惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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親友と金魚のフン

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 酒呑童子の大事な竿を、壊したくなかった。ここぞとばかりに獲物は遠く深くへと逃げ、今度は俺が引っ張り込まれそうになる。


 池の際からつま先が出て最悪を予感したその時だった。彼の右腕が俺の腰を抱き寄せ、左手が糸を素手でつかみ手繰り寄せ獲物を引き上げてくれた。


「よくやったな!大きさはまぁまぁだが、こいつは滅多に釣れねぇ魚だ。初めてにしちゃあ上出来だぜ」


 俺の手の平を4つ並べたくらいの大きさの魚の尾をつかみ、俺の手に握らせる。ズッシリ重い。


 これを俺が釣ったのか?手が震える。魚がビチっているからじゃなく、感動というか興奮で心臓の高鳴りが治まらない。


 何より、酒呑童子がまるで自分のことのように喜んでくれる。「俺様の教え通りにしたからだ」とか「次はヌシを釣ってみろ」だとかふざけたことを言っているが。


 実際に吊り上げたのは俺ではなく、酒呑童子だ。なんならついでに、魚に負けて池に飛び込みそうになったかわいそうな俺を助けてもくれた。


 俺の背中をバシンバシン叩きながら、底抜けに明るく笑ってくれる。それが俺は嬉しくて、胸の奥が温かくなった。自然と、笑みがこぼれる。


 楽しいと、思った。釣れる感覚が、なんとなく面白い。だから俺は、その日の最後に酒呑童子にこう言ったんだ。


「腕と足と腰が痛い、筋肉痛になる。だが、楽しかった。また釣り相手がいなくて寂しいようなら、俺の気が向いたら相手をしてやってもいい」


 すると彼はクスッと笑い、俺の頭をワシャワシャと乱暴に撫でた。


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