あの人と。

Haru.

文字の大きさ
上 下
366 / 396
After Story

受けて立つ!

しおりを挟む
 陽が落ちてきて、そろそろお開きにしようかといったところで寝室につながるドアがノックされた。

「ユキ、入ってもいいか?」

「ダグ! いいよ!」

 お仕事終わったんだ! 惚気まくってダグに会いたい気持ちを募らせていた僕はダグがこっちに来るのを待ちきれなくて、靴も履かずに扉の方へ向かってちょうど入ってきたダグにダイブ!

「おかえり! お疲れ様、ダグ」

「ああ、ただいま」

 ダグは靴を履いていない僕を、床は冷たいからって抱き上げてくれて、そのままお互いに触れるだけのキスをしあってニコニコ。やっぱりダグとこうしてると幸せ!

「ユキ、まだ俺らもいるからな?? ったく、2人は相変わらずだなぁ」

「失礼しました、陛下。ユキの可愛さについ」

「ダグ……」

 キュンッてきちゃったじゃんか。もうもうもう、ダグったら僕を喜ばせるのが上手すぎだよ。堪らずダグの首にぎゅーっと抱きついてグリグリと擦り寄ると呆れたような視線を感じたけど無視です!

「うわぁ、あっまぁ……自分達が砂糖の塊みたいな物なのになんでユキは平然と甘いもの食べたり飲んだり出来るんだろ……」

「それは俺も思ってた。ユキとダグラス見てたら辛いものか酸っぱいもの食べたくなるからな。当事者にはわからない感覚なんだろうな」

 僕だって今の雰囲気すっごく甘い! みたいに感じることは普通にあるよ? でも味覚でそう感じてるわけじゃないから、食べ物は別というか……甘いものに限ったことじゃないけど、幸せって思いながら美味しいもの食べたら余計に美味しいじゃん! だから僕はみんなが甘い甘いって言ってくる状況でも美味しいものを食べるのです!

「本当に倦怠期とは無縁の状態ですね。さて、私たちはお邪魔でしょうしそろそろお暇しましょう」

「だな。んじゃ、また来るわ。お土産もありがとなー」

「うん、また一緒にお茶飲もうね」

 バイバイ、と手を振るとアル、ラス、メルも振り返して騎士さんと一緒に帰っていった。リディアはどうやらアルバスさんが迎えに来るらしいからもう少し待機なんだって。

「さて、待っている間に私はこちらを片付けてしまいますね」

「あ、僕やる! リディアは座っててよ」

「これくらい大丈夫ですよ。ワゴンに食器を乗せる程度ですから」

 僕がやるつもりだったけど、確かにワゴンに乗せるくらいならそんなに負担になるわけじゃないし任せることに。なんでもかんでもダメって言っちゃうとリディアもストレス溜まっちゃうだろうしね。妊娠は病気じゃないんだし。……それに僕が食器を持ちながら歩いたら転んで逆に仕事増やしちゃいそうだしね……

 リディアがパパッとお皿を片付けてくれたから僕はラグに浄化魔法をかけてからダグと並んでカウチに座った。膝の上に乗ってないのはほんの少しリディアに気を使った結果です。ダグはその代わりとばかりに腰に腕を回してギュッと引き寄せて来ます。それでも満足いかないようで髪の毛を触ったりスルスルと頬を撫でてきたり頭にキスを落としてきたりととにかく甘々。……普通にリディアにダメージいってる気がします。

「まったく、せめて私が帰るまでその甘さを出すのを我慢できないんですか」

「無理だ。今日は1日ユキと離れていたんだぞ。ユキが足りないんだ。やはりユキが1番可愛いな」

 ……ん? 1可愛い? ……いや、うん、ダグに可愛いって言ってもらえるのは嬉しいよ? でも今まで唐突に1、なんて言い方したことあった? そう、まるで──

「ねぇ、今誰と比べたの、ダグ?」

「──あ、いや、違う。違うんだユキ、やましいことがある訳じゃなくてだな」

 しどろもどろなダグにグッと眉根を寄せてしまう。違うんだ、ダグを疑ってる訳じゃないんだよ。だってダグは今だって僕に触れる手はいつもと変わらない優しさだし、いつも通り甘いもん。ダグが他に目移りしたなんて思ってない。ダグが今までに僕に注いでくれた愛が、僕の自信に繋がってるんだ。ダグの気持ちがそんなすぐ変わるはずがない。

 でもね、ダグが僕を誰かと比べるってことは比べてしまうようなことがあったってことで。ダグが目移りしたんじゃなかったら……きっと誰かがダグに好意をもって近付いたんだ。ダグがモテるのはわかるよ。ダグはかっこいいし強いし優しいもん。でも、僕のいないところで誰かがダグに言い寄ってるって思うとモヤモヤする……!

「誰!? 誰がダグに言い寄ったの!? 僕負けないからね……! ダグは僕のだもん……!」

「ユキ……俺を信じてくれるのか」

「僕がダグを信じないわけないでしょ? 今だってこんなに甘いダグが浮気なんてするはずないもん。……それとも浮気、したの……?」

 それなら僕は今すぐロイにお願いしてに帰らせてもらいますが……? ついひんやりとした雰囲気を出してしまうとダグは焦ったように首を横に振った。

「違う! 俺はユキを愛している! 浮気なんてするわけがない。ユキ以外になど興味もない」

「うん、わかってるよ。ダグはいつも僕にたっぷり愛情を注いでくれるもん。僕はそんなダグの気持ちがすぐに変わるなんて思ってない。だから何があったのか教えて? 場合によっては僕、勝負に勝たなきゃだもんね?」

 ダグに言い寄ってる人がいたとして、本気でダグを奪おうとしてくるならば僕もダグを奪われないように闘わなくちゃだよね? 妻としてのプライドをかけて闘いますよ!

「相手は新入隊員の1人でな……他の騎士より華奢で、既に騎士団内ではよく言い寄られてる奴なんだ。だが騎士団の顔とも言われる第1部隊に配属されたからには、色恋沙汰にせよなんにせよ揉め事は起きて欲しくない。だから前に恋愛ごとは自由だが揉め事は起こすな、どうしても揉めそうならこっちもある程度対処するから相談しろと伝えたんだが……それが誤解を生んだらしくてな……」

「どんなふうに?」

「俺がそいつに好意があるから周りに言い寄られているのが気に食わないと思っているととられたようなんだ。全くもってそんなことはないし本気で揉め事を起こして欲しくなかっただけなんだが……」

 ふぅん……その人はダグが本当に好意を寄せてるってどういうことか知らないんだね。まぁなんにせよちょっと面白くないかな。大事な旦那様が言い寄られてるって思ったらいい気はしませんよ!

「それで今日はどんなふうに接触されたの?」

「訓練後にタオルと冷たい飲み物を差し出してきた。勿論受け取らなかったぞ? ユキ以外からのものなど受け取るわけがない。そうしたら今度は訓練のことでもっと色々教えて欲しいから夕飯を一緒にしたいと言われたんだ」

「へぇ……? 断った?」

「当たり前だ。ユキとの大事な時間を減らしてたまるか。そもそも訓練の内容を夕飯と共になどわけがわからない。訓練場でならば他の希望した隊員も纏めて教えるが……」

「うん、本当に訓練としてなら僕も何も言わないよ。部下を鍛えるのもダグのお仕事だもん。けど2人でわざわざご飯食べながら、なんてねぇ……?」

 ちょーっと許せないかなぁ。それはご飯食べながらである必要あるの? って思うし、明らかに訓練のことっていうのは口実だよね? って僕でもわかるくらいだもん。訓練のことなら身体を動かしながらの方がいいよね? なら訓練場でどうぞって思っちゃいます。

「ああ、だから俺も訓練のことで何かあるなら今ここで聞くと言ったんだが、他の人がいるところではちょっと、なんて言い出す始末でな……」

「あはははは、僕に喧嘩売ってるのかなぁ」

 買いましょうか?? ちょっと今うまく魔力制御できるか怪しいけど受けて立つよ? うっかり神級魔法連発しちゃうかもしれないけど受けて立つよ??

「新入隊員ならユキ様とダグラスがどれだけ仲がいいか知らない可能性もありますねぇ。まさか結婚していることを知らないなんてことはないでしょうし。よほど自分に自信があって横恋慕できると思っているのでしょうね」

「むぅ……それならダグと僕の仲の良さを見せつけるまで! ダグ、その人の次の休みはいつ!?」

「たしか3日後だな」

「その日はダグも休みだったよね? その日は庭でデートしようね?」

「外は寒いが……いや、うん、そうだな、たまには外にも出ないとな」

「だよね! 冬の庭も好きだから楽しみだなぁ」

 ダグとデートなんてウキウキしちゃうね! いつもより気合も入れなきゃね!!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

離縁しようぜ旦那様

たなぱ
BL
『お前を愛することは無い』 羞恥を忍んで迎えた初夜に、旦那様となる相手が放った言葉に現実を放棄した どこのざまぁ小説の導入台詞だよ?旦那様…おれじゃなかったら泣いてるよきっと? これは、始まる冷遇新婚生活にため息しか出ないさっさと離縁したいおれと、何故か離縁したくない旦那様の不毛な戦いである

クソ雑魚新人ウエイターを調教しよう

十鳥ゆげ
BL
カフェ「ピアニッシモ」の新人アルバイト・大津少年は、どんくさく、これまで様々なミスをしてきた。 一度はアイスコーヒーを常連さんの頭からぶちまけたこともある。 今ようやく言えるようになったのは「いらっしゃいませー、お好きな席にどうぞー」のみ。 そんな中、常連の柳さん、他ならぬ、大津が頭からアイスコーヒーをぶちまけた常連客がやってくる。 以前大津と柳さんは映画談義で盛り上がったので、二人でオールで映画鑑賞をしようと誘われる。 マスターの許可も取り、「合意の誘拐」として柳さんの部屋について行く大津くんであったが……?

俺の妹は悪女だったらしい

野原 耳子
BL
★冷酷な第一王子✖頑張るお兄ちゃん騎士 伯爵家の長男であるニアは、妹のダイアナが聖女様を傷付けた罪で家族もろとも処刑された。 だが、首を斬り落とされた瞬間、十六歳だった頃の過去に戻ってしまう。 家族を救うために、ニアは甘やかしてきた妹を厳しく鍛え上げ、自分自身も強くなろうとする。 しかし、妹と第一王子の出会いを阻止したことによって、 なぜかニアの方が第一王子に気に入られて側近になってしまう。 第一王子に執着され、運命は予想外な方向に転がっていくが――

今、私は幸せなの。ほっといて

青葉めいこ
ファンタジー
王族特有の色彩を持たない無能な王子をサポートするために婚約した公爵令嬢の私。初対面から王子に悪態を吐かれていたので、いつか必ず婚約を破談にすると決意していた。 卒業式のパーティーで、ある告白(告発?)をし、望み通り婚約は破談となり修道女になった。 そんな私の元に、元婚約者やら弟やらが訪ねてくる。 「今、私は幸せなの。ほっといて」 小説家になろうにも投稿しています。

美形な兄に執着されているので拉致後に監禁調教されました

パイ生地製作委員会
BL
玩具緊縛拘束大好き執着美形兄貴攻め×不幸体質でひたすら可哀想な弟受け

BL r-18 短編つめ 無理矢理・バッドエンド多め

白川いより
BL
無理矢理、かわいそう系多いです(´・ω・)

国王様は新米騎士を溺愛する

あいえだ
BL
俺はリアン18歳。記憶によると大貴族に再婚した母親の連れ子だった俺は5歳で母に死なれて家を追い出された。その後複雑な生い立ちを経て、たまたま適当に受けた騎士試験に受かってしまう。死んだ母親は貴族でなく実は前国王と結婚していたらしく、俺は国王の弟だったというのだ。そして、国王陛下の俺への寵愛がとまらなくて? R18です。性描写に★をつけてますので苦手な方は回避願います。 ジュリアン編は「騎士団長は天使の俺と恋をする」とのコラボになっています。

【完結】真実の愛とやらに負けて悪役にされてポイ捨てまでされましたので

Rohdea
恋愛
最近のこの国の社交界では、 叙爵されたばかりの男爵家の双子の姉弟が、珍しい髪色と整った容姿で有名となっていた。 そんな双子の姉弟は、何故かこの国の王子、王女とあっという間に身分差を超えて親しくなっていて、 その様子は社交界を震撼させていた。 そんなある日、とあるパーティーで公爵令嬢のシャルロッテは婚約者の王子から、 「真実の愛を見つけた」「貴様は悪役のような女だ」と言われて婚約破棄を告げられ捨てられてしまう。 一方、その場にはシャルロッテと同じ様に、 「真実の愛を見つけましたの」「貴方は悪役のような男性ね」と、 婚約者の王女に婚約破棄されている公爵令息、ディライトの姿があり、 そんな公衆の面前でまさかの婚約破棄をやらかした王子と王女の傍らには有名となっていた男爵家の双子の姉弟が…… “悪役令嬢”と“悪役令息”にされたシャルロッテとディライトの二人は、 この突然の婚約破棄に納得がいかず、 許せなくて手を組んで復讐する事を企んだ。 けれど───……あれ? ディライト様の様子がおかしい!?

処理中です...