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第十七話 大好きだから①
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部屋に美味しそうな匂いが漂っていたので、荷解きもそこそこに夕飯にすることにした。
ローテーブルに並んだ豚肉の生姜焼きとほうれん草の胡麻和えを口に運ぶ。美緒さんはいつも俺の作る料理を「どうしたらこんなに美味しく作れるの?」と言いながら食べるけれど、彼女自身もかなり料理上手だ。ご飯が進む。
「私の兄、小説家なの」
「え、そうだったんですか!すごいですね」
「でもその…だから夏目さんは兄のスランプ脱出のきっかけ作りに私との噂をわざと流してたってことらしくて」
美緒さんは苦虫を嚙み潰したような顔をしながらも、詳しく説明してくれた。
「夏目さんには、私と矢野くんが揃ってるところでちゃんと謝ってもらうから」
「まあ…俺はそんなに影響なかった人間なんでどちらでもいいですけど」
正直言うと夏目さんのことよりも、美緒さんのあまり見たことがない怒った表情が可愛かったということと、お兄さんがどんな小説を書いているのかということの方が気になっていた。
しかし、「でも、矢野くんのことも不安にさせたんじゃないかなって思って。ごめんなさい」と謝られて、ちょっと首を傾げる。
「俺、別に不安に思ってませんでしたよ」
「え、でも、夏目さんのこと気にしてるみたいだったから…」
「いや、単純にめちゃくちゃ仲良さそうだなと思っただけで。さすがに美緒さんの頭撫でようとしてるの見たときは、『それは俺しかしちゃいけないやつ!』と思いましたけど」
「でも、出張の前の日の夜も、その…」
「前の日の夜?」
「……う、いや、なんでもない」
「…なんですか?」
急に視線をうろうろと彷徨わせて、「麦茶でも飲む?」と無理矢理話題を変えようとするから、その顔をじっと見つめ、「気になるんですけど」と詰め寄ると、美緒さんは観念したように目を伏せてから、ぽつりと言った。
「…いつもみたいにぎゅってしないで寝ちゃったから」
その言葉に、思わず箸を落としそうになる。
確かにいつも一緒にベッドに入るときは、俺が美緒さんを後ろから抱き締めるようにして眠りにつくことが多い。でも、あの時はそうしなかった。それについて、俺が夏目さんのことでもやもやと不安になっているからしなかったんだと思ってたってこと?
「…いや、発想が可愛過ぎません?」
「…可愛いとかじゃなくて!本当にそう思ったんだもん」
「あの時 くっついて寝なかったのは、次の日の朝が早かったからですよ。いつもみたいに抱き締めて寝たら、俺が起きるタイミングで美緒さんのことも起こしちゃうと思ったから」
俺が最後まで言い終わらないうちに、美緒さんは、「あー!もう!」と両手で顔を覆う。耳が真っ赤だ。その姿があまりにもいじらしくて、顔がにやけてしまう。
「俺、美緒さんのこと大好きだから。そういう心配はしなくて大丈夫です」
「…私は矢野くんのこと大好きだからこそ、もし他の人と矢野くんが噂になってたら、もやもやするけどなぁ」
「でも俺が美緒さん以外の人にいくなんてありえないでしょ。そう思いません?」
「……思う」
「ね?」
箸を置いてから、手を伸ばして頭を撫でると、美緒さんは俺のことを横目で見ながら、頬を赤らめたままちょっと不満そうに言った。
「この間、矢野くんが『夏目さんは、自分が知らない私のことを知ってるから悔しい』って言ったけど、『矢野くんにしか見せてない私』の方が、多分いっぱいあると思うよ」
「俺しか見たことない美緒さん?」
「うん」
「…それってなんか…いろんなこと妄想しちゃうんですけど」
一瞬きょとんとした後、その言葉の意味を理解したのか、美緒さんは「そういう意味で言ったんじゃないってば!」と俺の肩をばしっと叩いた。
ローテーブルに並んだ豚肉の生姜焼きとほうれん草の胡麻和えを口に運ぶ。美緒さんはいつも俺の作る料理を「どうしたらこんなに美味しく作れるの?」と言いながら食べるけれど、彼女自身もかなり料理上手だ。ご飯が進む。
「私の兄、小説家なの」
「え、そうだったんですか!すごいですね」
「でもその…だから夏目さんは兄のスランプ脱出のきっかけ作りに私との噂をわざと流してたってことらしくて」
美緒さんは苦虫を嚙み潰したような顔をしながらも、詳しく説明してくれた。
「夏目さんには、私と矢野くんが揃ってるところでちゃんと謝ってもらうから」
「まあ…俺はそんなに影響なかった人間なんでどちらでもいいですけど」
正直言うと夏目さんのことよりも、美緒さんのあまり見たことがない怒った表情が可愛かったということと、お兄さんがどんな小説を書いているのかということの方が気になっていた。
しかし、「でも、矢野くんのことも不安にさせたんじゃないかなって思って。ごめんなさい」と謝られて、ちょっと首を傾げる。
「俺、別に不安に思ってませんでしたよ」
「え、でも、夏目さんのこと気にしてるみたいだったから…」
「いや、単純にめちゃくちゃ仲良さそうだなと思っただけで。さすがに美緒さんの頭撫でようとしてるの見たときは、『それは俺しかしちゃいけないやつ!』と思いましたけど」
「でも、出張の前の日の夜も、その…」
「前の日の夜?」
「……う、いや、なんでもない」
「…なんですか?」
急に視線をうろうろと彷徨わせて、「麦茶でも飲む?」と無理矢理話題を変えようとするから、その顔をじっと見つめ、「気になるんですけど」と詰め寄ると、美緒さんは観念したように目を伏せてから、ぽつりと言った。
「…いつもみたいにぎゅってしないで寝ちゃったから」
その言葉に、思わず箸を落としそうになる。
確かにいつも一緒にベッドに入るときは、俺が美緒さんを後ろから抱き締めるようにして眠りにつくことが多い。でも、あの時はそうしなかった。それについて、俺が夏目さんのことでもやもやと不安になっているからしなかったんだと思ってたってこと?
「…いや、発想が可愛過ぎません?」
「…可愛いとかじゃなくて!本当にそう思ったんだもん」
「あの時 くっついて寝なかったのは、次の日の朝が早かったからですよ。いつもみたいに抱き締めて寝たら、俺が起きるタイミングで美緒さんのことも起こしちゃうと思ったから」
俺が最後まで言い終わらないうちに、美緒さんは、「あー!もう!」と両手で顔を覆う。耳が真っ赤だ。その姿があまりにもいじらしくて、顔がにやけてしまう。
「俺、美緒さんのこと大好きだから。そういう心配はしなくて大丈夫です」
「…私は矢野くんのこと大好きだからこそ、もし他の人と矢野くんが噂になってたら、もやもやするけどなぁ」
「でも俺が美緒さん以外の人にいくなんてありえないでしょ。そう思いません?」
「……思う」
「ね?」
箸を置いてから、手を伸ばして頭を撫でると、美緒さんは俺のことを横目で見ながら、頬を赤らめたままちょっと不満そうに言った。
「この間、矢野くんが『夏目さんは、自分が知らない私のことを知ってるから悔しい』って言ったけど、『矢野くんにしか見せてない私』の方が、多分いっぱいあると思うよ」
「俺しか見たことない美緒さん?」
「うん」
「…それってなんか…いろんなこと妄想しちゃうんですけど」
一瞬きょとんとした後、その言葉の意味を理解したのか、美緒さんは「そういう意味で言ったんじゃないってば!」と俺の肩をばしっと叩いた。
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