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不和歌麿呂
4P
しおりを挟む金を持ったところで、使わぬからな。家を出ることもほとんどない。食料はキツネが定期的に持ってきてくれる。物欲もないのだからそれで十分だ。
小娘の一件が終わればまた引きこもり生活に戻ろう、そう思っていたのに。3年は寝ようと考えていたのに。
折り畳まれた張り紙を開き、ゆっくり読み返す。何度読み返しても、そこに書かれているのは不和歌磨呂が1人の男を探しているということだけ。
その男の容姿や年齢、特徴、いつから、なぜ探しているのか、歌磨呂がその男とどういう関係なのかも、一切が書かれていない。
はたから見れば探す気のない、適当なもの。だが俺にはわかる。歌麿呂の、もどかしくも必死な想いが。
わかるのだ。歌麿呂はこの男の事は、名前しか知らないのだと。なぜなら不和歌磨呂は、この男に会ったことがないのだから。
俺の予測が合っているかは、直接本人に聞いて確認するしかない。怖いな。怖い?この俺が、事実を知るのが怖いだと?否。ワクワクしている。胸が高鳴っている。
ワクワクして胸が高鳴っている、なんて見た目にはわからないかもしれないが、これでもかなり興奮している。
なんて言えば、キツネならば「いつも以上に無表情すぎてわからないのじゃ」とか、笑われそうだな。いや、もしかしたら何も言えずにドン引きか。
どっちにしても殴ってやる。この想いは誰にも、1番付き合いの長いヤモリにもわかるまい。
不敵に笑みを浮かべ、俺は張り紙を折りたたんだ。
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