惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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遠い昔の思い出

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 そして次の瞬間、背中に焼けるようなすさまじい痛みが走り、後ろから首をつかまれうつぶせに押し倒される。派手な男が背中にのしかかり、俺の右腕を引きちぎろうと引っ張る。


 痛いなんてものじゃない。肩のあたりでミシミシと筋肉がちぎれる音が、男がつかんでいる手首の骨が折れる音が体の中で響き、苦しくて絶叫もできない。


 ただただとんでもない痛みに涙を流し、体を仰け反らせることしかできない。この男、もしかしてこの辺りによく出没すると言われている本物の鬼か?


 そうでなければ人間の腕を引きちぎろうなんてできるはずがない。ましてや俺の腕をつかんでいる手の先にある長い爪が、普通の人間のそれであるはずがない。


 最初の背中の痛みは、その長い爪で抉られたからだろう。俺はこの鬼に殺されるのか?食われてしまうのか?


 鬼になってしまった以上、人間の世界で生きていくことはできない。1人で生きていけない。孤独。ならいっそ、この鬼に食われて死んでしまいたい。俺はそう思った。


 だから何も抵抗せず、死を迎える。はずだった。頭の中に琴音の声が響くまでは。


 将来を約束した恋人の琴音の声が、俺の頭の中で「死んじゃダメ。私の分まで生きるって約束したでしょ!」と叫ぶ。


 その声に俺はどこからか力が湧いてきた。髪の毛の先からつま先の爪まで全身に不思議な力がみなぎり、グルンッ!と身をひねった。


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