惰眠童子と呼ばれた鬼

親友と金魚のフン

１P

「よーぉ、また寝てやがるな。よっし……」


「起きている、蹴ろうとするな。今日は何だ？勉強か、山の散策か？」


　初めて出会ってから数十日が過ぎ、今日もまたアイツが来た。もう目を開けなくても気配で何をしようとしているのかがわかる。


　目を開ければ、片足を振り上げた酒呑童子が「あ、おはよう」と足を下ろした。寝ている者を起こす手段は暴力しかないのか？


「ちぇ……今日は釣りだ。良いとこ育ちのお坊ちゃまは釣りなんてやったことがないだろう？」


「……お前、俺が最近何て呼ばれているのか知っているだろう？釣りなんて俺には無理だ」


「嫌だね。誰も付き合ってくれなくなったんだ、今日からはお前が俺様に付き合え。心配すんな、手取り足取り教えてやるよ」


「結構です」


「あーもう！つべこべ言わずに、行くったら行くんだよ！寝てばっかりいると背中に苔が生えるぜっ」


　嫌がる俺を背後から羽交い絞めに。そのまま引っ張って、強制的に外へと連れ出す酒呑童子。自分で作ったのだという、その割にはかなり本格的な竿を２本手にズンズン歩く。


　わかった、付き合ってやるからと言ってやっと解放してくれたと思ったら。今度は手をつかまれて放してくれない。つかまれている手首が痛い。


　俺はこの頃から酒呑童子や他の鬼達、俺のことを知っている町人から惰眠童子と呼ばれるようになった。


　いつでもどこでもいくらでも眠れる。俺のちょっとした長所、だ。眠る時間を制御できないのが難点だが、眠りが深すぎて死体と間違われたことが多々ある。