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着物の色
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しおりを挟む着物問屋にて。小紅は頭を抱えていた。
自分で選びたいと言って選ばせてもらっているところだが。店主にこっそり1番安いものをと出してもらった着物の値段が、思っていたよりもずっと高い。
何しろ小紅は着物を買ったことがない。2着ほど自分で作り、破れたりほつれたりすれば自力で直していた。
着物の値段の相場なんてほぼ知らないに等しい。着物問屋に入ったのだって何年振りか。
試着してみると寸法はちょうどよいが、色は彼女が特に好きなわけでも嫌いでもない桜色で帯は濃い黄色。だが、果たして1番安くてこれくらいが妥当なのか?
小紅がわからないのを見抜いて店の主がぼったくろうとしているのか。自信がない。だからといって「これは本当に最安値ですか?」なんて失礼極まりないことを聞けるわけがない。
どうしようと悩んでいるうちに桜鬼が顔を覗かせ「っ……お、おぉ、よく似合っているよ。それに決める?」と、やや挙動不審気味にニッコリ。
やっとまともな着物姿に変身した小紅に惚れたか?いや、今の一瞬、眉根にシワが寄った驚きは違う。
その証拠に頬はわずかにも赤く染まってはいない。すぐに優しく笑ってみせたが、小紅はそのことに気づいている。
敏感なのだ。小紅は、人の表情や雰囲気の変化を感じ取りやすい。
人の顔色をうかがう生活をずっと続けてきた。人の行動、発言をよく観察するよう言われ続けた。小紅が、生きるために。
だから彼女は控えめに「はい、これにします」とうなずいた。正直、新しい着物であれば自分の好みでなかろうと気にしない。
気にするのは、他人の金で着物を買い与えられるという事実。桜鬼も雪も金は返さなくてもいいと言うだろうが、そういうわけにもいかない。
恵んでやった礼をしろと脅すような2人でもないが、新しい仲間とはいえ会ったばかりの他人に貸しを作るのがどうにも、小紅には受け入れられない。
だからといって今この瞬間に彼女の手に着物の代金が出現するわけもなく。金はあとで返すにしろ、一旦貸しを作ってしまうことは変えられない。
なんてことを考えていると、黙って見守っていた桜鬼が別の着物を指さした。
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