惰眠童子と呼ばれた鬼

繋がる生

３P

　――夜。晩飯を食い終わって池のほとりで月を見上げていると、キツネが呼んだ。小娘が、俺と２人きりで話がしたいとか。


　部屋に行くと、小娘は嬉しそうに笑った。枕もとに座ってやればモゾモゾと俺の方を向き、俺の手に何かを握らせる。また、勝手に触れたな。


「あたしの部屋の、引き出しの鍵。そこに報酬を入れてるから、あたしが、ゴホッゴホッ！し、死んだら……」


「あぁ、わかった。話はそれだけか？」


「冷たいわ、ね。ゴホッ！ゴホッゴホッゴホッゴホッ！ならもう少し……手を、握ってても、いい？」


　俺の手を握る小娘の手に、少しだけ力が込められる。不本意ながらにも俺は、小娘の手に自分の手を重ねた。そうしなければ小娘の手が離れてしまうから。


　驚いた小娘は、やがて震え始めた。うつむき、小さな声で「怖い」と呟く。


　死が怖い。やり残したことはたくさんある。死にたくない。嫌だ。嫌だ。どうして自分が。嫌だ。生きたい。


　一層白くなった頬を濡らし、胸の内に留めておいた本音が口からこぼれる。止めどもなくあふれ出る涙、本音。


　アイツと朔以外、誰の死にも付き添ったことがない。戦で大人数の死を横目で見たことはあるが、ここまで１人の死に寄り添ったことなどない。


　運命を受け入れている小娘に「死ぬな」とは言えない。どうすればいいのかわからず、俺はグイッと小娘の手を引いた。小娘の不細工な泣き顔は見たくない。


「お前が生まれ変わったら、また関わってやってもいい。俺はお前を忘れない。この俺を叩き起こした、身勝手な暴力女だからな」


　軽い。抱きしめる腕にあと少し力を加えれば、あっけなく潰れてしまいそうなほど、今の小娘の体はもろく儚い。