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不和歌麿呂
1P
しおりを挟む「あっ、おい、どうしたんだよ!?」
見間違いかもしれない。そう願って席を立ち、無我夢中で張り紙に飛びついた。途中で他の客の机を蹴ったかもしれない、すまん。
俺の目は、張り紙しか見ていなかった。他の客を踏むようなことはなかったと思うが、足元も何も確認する余裕もない。
慌てて和比呂もついてきて、張り紙を見つめる。眉間にシワを寄せて「知っている人か?」と聞いてくるが、知っているも何も……
「和比呂。不和歌磨呂の記憶を消すのは止めだ」
「はぁ!?おまっ、このクソ忙しい時にわざわざ時間を作ってここまで来てやったっていうのに、いきなりキャンセルだと!?馬鹿か、馬鹿なんだな。寝すぎて馬鹿になったんだなっ」
怒り全開で俺の襟をつかむ和比呂の気持ちもわからんでもない。だが、今回ばかりは勘弁してほしい。
店内を盲目的に走った俺の直後に声を荒げる和比呂に、客がざわめきだした。俺は張り紙をはがして席に戻った。座った途端に和比呂に張り紙を奪い取られ、上げた顔をうつむかせる。
サラリと肩から流れ落ちるグレーの長髪が目の前を暗く、けれど逆に俺の心は光がさす。
ずっとずっと、とてつもなく長い間曇天だったところに一筋の細い光。この光が、俺を嘲笑う幻でないように。そう願いながら、ギリッと歯を食いしばる。
「わけを言え、わけを。あんたがそこまで感情的になるくらいの、よっぽどな理由があるんだろう?」
勝手なことを言う俺に振り回される和比呂は湧き上がる怒りを飲み下し、お冷を一口。落ち着いて俺にそう尋ねるが、黒真珠のような目はしっかり俺を睨みつける。
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