは、時代に翻弄されながらも戦い続ける。
拳と思いが交錯する空手アクション歴史小説、ここに誕生!
・検索キーワード
空手道、琉球空手、沖縄空手、琉球古武道、剛柔流、上地流、小林流、少林寺流、少林流、松林流、和道流、松濤館流、糸東流、東恩流、劉衛流、極真会館、大山道場、芦原会館、正道会館、白蓮会館、国際FSA拳真館、大道塾空道
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
13歳女子は男友達のためヌードモデルになる
矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。
GAME CHANGER 日本帝国1945からの逆襲
俊也
歴史・時代
時は1945年3月、敗色濃厚の日本軍。
今まさに沖縄に侵攻せんとする圧倒的戦力のアメリカ陸海軍を前に、日本の指導者達は若者達による航空機の自爆攻撃…特攻 で事態を打開しようとしていた。
「バカかお前ら、本当に戦争に勝つ気があるのか!?」
その男はただの学徒兵にも関わらず、平然とそう言い放ち特攻出撃を拒否した。
当初は困惑し怒り狂う日本海軍上層部であったが…!?
姉妹作「新訳 零戦戦記」共々宜しくお願い致します。
共に
第8回歴史時代小説参加しました!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる