あの人と。

Haru.

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After Story

着物

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「ユキ、綺麗だ……紅と衣装の黒でユキの白さが引き立っているな。毎日でも見たいくらいだ」

「えっと、ありがと?」

 口紅を塗られたあと、改めてダグの方を見るとダグはふわりと破顔してそっと僕の頬に手を当てて愛おしそうに撫でつつ褒めてくれました。こんな反応が見れたならなけなしの男らしさを手放したことなんて些細なことです。

「ふふ、やはり綺麗だね。私の目に狂いはなかった」

「まぁ、ゆきちゃんたら口紅も似合うわね! とっても綺麗だわ! ああでも、ダグラスちゃんもお着物を着ていたら完璧なのだけれど……」

「ふむ、確かにそうだね。ダグラス、こっちへきなさい。着せてあげよう」

「は、私がユキと同じものをですか……? 流石に似合わないと思うのですが……」

「ダグラスに着せるものは男物に決まっているだろう? 柄もなく落ち着いた色の物だから安心しなさい。流石に私もダグラスに振袖を着せるようなトチ狂ったことはしないよ」

 ……振袖姿のダグ……流石にちょっと見たくないかな……それで出てきたらスッと目を逸らしちゃうと思う。ダグにはかっこいい姿でいて欲しいです……! 男物の着物なら大歓迎だよ。だって見たかった格好だもん。男らしいダグには絶対似合うと思うのです……!

 少し待っていると神様はすぐに出てきて少し遅れてダグも出てきた。グレーの着物に黒い帯を締めて着物よりも濃い色合いのグレーの羽織を羽織ったダグは語彙を失うくらいにかっこよくて……

「ダグかっこいい……」

「ん、ありがとな。キモノ、だったか? 初めて着たが、背筋が伸びる感じがしていいな。少し歩きにくいが」

「よく似合ってるよ。ね、ちょっと腕組んでみて」

「こうか?」

「かっこいい~~~!!」

 男らしさと威厳がバリバリでもうたまりません! 僕の旦那様はかっこよすぎます! 今すぐ抱きついて擦り寄りたいけど口紅付けてるからそれも出来ないや……辛い!

「この格好が気に入ったようだな。自分では着れないのが残念だ」

「ダグラスならすぐ覚えられるんじゃないかい? ほら、手順を書いてある紙だ。この紙は異世界の製法で作られたものだからこの部屋から持ち出さないようにね」

「は、ありがとうございます」

 ……大奮発じゃない……? 向こうの世界のものはこっちの文化とか技術に影響を与えちゃうからってことで持ち込み禁止だったのに……そう考えると着物も大丈夫なのかなって思っちゃうなぁ。ダグのかっこいい姿を見られて大満足なんですけどね!

「まぁまぁまぁ、ダグラスちゃんもよく似合ってるわ!」

「ガタイが良いから迫力があるなぁ。男らしくてよく似合っているよ」

「ありがとうございます」

 うんうん、僕のダグかっこいいよね。見せびらかしたいくらいに! せめてリディアには見せたいなぁ。

「神様、着物はこの世界の人たちに見られたらダメですか?」

「別に構わないよ。声をかけてきた貴族達には特別な方からの貰い物、とでも答えておくと良いさ。頭が悪くなければ適当に察して諦めるだろう。察しの悪い馬鹿な貴族たちは急いでいるから、とでも言って切り上げたらいい」

「わかりました」

「どうせなら舞踏会に着て行って幸仁の美しさを見せつけて欲しいくらいだけれど」

「でも舞踏会用の衣装は仕立ててしまっていますし……」

 いくらするんだろうって言う衣装をね……確かに振袖なら舞踏会にも着ていけるだろうけど、もともと着る予定だった衣装をどうしようってことになっちゃうからなぁ……

「幸仁なら気にするだろうと思っていたよ。まぁ振袖でダンスを踊るのは難しいだろうし舞踏会は予定通りの衣装を着ることにして、振袖は気が向いた時に着るといい。着付けならいつでもしてあげるからね」

「ありがとうございます」

 それはつまりいつでも呼び出し可能ってこと……? 神様なのに……流石に僕もそんなに頻繁に呼び出したりなんて恐れ多いことしないけども!

「ゆきちゃんリディアちゃんに見せてきたらどう? そのままお散歩でもしてきたらいいじゃないの。お母さん達は十分堪能したしまた今度男物の着物も見せて頂戴?」

「もう帰っちゃうの?」

「はは、寂しいのか? 美加子、夕飯の準備はしてたか?」

「下拵えだけしてるわ。そうだ、ゆきちゃんがリディアちゃんにその格好を見せてきている間に一旦向こうに戻って作ってこっちに持ってきましょうか! そして夕飯はゆきちゃんとダグラスちゃんに用意されたご飯と私が作ったご飯で食べましょ! そうしたらゆきちゃんも寂しくないでしょう?」

 つまり夜ご飯は母さんのご飯も食べられる……!? ケーキだけじゃなくてご飯も食べられるなんていい誕生日! ケーキをお腹いっぱい食べたのに今から夜ご飯がすっごく楽しみです。

「うん! じゃあ僕、ダグとお散歩してくるね。ロイ達にも見せなきゃ拗ねちゃいそうだし」

「ふふ、そうね。行ってらっしゃい」

「うん!」

 神様が外に行くなら、とファーのショールを出してくれて、それを羽織ったらダグと出発! ……多分このショール防寒的な効果あるやつだ……外に出ても一切寒くないです。

「まずはリディアのとこいこ! アルバスさんのとこかなぁ」

「そうだろうな。行くか」

「うん! ダグ寒くない?」

「大丈夫だ。おそらく風を通さない魔法がかけられているな」

「そっかぁ。僕のショールもだよ。ふわふわだしあったかいよ」

「そうか。寒くなったら言うんだぞ」

「うん」

 ダグと手を繋いでいつもよりゆっくり歩いてアルバスさんの部屋へ向かうと、アルバスさんは机に向かって書類を捌いていて、リディアはゆったりと本を読んでいました。

「こんにちはー」

「ユキ様? ……なんて美しい……そちらの衣装はどうしたのです?」

「えへへ、僕の故郷の着物だよ。本当は成人した女の子が着るやつなんだけど、神様が誕生日プレゼントにくれたんだ。似合う?」

「ええ! とてもお綺麗です。この刺繍も繊細でこの背中のこれは……素晴らしい結び方ですね。おや、紅も引いているのですね。ユキ様のお肌の白さが引き立ってなんと美しい……」

 リディアは僕の側に来て前から、後ろから、横から、斜めから、と色んな角度から僕の姿を確認しては頷きつつ褒めてきます。ちょっと恥ずかしいです。

「ほぉ、こりゃまた綺麗な衣装だな。変わった形だがユキによく似合ってるぞ。ダグラスが着てるやつもユキの故郷の衣装か?」

「はい。ダグのは完全に男性用の着物です」

「なるほどなぁ」

「ダグラスのものは一見地味にも感じますが相当上質な絹ですね……華やかさはありませんが洗練された美しさは感じられます。素晴らしい衣装ですね」

「えへへ、ダグかっこいいでしょ?」

 にっこり笑いながら言ったらスルーされました。まぁいつものことだからいいんだけどちょっとくらい反応してくれてもいいじゃん! まぁここでリディアが肯定しちゃったらアルバスさんがどんな反応するかなんてわかりきってるからスルーせざるを得ないんだろうけどね。

「それにしても美しいですね……いくつかユキ様に欲しいところですがこちらの世界でこの繊細な風合いを出せるかどうか……この模様、ひとつひとつ手作業で染めて作られていますよね? この細かさをこの世界で再現となると……そもそも同じ生地が手に入るかどうか……」

 流石リディア、分析が細かいです。

「リディア、ユキの衣装を再現したいのは分かったがせめて産んで落ち着いてからにしろよ」

「わかっています。流石に今月中に動こうとなんて考えていませんよ」

「ならいいけどよ」

 つまり赤ちゃんを産んで落ち着いたら振袖を再現するために動くんですね……? リディアだからなぁ。世界中の生地を取り寄せたりして似た生地を探し出すところから始めそうだよ。もしくは生地も作らせたり……? あり得るなぁ。……どれだけのお金が動くんだろう。
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