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鷹の翼
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しおりを挟む悪戯大好き、雪が穴掘りの犯人。というのは小紅も薄々気づいていた。ちなみに、小紅が落ちた落とし穴はあのあと旦那である鳶がササッと埋めたそうだ。
日常茶飯事で手慣れたものだ。が、埋めた直後に近くにあった別の落とし穴に、今度は和鷹が落ちた。今、鬼の形相の和鷹が鳶を引きずり回しながら雪を探しているんだとか。
渋い顔をして桜鬼の背中から飛び降りた雪は、押し入れに頭を突っ込んでガザゴゾ何かを探している?
あ、へそくりか。ジャラジャラと、小さな金属が擦れ合う音がする。そして「いーちにーいさーん……」と数える声も。
文無しの小紅には古い着物すら買えない。かといってずっと借りっぱなしなのももらうのも、彼女の自尊心が許さない。
ならばどうするのか?全ての元凶である落とし穴を掘った犯人、つまり雪が弁償。連帯責任として桜鬼が買いに行く、と。そういうことだろう。
なぜ桜鬼がここまで積極的に小紅に関わろうとするのか?さっき彼が言ったように、鷹の翼に入った時の自分と彼女を重ねて見ているのかもしれない。
もしくは、もっと別の何か理由があるのか。それは雪にも小紅にもわからない。黒鷹ならもしかすれば、何か察してわかるかもしれないな。
「桜鬼さんはお武家様なのですか?歩き方と言いますか、雰囲気が何となくそんな感じがしたので納得ですね」
「一昨年までは1人で何とか生きてきたけど、体も大きくなって食べ物に困ってね。行き倒れていたところを夜鷹様に拾われたってわけだよ。僕もここに来た時は君みたいに、新選組の犬じゃないかって白い目を向けられていたよ」
「生まれた順番で人生が変わってしまうなんて、不憫です……」
「でも僕はね、長男に生まれて跡継ぎになるよりも、夜鷹様に拾われてここでこうして皆と暮らしている方がよかったとはっきり言えるよ」
「…………そう、ですか。話してくださって、ありがとうございます」
この時代、武家の家に生まれた末っ子ならよくある話。鷹の翼の方がいいというのは単に、家に残った場合を知らないから。とは思っても、素直には言えない小紅。
それが彼女の優しさ?いいや。きっとそれは、彼女に勇気が足りないから。
正直に言って反感を買うのが怖いのだ。いい加減嫌われているのに、これ以上嫌われれば信頼を得るどころではなくなってしまう。
それを悟られないよう、明るい話題をと小紅が口を開いた瞬間、ゴンッ!と痛そうな音が響いた。
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