惰眠童子と呼ばれた鬼

那月

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偶然は必然

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「何あれ……孤吉君、なの?」


「っ、はぁっ、はぁっ……和比呂、お前の錫杖を借りるぞ」


 和比呂の手から錫杖と札を奪い、本来の姿からだいぶグレードアップした姿に変わったキツネに目を向ける。あいつの意識はもうない、か。


 体の大きさは4、5メートル、尾を含めればその倍くらいの大きな化け狐。


 純白がご自慢の体毛は真っ黒に染まり、体全体を黒いモヤが包んでいる。ルビーのような瞳も漆黒に染まり、中央には黒い炎がゆらめいているのが見える。


 獰猛な狼のように低く唸り突進してきた黒キツネに錫杖を向け、最大まで引き付けて一気に横に薙いだ。


 錫杖は的確に黒キツネの高い鼻をぶっ叩き、それだけにはとどまらず前足を払い転倒させる。それから背後に回ってもう1発――殴り飛ばそうとして、俺の体が吹っ飛んだ。


「グオォォォォォォオオォォォッ!!!!」


 振り回された巨大な尾が俺の体に直撃し、背中をモロに岩に打ち付け息が詰まる。開いた口から赤い塊が飛び出した。


 目の前が真っ赤だ。さっきの、腹の穴から血が吹き出して貧血でフラつく。だが、立ち止まってはいられない。


 小娘が何か泣き叫んでいるようだが、血を吐き岩に体を預けたまま空を見上げる俺には聞こえない。聞く気がない。


 面倒くさいからと手を抜いて、キツネが自力で戻るのを待つのはもう無理だな。長引かせる方が面倒くさい。少しは飼い主らしく、責任をもって下僕を助けてやろう。


 これは数百年ぶりに、ハメをはずしてみるか。


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