惰眠童子と呼ばれた鬼

あきづき

６P

「…………はっ！？ま、待ってろ、文献を調べてくる。くそっ、マジで生きているだなんて聞いてねぇぞっ……！」


　我に返った少年が声を震わせる。焦りと怒りと、それをはるかに上回る興奮を隠しきれていない。一瞬見えた彼の横顔は、広角が上がっていた。


　ドキドキワクワク、といったところか？悪態を吐いているが、まぁ嬉しそうだな。力任せに抜いた錫杖を手の平サイズまで戻すと落とした。


「早くしないと寝るぞ」


「寝るな！！ここで、起きて待っていろっ」


　そう叫び残して少年は、扉の向こうへと飛び込んでいった。俺の姿の特徴を覚えていないのか。引き継ぎが甘いな。


　俺の存在、ご先祖様が昔々に交わした約束のことは知っているようだったが。はっきり言おう。俺は、惰眠童子は今こうして生きている。


　そういえば少年は制服姿で、明らかに遅刻覚悟で登校途中って感じだったが。学業よりも俺を選んだのは、正解だったな。


　突然襲いかかってきたのはともかく、そこは褒めてやろう。いや待て。襲いかかってきたのは「これもしきたり」だと言っていたな？


　なら、俺が訊ねてきた時の挨拶代わりってことか？ほぅ。なら、そのしきたりを考えたのはアイツだな。あぁ、腹立たしいほどにアイツらしい。