あの人と。

Haru.

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After Story

変わる世界

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 あの日の夜、世界中の神殿に神託が下された。

『我のもとでは種族に関わらず皆が等しき尊い命。これより獣人を人間の都合で軽んじることは禁ず。ひと月のうちに全ての獣人を解放し改心せん場合、神罰が下ると心得よ。我は世界の全てを見ている。誤魔化しなど通用せぬ。──私は既に怒っているから、早く解放した方が身のためだよ。ちなみにドワーフやエルフも含めた他種族を虐げるのも許さないからね』

 なんていう内容で、最後の方に神様らしさが出ているなぁって思った。

 まぁ神様から実際に獣人をこれ以上差別したら許さないよって言われてしまったものだから世界はてんやわんや。特に奴隷制が残っていた国ではだいぶ騒ぎになったみたいだけど、最初神託を軽んじて従わなかった国がものすごい天災に見舞われたことでみんな右にならえ状態でなんとか獣人は解放され始めている。

 解放された獣人は各地に散らばる神殿の手助けでルリの作った国へ送り出され、じわじわとルリの国に獣人が集まっているようだ。

 神殿はもともと、獣人を人間が従えてるのっていいの……? 何も言われてないってことはいいんじゃない……? いやいやでも……みたいな感じで獣人が差別される現状に首を捻ってるか、どんな命も等しい! と言う考えを持っているか、と言った状態だったらしくて神様から実際に神託をもらったら一気に方向性が定まって獣人にかなり協力的らしい。良いことです。

 僕も、僕宛に集まった寄付金は獣人達を助けるためにいくらでも使ってね! ってヴォイド爺を通して世界中の神殿に通達してもらって、微力ながらも神殿の動きを後押し中。世界中から届いた説明を求めるような書簡には、神託が全てだという返事を返している。

 そんなこんなで混乱しつつも世界があるべき姿に急速に変わりつつある。まだまだ課題はあるだろうけど、ひとまずは安心、かな。

 ちなみにルリが作った国は世界の中央のどの国にも属していなかった土地のど真ん中にできたらしい。今はどこの国からの使者も受け入れずに、国を作り上げることに専念しているようだ。

 というのはルリから届いた手紙で知った。庭を散歩していた時、白い鳥が飛んできたなぁって思ったら僕の目の前でポンッと手紙に変わったんだ。嫌な気配はしなかったから手に取って中を開いてみたら多分誰かが代筆した文章とルリの肉球のスタンプがあって、ルリからだと理解した僕はダグと喜んだものだった。だって僕達からはどうやってルリと連絡とったら良いのかもわかんなかったしね。

 手紙には僕達からルリに手紙を出す方法も記されていて、僕とダグは急いで手紙を書いた。内容は体調を崩してないかとか、疲れたらいつでも戻ってきなさいとか、僕達の力が必要ならいくらでも頼りなさいとか、そんな感じ。立派に育ったとはいえ、僕もダグもルリが心配なのだ。だって、ルリは僕たちにとって大事な子供だもん。


 目まぐるしく変わる世界に、僕はルリと獣人達の無事を祈るしかなかった。そんな中、プチ事件です。

「神子様! 神子様とダグラス様に会いたいとドワーフが謁見の間にいらしております」

「え」

 たまたまお休みだったダグと顔を見合わせてから慌ててキッチリした服装に着替えて謁見の間に行けばそこには僕より少し低いくらいの身長で横幅は2倍以上ありそうないかにもなドワーフが5人いた。僕たちはロイの横に座るとドワーフ達に声をかけた。

「お待たせして申し訳ありません。神子のユキヒト・アズマ・リゼンブルです。こちらは僕の伴侶のダグラスです」

「俺はゴードンだ。すまねぇ、俺たちドワーフは堅苦しい話し方が苦手なもんでこのままいかせてもらうぞ」

「ええ、構いませんよ。ドワーフの皆さんに会えて嬉しいです。ですが、あなた方は人間の元へ来る事を嫌っていたのではありませんか?」

 会ってみたかったドワーフに会えて嬉しいけど、集落の場所がバレたりとか危険がないのか心配です。

「俺たちは集落を守るためにも人間にバレねぇように今までは生きてきた。だが、ルリ坊が獣人の国を作るって言ったのをきっかけに神がどの種族も平等だと神託を下した。俺たちも、今までみたいに隠れて生きなくてもいいんじゃねぇかって思ってな。ルリ坊も頑張ってるし、俺たちも徐々にだが表に出てみるかってなったんだ」

「……ルリはあなた方の生活も変えたのですね」

「おう! ルリ坊は凄いやつだ。ルリ坊のおかげで世界がどんどん変わっていく。雪山で降ってくる雪を追いかけて遊んでたルリ坊がそんな大きな事を成し遂げたなんて信じられねぇさ」

 ハラハラと降る雪を追いかけるルリが容易に想像できて僕とダグは思わず笑ってしまった。すっかり凛々しい見た目になったけれどまだまだ子供の心も残っているルリは夢中になったらキラキラした目で無邪気に転げ回るんだ。言葉遣いも幼くなったりしていつまで経っても可愛いんだよね。

「ルリがあなた方にもいい影響を与えられたなら僕も嬉しいです。本当は僕がすべきだった事をルリに押し付けてしまった気がして申し訳なくもあるのですけれど……」

「ルリ坊は神子様の元で卵から孵ったと聞いた。神子様がいたからこそルリ坊の卵が出来て、神子様の魔力があったからこそ早く卵から孵ったと。最初からそういう運命だったんじゃねぇか? 神子が神獣を育てて、神獣が世界を変えるってな。もちろんルリ坊もやりたくなけりゃやらない道だって選べたんだ。今の道を選んだってことはルリ坊も望んでいることで、神子様が後悔することなんざひとつもないだろうさ。それに、ルリ坊なら神子様が申し訳なく感じるより、立派に育ってくれて嬉しいくらいに思ってたほうが喜ぶと思うぞ」

 ……そっか、ルリは世界を自分の見て、自ら望んで国を作ったんだよね。あの日のルリの目は強かった。嫌々じゃなくて、それが自分の使命だと感じているような、堂々とした強い目だった。親の僕が申し訳なく思ってばかりいたらまるでルリの活躍を応援してないみたいじゃないか。僕はルリの勇気を誇ってルリの活躍を応援し続けるべきだよね。助けを求めてきた時だけ目一杯の支援をしてあげるんだ。

「ありがとうございます。目が覚めました。ルリはもう、何も考えられない子供じゃないですもんね。ルリを信じて待つことにします」

「おう! それがいいさ。ルリ坊は強いからきっとすぐ元気な様子を見せにくるさ」

 ニカリと笑ったゴードンさんに僕も笑みが溢れる。そうだよね。きっとすぐ元気に駆けてきて美味しそうに果物を食べるルリが見れるよね。

「っと、本題を忘れるところだった。そっちが神子様の旦那でいいんだよな?」

「ああ。ダグラスだ」

「ふむ、ちょっとこっちに来てくれるか? ……流石神子様の騎士なだけあっていい身体してるな。お前さんならこいつを使いこなせるだろう。お前さんの希望をもとに打った一本だ。受け取ってくれ」

 そういってゴードンさんが取り出したのは漆黒の刃の綺麗な剣だった。僕はそれを見てちょっと微妙な気持ちになってしまう。というのもダグにちょっとほったらかされただけで拗ねて泣いて無視した記憶が蘇ってしまうから。……ちょっとくらいであんな拗ねて恥ずかしいことをしちゃったなぁ。

「なっ、ドワーフの剣を我が国の騎士に!?」

 驚いたロイに、ゴードンさんはけろっとした様子で言った。

「人間の間では俺たちドワーフが打った剣は権威の象徴だ何だってなってるらしいがよ、俺たちにとっちゃ打ちたい時に打つだけだ。気に入らねぇやつならいくら渡されても打たねぇし気に入ったやつなら材料費にちと足が出るくらいの値段で打つ。ま、そもそも俺たちが打つ剣なんてこいつみたいに強いやつじゃねぇと使いこなせないんだけどよ」

 なるほど、気に入った相手にだけ打つ……出回る本数が少ないわけだよね。それにダグくらい強くないと使いこなせないなんて、さらに使い手が少なくなるよ。だってダグはSランクの魔獣を余裕で1人で倒せるんだし……そんな人なかなかいないよ。今なら龍人にも勝つんじゃって薄々思ってます。

「……素晴らしいな。手にしっかりと馴染むし重心もいい。それにこの剣なら本気を出せそうだ」

「ははは! お前さん、普通の剣じゃ折れて本気を出せないくらいになってたんだろう。それなら俺たちが打った剣じゃねぇと使いものにならねぇさ。もう一本予備も持ってきてるがそっちも誰か必要な奴いるか?」

「団長が随分前から剣が脆いと言っているんだが……」

「んじゃそいつに渡すべきだな。呼べるか?」

「どうでしょう……今その方の奥さんが臨月で、側を離れようとしないんです。仕事中もずっと執務室に連れて行っているくらいで」

 今のアルバスさんがリディアの側から離れるとは思えない。

「ははは! そりゃいい! 嫁を大事にしねぇ奴は男じゃねぇ。気に入った。俺がそいつのとこに行こう。かまわねぇか?」

「あー、そうだな。ユキ、先触れは出しておくゆえ案内を頼んでもいいか? ドワーフには国は関係ないようだし私が出る幕はなささそうだ」

「ん、わかった。行ってくるね」

「ああ、頼んだぞ」
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