惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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偶然は必然

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 ヌッと前傾し背筋を伸ばすと「ふぅー」と息を吐き、目を閉じる。錫杖を放り捨て、2枚の札を口に咥えて全神経を集中。


 黒キツネが咆哮を上げ、猛突進してきている。チャンスは一瞬だ。体中で滾るものが最高潮に達した瞬間、カッと目を開いた。


 全ての力を開放し目の前に迫ってきている黒キツネの鼻というか上顎をつかみ、グンッ!と上に引き上げる。もう片方の手で札を2枚とも口の奥へと突っ込んだ。


 腕を食いちぎられる寸前に引き抜き、下顎を殴り上げ、異様に伸びた太く鋭い爪で前足を斬りつける。


 さらに横に跳び腰のあたりに回し蹴りをお見舞いすると、再び爪で後ろ足を深く抉る。2秒とかからぬ、早業だろう。


 これでも手加減をしている。いや、力加減に気をつけなければ、うっかり殺してしまうからな。


 ドシンッ!と地を揺らすほどの衝撃で倒れた黒キツネの顔側にまわり、今度は両腕を回して口を開かないように抑え込む。


 不味いからといって札を吐き出すなよ?安倍の力が健在なら、キツネにとり憑いた黒いモヤの正体がそろそろ姿を現すはずだ。


「グゥゥッ、グゥゥゥゥゥゥッ……!!」


「そうかそうか、苦しいか。だが離してやるわけにはいかん。楽になりたければさっさとキツネの体から出ていけ。それとも、苦しみながらこの俺と根比べ、力比べしてみるか?俺は負けぬぞ?」


 俺の腕を振りほどこうと暴れる黒キツネ。大きな尾を振り回し、近くの木々をなぎ倒す。バタバタと前足後ろ足を踏み鳴らせば小さな地震が。


 口を開いて俺の喉に食らいつきたいか?やめておけ、無理だ。ガッチリ抱え込んでいる、今の俺の両腕はほどけまい。


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