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知らぬが仏
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しおりを挟むそれがどんなことであれ、小紅は彼らに決して知られてはならないことがある。墓場まで持っていくつもりの真実。
きっと、黒鷹は気づいている。真実が何かまではさすがにわからないだろうが。それでも小紅に刃を向けないのはただ泳がせているだけなのか?
澄みきった青空色の瞳を見つめても、その答えはわからない。小紅にできることは、自分のために彼に忠誠を尽くすことだけ。
チラッと、眉間に深いシワを作りながら糠床に手を突っ込んでいる高遠に目を向け、それから自分を見つめる黒鷹に目を戻す。
何を作ろうとしているのかがわかった。汁椀を受け取り、ご飯を手に乗せくぼみを作ると焼き味噌を入れて三角に握っていく。
何も言わない。黙々と、ただひたすらに丁寧に握っていく。炊きたてのご飯は熱い。焼きたての焼き味噌なんて火傷しそうだ。
握った、焼き味噌入りのおにぎりは元の汁椀の中に1つ入れ、各膳に乗せる。
やがて切り分けられた糠漬けも小皿に盛って各膳に乗せられ、魚の骨の出汁が入った鉄瓶を手に黒鷹が完成を告げた。
黒鷹が鉄瓶と茶瓶、小紅は膳を2つ、高遠が残りの膳を7つ持って広間へ。
広間では和鷹がそれぞれが座る場所に座布団を置き待っていた。高遠同様、小紅がいることに最初は驚いたものの、黒鷹の無言の威圧に目を背けるに終わる。
それからまもなくして。やっぱり子猫を連れた猫丸を先頭に雪と鳶、桜鬼、それから見知らぬ女性がやってきた。
「握り飯、と、糠漬け……だけ?」
口数の極端に少ない鳶からのツッコミだ。決して量は多くないのに、膳の上には湯気が立ち上るお茶が入った湯呑みと糠漬けが数切れと、汁椀に入ったおにぎりだけ。
誰もが思ったことを鳶が代表して口に出しただけ。皆、不審そうにおにぎりを見つめる。ただ1人、最後にやってきた見知らぬ女性だけは違った。
「へぇー、これ作ったのクロポンでしょう?中の味噌のいい匂いがする。魚も入ってる?」
おにぎりが入った汁椀を手に、顔を近づけてクンクン匂いを嗅いでいる。女性はチラッと黒鷹を見て、鉄瓶の中の出汁を汁椀に注いだ。
「さすが千歳、鋭い嗅覚でよくわかってくれた。褒美に刻んだ大葉をくれてあげるよ」
「あーっ!千歳さんだけずっりぃぜ!お、俺様だってすぐに茶漬けだってわかってたんだからな。だから、大葉くれよっ」
「まぁまぁ。まずはちゃんと座って、挨拶くらいしようよ。でないと、そこで静かに怒りの炎をたぎらせてる和さんが爆発してしまうよ」
自分に注いだ後、そのまま順番に皆の汁椀に出汁を注いでいた。苦笑いを浮かべる桜鬼の言葉に全員の視線が和鷹に向けられる。
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