惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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親友と金魚のフン

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 彼の死を感じたのに、鬼の長は長というだけあって治癒力も高い。折れた骨は多少気にしつつも、枝を抜いた後の傷や切り傷などはすぐに塞がってしまって。


 俺が「この、大馬鹿鬼がっ」と声を震わせれば、安堵した彼は笑みを浮かべて立ち上がった。


 血を流しながらどこかへ歩いていく彼の背中に嫌な予感を感じついて行こうとすれば「来るな」と、足を止められる。低い声、鬼の長の力。


 茂みの向こうへと姿を消した酒呑童子。直後、複数の悲鳴が聞こえた。胸の奥がゾワゾワする。だめだ、彼を止めなくてはと駆り立てる。


 俺はかろうじて動く手を素早く薙いだ。長く伸びた爪で足を斬りつけ、激痛で崩れ落ちた俺は彼の呪縛から解かれ走る。向かったのは、悲鳴が聞こえた場所。


 俺達がよく集まる広場だ。そこに、酒呑童子がいた。俺を崖から蹴り落とした男がいた。他、茨木童子を含めた仲間の鬼がいた。一瞬だった。


 無言で、殺した。殺そうとしたのだから殺した。一撃で男の左胸を貫いた、真っ赤に染まる手を見せつけるように振り返った酒呑童子。


 その場にいた誰もが、こいつは自分達の、鬼の長なんだと震えあがった。殺すことなんてたやすい。ピタリと、俺への嫌がらせが止んだ。


 あの時の酒呑童子の姿は、千年が経った今でも忘れられない。


 強すぎる、深すぎる憎悪と怒り。そして、その奥にわずかに感じる、悲しみ。冷静に、長として責任を持って手を下した。


 男の悲鳴以外は静かな時だった。酒呑童子は男の遺体を抱いて、山奥に消えた。きっと、釣って食った魚の残骸のように弔ったのだろう。


 俺が来るまではあの男も、他の鬼達と変わらない普通に酒呑童子と酒を酌み交わす鬼だった。俺が来たから、とは彼のためにも思いたくないが。


 翌日の朝、静かに戻ってきた酒呑童子はベロベロに酔っぱらっていた。目元を腫らして、どこか疲れていた。俺は、盃を手に「朝から臭いぞ」と彼の隣へ。


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