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着物の色
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しおりを挟む「店主。あれはこれと同じ寸法?そう、じゃああれをいただきます。あぁ、そうそう……僕達に嘘を吐いたんだから少しまけて。はぁ?今安くするのと夜中に有り金奪われるのどっちがいい?――うん、そうそう、それくらいでいいよ。お代はちょうどある」
驚き困惑する小紅なんて気にも留めず、桜鬼はさっさと店主との話を進めて別の着物を買ってしまった。
しかも、やっぱり店主が差し出した着物は最安値ではなかったらしい。見抜いた桜鬼は店主の肩に腕を回し言葉巧みに値段交渉し、見事半額1歩手前でお買い上げ。
それでも小紅が今試着している、最安値ではなかった着物よりは高い。泣きそうな店主をよそに、桜鬼は金を渡すと背を向ける。
「買った着物に着替えておいで。あ、出てくる時に雪の着物と僕の羽織を忘れないようにね」
そう言うと、そのまま手をヒラヒラ振って店を出てしまった。襖が静かにストンッと閉まり、そこでようやく小紅は我に返って渋々、買ってもらった着物に着替え始める。
小紅が最安値を求めたのと店主の嘘に気付いたのは彼の鋭い観察眼の賜物として。
桜鬼はなぜ、小紅が「これにします」と選んだ着物ではない、あえて高い着物を選んでさっさと買ってしまったのか?
小紅の声は小さく力のないものだったが、それでも本人が選んだものなのだからそれでよかったのに。
わざと高いものを選んで小紅への貸しを大きくするという嫌がらせ?そんなことをするような男ではないのだが。
むしろ代金の代わりに美味しいご飯を作ってねとでも言いそうな、とにかく優しい、ちょっとお節介すぎるくらいの男なのだが。
まさか、実は小紅を気に入ってしまっていて、着せ替え人形のように自分の好きな着物を着せたかっただけ。とか…………さすがに有り得ないか。
小紅がいくら妄想を膨らませても真実は桜鬼しか知らない。着替え終わり雪の着物と桜鬼の羽織を手に持ち、やけくそ店主の「まいどどうも!」の声を背中で聞いて店を出る。
耳がいい小紅は直後の「もう2度と来るな、クソッ」というやけくそ店主の、負けを認めたかわいそうな声もバッチリ聞いた。
「お、お待たせしました。これ、ありがとうございました。それとこの着物のお代、必ずお返ししますから」
腕を組み、通り過ぎる人達を眺めていた桜鬼に羽織を差し出し、小紅は深々と頭を下げた。
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