鷹の翼

那月

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「一息、つきませんか?」

 しかしめげない。手に持っている大きなおぼんに乗っている湯呑みの1つに、急須からお茶を入れ少し飲んで何もないことを証明してみせた。

 夕焼け色の空から太陽がゆっくり沈もうとしている、風も冷たくなってきた。

 1日中作業しっぱなしで体が火照っているだろう。汗もかいているだろう。手を止めれば汗が、体が冷える。少し熱いくらいのお茶が心身ともに心地よい。

 一口お茶を飲んだ小紅は「ふぅ」と小さく息を吐き、皆の様子をうかがう。

 おぼんの上にはお茶がたっぷり入った急須と、湯呑みが6つ。黒鷹と桜鬼を除いた全員がいることを考慮して5つと、毒見のための自分用に1つ。

 目の前で毒見をすることによって、高遠と和鷹からの疑いも少しくらいは緩和されると思ったのだろう。

 あくまで“少しくらいは”だ。2人は同じことを考えているようで、毒見に驚いたものの今度は湯呑みを睨みつける。

 そうかそうか。お茶じゃなくて湯呑みに毒を塗っているんじゃないかと言いたいんだな。そう言われるのは小紅だって覚悟している。

 しかし、同時に口を開いた2人が言葉にするよりも早く、猫丸が走ってきて湯呑みを手に取った。

「喉渇いてたんだにゃー。入れて入れて。ありがとにゃー。ん…………はあっ。美味しい!おかわりだにゃー!」

「僕にもちょーだい。遅かったけど、あれからずーっと桜鬼と町におったんか?」

 子猫を頭に乗せた猫丸の子供らしいあどけない顔に笑顔の花が咲いた。やんわりと湯気が立ち上るお茶を飲み干した彼はその味に驚き嬉しそうに体を左右にゆする。

 猫丸に続いて雪が、自動的に鳶もやってきて湯呑みを手にする。お茶をついでやるとすぐに口へと運び、猫丸同様、お茶の味に驚く。

 お茶の味には自信があった。小さい頃からずっと、家事を中心にいろんなことに取り組んできた。中でもお茶は、味にうるさい人に何度も何度もダメ出しを食らってきたので鍛えられている。

 熱いだのぬるいだの、薄いだの濃いだの。挙句、不味いと湯呑みの中身を頭からかけられたこともある。そして、喧嘩になった。

 どうすればいいのか、まずはお手本を見せてほしいと。その思ってもみなかった反撃に、相手はグッと口を閉ざし無視。無言で、負けを認めたのだった。

 その相手は、せっかちすぎて薄いお茶しか淹れることができないのだから。文句を言う権利はない。

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