惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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約束

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 運動が嫌いなこの俺が腕を振り乱し、大股で走る。全速力で、自分でも初めてのスピードに体が悲鳴を上げる。


 知るものか。ついさっきまで歩いてきた道をひたすら駆け、ちゃんと呼吸をしていたのかも怪しいほど夢中で走った。


「やめろぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉっ!!!!」


 酒呑童子の家が見えその姿を見つけた瞬間、俺はある男に走るスピードをそのままに飛び蹴りを食らわした。


 討伐部隊のリーダーらしい、最初に声をかけてきた男。源頼光は、全身から血を流しぐったりしている酒呑童子の首を今まさに斬り落とそうとしていたのだ。


「ば、か、野郎……なんで、戻っ…………逃げ……殺さ、れ……」


「俺だけ助けて格好つけたつもりか?お前こそ馬鹿野郎だ。っ、ふ……」


 壮絶な光景だ。茨木童子を含め、酒呑童子以外の鬼はすでに全員がこと切れている。家は焼かれ、近くの木々はなぎ倒され地面は子供が粘土遊びをしたかのようにめちゃくちゃになっている。


 酒呑童子は両腕を斬り落とされ、腹や胸に槍が数本刺さっている。これではさすがの鬼でも、助からない。


 まだ討伐部隊のやつらはすぐ近くにいるというのに、涙が止まらない。腕に抱いた彼の、血に濡れた顔に涙がポタポタとこぼれ落ちる。


「死ぬな、酒呑童子……嫌だ……俺っ、これから、どうすれば……」


 ずっと酒呑童子に依存した暮らしばかりを送ってきた。なのにいきなり彼がいなくなるなんて、考えたこともなかった。


 まだ町にも馴染めないというのに、これからは1人で生きていけというのか。


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