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ナツメと安倍晴明
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しおりを挟む「だってあたしは晴明様が作ったヒトガタ、式神だもの。心を壊し、式神本来の状態に戻れば晴明様に教わった術が使える」
「ナツメッ!!ごめんっ…………そんな辛いこと、言わせるつもりじゃなかったんだ。本当は、本当は俺……」
ハッとした彼の顔は今にも泣いてしまいそう。声も震えていて、ゆっくり伸ばされた右手は無表情のあたしの頬を撫でた。
あたしは晴明様の式神。マクベスのように元々が人間ですらない、ただの紙切れ。心なんて最初から持ち合わせていないのよ。
晴明様の手足になって従順に任務をこなす。晴明様の命の危機ともなれば手足を失おうと飛び出し身代わりになる。
式神として紙切れから人間のような体が作られ、名前が与えられた。それからしばらくは心――感情のない、動いてしゃべるだけの人形だったわ。
でもある日、本当に唐突に晴明様があたしに“人間”を与え始めたの。
喜怒哀楽の感情も様々な表現も全て知識として教わった。本当は何も感じないのに、あたかも人間と同じ心があるように振る舞うことを覚えた。
晴明様達“人間”の世界のことを学んだ。与えられた知識を、学んだことを晴明様に成果として見せるととても喜んでくれたわ。
嬉しい。それが、あたしが初めて実感した感情。晴明様の喜びがあたしの喜び。
天才が故なのか、ただの性格か晴明様はオトモダチっていうのがいなかったみたいだし。複数の敷き紙で遊ぶのを楽しむ寂しい人だったけど。あたしに“人間の心”を作って友達にでもしたかったのかしら?
それからは下り坂を駆け下りるように早かったわ。すぐに“もっと知りたい”と向上を求める意思が芽生え“もっと晴明様に喜んでほしい”と必死になった。
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