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鷹の翼
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しおりを挟むと、思ったのだが。そこへ偶然なのか通りがかった黒鷹が「出かけるの?いいよ、いってらっしゃい」と言ったので桜鬼はまた思考停止。
「小姓と言ってもまだどんな仕事を頼むのか考えてないし。今日は自由にしてもらっていいよ。じゃ、頼んだよ桜鬼」
託されてしまった。頭領の黒鷹に、少し前まで小紅のように怪しまれ嫌われてきた桜鬼が。
ポンポンと桜鬼の肩を叩いてそのまま通り過ぎ、姿を消した黒鷹に条件反射で「はい」とだけ答えた。そこでやっと、我に返ってバッと振り返る。
もちろん、もう黒鷹の背中は見えない。それにしても、黒鷹はとても良い時に通りすがったものだ。
実は小紅が黒鷹とわかれた後、ひっそりと彼女の様子を物陰からうかがっていたんだったりして。
それが有り得そうに思えるのは彼の性格が、かなり子供っぽいためか。まぁ、実際は本当に偶然だったのだろう。
小紅は見ていた。黒鷹が姿を消す直前、懐から手紙のようなものを手に難しそうな顔をしていたのを。ほんの一瞬だったが、彼女はその一瞬だけ見えた黒鷹の顔を忘れられない。
何か、難しそうに深く考え込んでいて、でも悲しそうでもあった。あの、辛そうな顔を。
「と、頭領の許可も下りたし、行こうか。でもその前に……」
「え?わあっ!?これ、どなたのですか?温かい……じゃなくて。せっかく洗濯したばかりなのに」
「僕の。滅多に着ないんだけど、昨日は着ていたんだよ。さすがに今の君を、そのまま町へ連れて行くほど僕は女心知らずじゃないからね」
今日は天気が良い。庭に干されている皆の洗濯物がすっかり乾き、日光でホカホカに温まっている。
桜鬼はその洗濯物のうち紺色の羽織を取ってくると、小紅の肩にかけてやった。少々不格好だが、これで短い袖を隠せる上に温かい。
だが桜鬼よ、本当に女心をわかっているのか?そう言いたくなるほどに、今の小紅の姿は、おかしい。
まるで着せ替え人形の小紅は自分の格好がおかしいということも考えられないくらい、頭がいっぱいいっぱい。
同性の雪はともかく他人の、それも男性の羽織を借りるなんてと顔を真っ赤にしている小紅。しかし、しっかり袖を通しているあたり、寒かったんだな。
小さく「ありがとうございます」と呟いた彼女の頭を優しく撫でる桜鬼は、まるで兄のようであり……
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