惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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決断と再会

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 歌磨呂は俺の熱い視線に気づき顔を上げ「ど、どうかしましたか?」と首をかしげる。考える邪魔をしたな。


「いや、何でもない。気にするな」


 すまん。あまりにも見つめすぎて歌磨呂の綺麗な顔に穴が開いてはいかんからな。視線を、竿から伸びる糸の先の湖面に向ける。


「…………今は、ですけど。本音を言ってしまえば、私は“私”のままでいたいです。“橘時久”という、名前しかわからない男性を見つけなければならない。理由も誰なのかもわからなくて心が病みそうでした。でも、今の生活がとても、楽しいですから」


 歌磨呂は申し訳なさそうにそう言うと、軽く頭を下げた。


 謝る必要などない、正直な気持ちを伝えることは良いことだ。特に、自分より強い者を前に正直になれる者はなかなかに少ない。自分を誇れ。


「かまわぬさ。最終的にお前がお前として“不和歌磨呂”であり続けることを選ぼうが“酒呑童子”を受け入れ目覚めさせることを選ぼうが、俺はお前を咎めたりはせぬ」


「約束、してくださいますか?」


「あぁ、約束しよう。鬼の、惰眠童子の名に懸けて」


「クスクスッ……格好いいですね、ありがとうございます。明日の夜、またここに来てくださいますか?必ず、結論を申し上げます。不和歌磨呂の名に懸けてお約束いたします」


 酒呑童子はそんなに可愛く笑わない。その笑顔は、まぎれもなく人間、不和歌磨呂の屈託のない笑顔。眩しいな。眩しすぎて、無理矢理にでも酒呑童子を復活させたいという俺の心が揺らいでしまう。


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