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つながり
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しおりを挟む「おかえり。良い着物を買ってもらったようだね。うんうん、似合ってる似合ってる」
2人が屋敷に戻ってくるなり出迎えたのは、結局一切修繕の手伝いをしなかったらしい黒鷹。
桜鬼に「話がある」と言って、小紅には「夕飯まで他の人達と一緒にいるといいよ」と言って、黒鷹はさっさと桜鬼を連れて行ってしまった。
桜鬼は、小紅に声をかけることも目を向けることもなく、黒鷹についていく。それが帰宅してホッと安堵した小紅の心を、余計に苦しくさせた。
「修繕、まだ終わってないよね」
とてもじゃないが4、5人がかりで1日で元に戻せるような規模じゃない。あと2日はかかるくらい壊れていた。
華奢で非力な小紅に手伝えることはほとんどないだろう。トンチンカンの音が鳴る現場には背を向けて、小紅は1人で歩き出す。
最初に黒鷹に屋敷の中を案内してもらい、どこに何の部屋があるのかは大体覚えている。
昔から物覚えだけは良かった小紅だ。目的地の勝手場へはまっすぐ向かい、一瞬たりとも迷うことなくたどり着いた。
勝手場で湯を沸かしている間、食器や道具の場所も見ておく。男がほとんどにしては綺麗に整理整頓されている。きっと、和鷹が当番でない日にもやってきて整えているのだろう。
すでに夕餉の仕込み、下処理が済まされているものが用意されている。今日の夕餉は魚の味噌焼きか。
料理は得意な方だ。10人分近くもの分量を作るのはできなくはないが、前はもっと大人数分をよく作っていたので多く作りすぎてしまう癖がある。
生活費を稼ぐため、宿屋で1年ほど働いていた。材料さえあれば四季に合わせて色々作ることができる、はず。
しばらくして。勝手場を後にした小紅はやっぱり、トンチンカンにギコギコが追加された音が響く現場へと向かった。
「あ、あのっ!もしよろしければ温かいお茶をどうぞ。毒とか危ないものは入っていませんから……」
トンチンカンギコギコの音にかき消されないよう張り上げた声はしっかり5人の耳に届いたようだ。
作業をしていた5人は手を止め、緊張に体をこわばらせる小紅に目を向ける。目にうっすら涙を浮かべて硬直してしまうほど怖いのだろう。
そりゃあそうだ。角材に足を乗せノコギリで切っている高遠と、高遠に切ってもらうために木材に線を引いている和鷹が親の敵でも見るような目でそろって睨みつけているのだから。
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