惰眠童子と呼ばれた鬼

繋がる生

８P

　キツネが荷物を回収すれば、あとは和比呂が売り家にするなり別荘にするなりするだろう。面倒くさいのは嫌いだ。全部、和比呂に押し付ける。


「気が向いたら墓参りに行ってやる」


　誰が聞いているわけでもなくそう言い残し、俺は自分の家へと帰った。ヤモリが待っている、あのボロボロの小屋も同然の家に。


　黙って出てきてしまったが、まぁキツネならわかるだろう。いつものことだしな。あいつはしばらく小娘の死を引きずりそうだが、１週間もすればまたうるさくなる。


　和比呂は、明日にでも会いに行くか。あれこれ押し付けて忙しいが、まずはあの不和歌磨呂の記憶を消してもらわねばならん。


　俺でも小娘の死を悲しんでいなわけではない。心境の変化というものも、あった。あの子の生きざまに、必死なまなざしに、強い瞳の力に、心惹かれるものがあった。


　ただ俺は、あまりにも多くの死を見過ぎた。人間はもろく弱い。すぐに死んでしまう。


　いちいち悲しんでいては先へは進めぬ。俺は、俺にはやらなければならないことがあるのだから。アイツを、待たなければ……


　たとえアイツが俺のことがわからなくてもいい、俺はアイツを見つける。何年かかってでも、必ず見つける。


　それがアイツと交わした約束。遠い遠い昔に交わした、古い約束。


　小娘のことはこれからも覚えているだろう。２０××年に俺を叩き起こした、死神憑きの不幸な小娘がいたと。朝霧神那。１８歳の、諦めが悪く気が強いツンデレな女。


　和比呂が死んでもキツネが死んでも、その扱いは変わらぬ。