あの人と。

Haru.

文字の大きさ
上 下
379 / 396
After Story

甘やかす者達

しおりを挟む
「さて、綺麗な姿を見せてもらったし礼をせねばのぉ。ユキや、欲しいものはないか? どれ、爺が湖でも買ってやろうか?」

「なら私からは森林を」

「じゃあ俺はその近くの屋敷だな」

 ……このジジ馬鹿と親馬鹿2名を誰かどうにかしてもらえませんか……? さらっととんでもないことを言い出すし、冗談抜きでそれが出来ちゃうくらいの財力も権力も持ってるんだもん……放って置いたらとんでもないことになりそう……僕の領地とか知らないうちに出来てたりしないよね……?

「どれもいらないから! 貰っても困るだけだから!」

「しかしじゃな……」

「そう言うのはいらないから、また今度ゆっくりお茶でもしよ? 僕、みんなと過ごすの好きだよ」

 まぁ実はこれが1番贅沢な気がするんだけども……お金は確かにかからないけど、逆に言えば時間はお金じゃ買えないって言われるくらい貴重なものだし、国のトップに立つ人達の時間を貰うんだから物凄い贅沢だよね。

「もう、ユキは可愛いなぁ! そう言うことならいくらでもお茶しような!」

「まったく、相変わらずユキは無欲だな」

「そんなことないよ。みんなの貴重な時間を欲しいって言ってるんだから」

「確かに国のことがある故そう頻繁には難しいが、私達とてユキと会いたいと思っていることは同じことだ。ユキのために時間を作ることなど苦ではない」

 そう言いながら優しくポンポンと頭を撫でてくるロイにジーンってきました。こういうところはいいお父さんだなぁってなるのに、たまに暴走するってところが残念ポイントです。まぁ暴走したってロイ達を好きなことに変わりはないんだけどもね。

「ありがと。みんなでお茶できるの楽しみにしてるね。でも、無理はしないでね」

「ああ、わかった」

「ほほ、ユキの可愛いおねだりの為なら書類も真面目に片付けようかのぉ」

「僕お手伝いする? レイのお手伝いが少なくなったから時間いっぱいあるよ」

 正直な話、やることがなくて暇というかなんというか……何かできることが増えるなら嬉しいくらいなのです。

「気持ちはありがたいが、ユキと共に仕事となれば一日中休憩時間にしてしまいそうじゃからのぉ。気持ちだけ受け取っておくの」

 1日中休憩時間とは……でも確かにヴォイド爺なら僕がヴォイド爺の部屋に行った途端お茶にお菓子にとあれこれ出してきてそのままのんびり終わりのないお茶会モードになりそうかも……? リディア監視がいたら別だろうけどもね。

「そっかぁ。何かあったらいつでも言ってね」

「ああ、ありがとうな」

「さて、そろそろ夕飯の時間ではないか? ユキは今日はご家族と食べるのか?」

「うん! 僕とダグ用に用意してもらったこっちのご飯と、母さんの手料理とでみんなで分けながら食べるの! すっごくいい誕生日……あ、みんな誕生日プレゼントありがとう!」

「喜んでもらえたのならそれで良い。ほら、夕飯が冷めないように早めに戻りなさい」

「ん、そうする。じゃあまたね!」

「ああ」

 にっこり笑顔のみんなに手を振ってからダグとロイの執務室を後にしてのんびり部屋まで歩きます。……実はちょっと鼻緒のとこが痛くなってきちゃったからゆっくりしか歩けないのです……流石に今日はダグも慣れない格好だから抱えてもらうのは申し訳ないから頑張って歩きます! ……なーんて僕なりにバレないようにって歩いててもダグにそれが通用するはずもなく。

「ユキ、無理をするな。足が痛いのだろう?」

「う……でもダグも慣れない格好で大変でしょ……? ダグも鼻緒のところ痛くない?」

「ハナオ、とはどこのことか俺にはわからないが、痛くなっている場所はないぞ。それにこの格好にも慣れたから大丈夫だ。ほら、おいで」

「うぅ……ありがと、ダグ」

「ああ」

 帯を崩さないように、僕を腕に乗せる形でそっと抱き上げてくれたダグの肩に腕を回してホッと一息。そのままノシノシと歩くダグは僕と歩いていた時よりもはるかにスピードが速くて、本当にダグは着物にも慣れてしまったようです。凄いなぁ、僕は疲れちゃったよ。

 ダグに抱えてもらってからはあっという間に部屋に着いて、戻れば神様がのんびりカウチに座ってお茶を飲んでいました。

「おかえり」

「ただいま戻りました。もしかしてずっとこちらに?」

「いや、美加子達が一旦向こうに戻ったら私も一旦帰っていたよ。幸仁とダグラスが戻ってくるタイミングに合わせてまたこっちに来たんだ。幸仁とダグラスでは振袖は脱げないだろう? ある程度手伝おうと思ってね」

「そうだったんですね、ありがとうございます」

 まさか着替えを手伝うために来てくださったなんて凄い至れり尽くせり……でもたしかにこの帯を解いたり色々つけられた小物類と格闘するのは僕1人では厳しそうだから助けてもらえるのは有り難いです。

「さて、着替えるかい? 疲れただろう」

「そうします」

 着替えることになればダグがそのまま衣装部屋に連れて行ってくれて、続いて神様も入ってきたら足が痛いって言ったからかものすごく慎重に下されました。流石にただ立ってるくらいなら大丈夫だよ? 草履のまま歩くのはちょっと厳しいけど。

「先に衣桁いこうを出しておこうか。ついでにここも広くしてこれを飾れる場所を作って、と……これでよし。さて、幸仁腕を上げて」

「……はい」

 流れるように衣装部屋を広くして着物を飾っておくスペースを作ったことにはもう何も言うまい……きっと言ったところで笑いながらいいじゃないか、なんて言われるだけだもん……

 腕を上げれば神様がクルリと指を振り、その途端帯がシュルシュルと解けていって全て解けたら圧迫感が大分なくなりました。そのままあっという間に振袖を脱がせてもらい、長襦袢になったところで今度はダグのを脱がせて、同じようにダグも長襦袢になれば神様は出て行きました。僕達が嫉妬するから肌は見ないよってことみたいです。

 あとは僕でも脱ぐくらいはわかるから、パパッと着替えました。解放感がすごい……! だってお腹周りに結構な圧迫感があったもんね。すごく楽です。

 ダグも着替えたら長襦袢や肌着、そのほかの小物類を抱えて部屋へ。

「神様、長襦袢って着物と同じようにかけておくのです?」

「幸仁が眺めたいなら掛けてもいいけれど、湿気を乾かすという意味でなら浄化をかけたらそのまま畳んでしまって構わないよ。ほかの小物類も浄化をかけておけばいいだろう」

「わかりました。これも綺麗だけどしまっておくことにします」

「畳み方はわかるかい?」

「はい、大丈夫です」

 浄化をかけてからラグの上で手早く2つとも畳み、肌着や小物類も浄化をかけると神様がまた指を一振りして長襦袢も小物類も全部衣装部屋に吸い込まれるように飛んで行きました。神様の力を見てると僕も指をヒョイって一振りして何か動かしてみたくなるんだよね。時間はあるし魔法で真似できないか考えてみようかなぁ。

「これでよし。幸仁、何か欲しいものはないかい?」

「え、着物を頂きましたよね……?」

「あれは私が見たかったからというのが大きいからね。幸仁が欲しいものを別であげるよ」

 ……あのとてつもない額がしそうな着物を見たかったからって用意できるのがさすが神様というか……

「ふむ、ならキッチンなんてどうだい? 幸仁専用のキッチンを作ってあげよう。好きな時に料理が出来るようになるよ」

「え」

 今何かまたも桁違いのものを挙げられた気がして、数秒ほど現実逃避していると、我に帰った時には早くも部屋にドアが増えていました。

「神様……! そんなにホイホイと僕に与えないで下さい! 甘やかされすぎてそのうちバチが当たりそうです……」

「いいじゃないか。私の愛し子たる幸仁には私に甘やかされる資格があるのだから」

「うぅ、ありがとうございます。今度お礼に何か作りますね」

「それは楽しみだ。さて、私はこれで帰ろう。振袖が着たければいつでも呼ぶといい」

「ありがとうございます」

 最後にポンポンと僕の頭を撫でてからスッと居なくなった神様にもう1度心の中でお礼を言ってから母さん達が戻ってくるまでの少しの間、ダグとのんびり過ごしたのでした。

 僕の好物ばかりの夜ご飯は食べすぎちゃうほどに美味しかったです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王

ミクリ21
BL
姫が拐われた! ……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。 しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。 誰が拐われたのかを調べる皆。 一方魔王は? 「姫じゃなくて勇者なんだが」 「え?」 姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

追放されたボク、もう怒りました…

猫いちご
BL
頑張って働いた。 5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。 でもある日…突然追放された。 いつも通り祈っていたボクに、 「新しい聖女を我々は手に入れた!」 「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」 と言ってきた。もう嫌だ。 そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。 世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです! 主人公は最初不遇です。 更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ 誤字・脱字報告お願いします!

処理中です...