あの人と。

Haru.

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After Story

冬の日に

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 12月に入ってしばらくが経ちました。寝起きが抜群に悪くなる季節の到来です。毎朝ベッドから起き上がる気配もない僕をダグが抱えて連れ出してくれて、何口かご飯を食べさせられてようやく半分くらい覚醒する今日この頃。用事がなければ病み上がりの時のような楽な格好に着替えさせられ、ご飯後もルリに引っ付いたり毛布にくるまったりしてうとうと……ダグも健康に害がないならと好きにさせてくれるから、完全に覚醒するお昼頃までずっと寝てます。

 ……夜早く寝ても朝起きないどころか昼までずっと寝てる僕に、何かあるんじゃないかと心配したダグによって治癒師さんの検査を受けさせられたのは内緒です。去年同じような状態を見ていてもちょっと心配らしいです。ごめんね、眠いだけです。

 そんなわけで今日も今日とて暖炉前の幸せゾーンでうとうとしていると。

「まぁまぁまぁ、やっぱりゆきちゃんは今年もこの時期はおねむなのね~」

 この声は……

「かぁ、さ……?」

「ふふ、子供の時から寝顔が変わってないわねぇ」

「ゆきー、俺らもいるぞ。冬の寝ぼけようは相変わらずだなぁ」

 うぅん、つつかないでよぅ……ツンツン突いてくる手から逃れるようにもぞもぞと頭まで毛布にくるまり直してクッションの間に蹲れば、両脇に手を差し込まれて無理矢理起こされました。

「うぅー……なぁにー……?」

「ははっ、目が開いてないぞ。ほら、もう昼なんだから起きろ。いくら学校に行く必要がないからって寝すぎだぞ」

 そのままユサユサと揺すられ、血がしっかり巡ったからかだんだん覚醒してきた僕はうっすら目を開くと、僕を抱き起こしていたのは翠兄さんだった。

「すいにいさん……?」

「おう。おはよう、ユキ。相変わらず寝坊助だなぁ」

「そこが可愛いんだけどな」

「そうにいさん……あれ、父さんと母さんもいる……?」

 よくよく見たら勢揃い。はて、今日は何かあったっけ? 確か約束はしてなかったはず、と首を傾げるとクスクスと母さんの笑い声が聞こえた。

「ふふ、ゆきちゃんのことだからきーっとダグラスちゃんがご飯食べさせるのも一苦労していると思って、様子を見に来たのよ。ついでにご飯も持ってきたから一緒に食べましょう?」

「母さんのご飯……!? 食べる!」

 一気に目が覚めました! 兄さんの手をペシペシ叩いて離してもらい、毛布をきっちり畳んでから髪の毛をパパッと手櫛で整えて……

「ふふ、そんなに急がなくても誰もゆきちゃんの分を取らないわよ?」

「はは、幸仁は相変わらず食いしん坊だな。今日は父さんも一緒に作ってきたんだ。母さんの料理だけじゃなく父さんのも食べてくれよ」

「父さんのご飯も!? やったぁ!」

 母さんが作ったご飯も勿論好きだけど、父さんが作るものも大好き。父さんも母さんに負けずに料理上手だからね! 美味しいものを食べて育った僕が美味しいものが大好きになるのは当然のことなのです!

 早く食べたくて、父さんと母さんの手を引っ張って既にご飯が並べられているテーブルへグイグイと引っ張ればクスクスと笑う僕の家族。今の僕は笑われたって気にしないよ! だってとにかく早く食べたいもん……!

 ダグも含めみんなで席についたらパンッと両手を合わせて……

「頂きます!」

「はい、どうぞ」

 ダグも食べるって事で、目の前にはお城の料理人さんが作ったご飯と母さんと父さんが作ったご飯が並べられてます。それぞれ好きなものを好きなだけ取って食べる方式なんだけど……どれから食べよう!! とりあえず母さんと父さんのご飯は全部満遍なく食べなくちゃ……!

 兄さん達はお城の蕩けるようなお肉に夢中だけど、今日の僕は母さんと父さんのご飯にしか目がいきません!

 沢山料理がある中で僕は1番初めに父さんお手製ハンバーグを選んだ。これ僕大好きなんだ。父さんはひき肉を買ってくるんじゃなくて塊のお肉を買ってきて家でミンチにするんだけど、ちょっと粗めにするからお肉! って感じですごく美味しいのです。お城で出るハンバーグも好きだけど、やっぱり家庭の味を食べるとほっこりしちゃいます。

「美味いか、幸仁」

「うん! シメジもたっぷりですごく美味しい!」

 僕の家のハンバーグは、細かく刻んだシメジが中に入ってるのです。ここは母さんが買ってきた挽肉で作る時も同じなの。シメジは先にソースとケチャップで炒めておいて、冷ましてから挽肉と混ぜてタネを作るの。僕はシメジたっぷりが好きだけど、兄さんたちはむしろお肉だけってぐらいの物が好きだからいつもその間をとって少なめに入れてたんだけど、今日は僕の好みにしてくれたみたいです。

「そうか、どんどん食べなさい」

「うん!」

「ゆきちゃん、お父さんのハンバーグもいいけれどお母さんの料理も食べてちょうだいね?」

「もちろん!」

 ちょっと拗ねたような母さんに内心笑いながら次々に食べ進めると途端に上機嫌になった母さんにまた少し笑ってしまったけれど、やっぱり母さんのご飯もどれもこれも美味しかった。それはもうついつい食べ過ぎてしまうくらいにね。

「ふはぁ……お腹いっぱい……!」

「ユキ、飲めそうならこれをゆっくりでいいから飲んでおけ。リディアがいつも食べ過ぎた後に出しているお茶だ」

「ありがと~」

 ダグが出してくれた、覚えのある香りがふわりと香るお茶を取り敢えずひと口くぴり。一気に飲んだらお腹が破裂しちゃうからね。いくら消化を助けるお茶と言っても入らないところに無理やり入れちゃだめだめ。僕のお腹は今パンパンに空気を入れられた風船状態なんだもん。

「まぁまぁ、あれもこれもと作り過ぎちゃったわね。ゆきちゃん大丈夫?」

「大丈夫だよ。すっごく美味しかったもん。また作ってくれる?」

「もちろんよ! また今度持ってくるわね?」

「うん!」

 家庭の味って、食べられなくなってからようやくその有り難みとか美味しさを本当の意味で理解するんだなぁって思うのです。だから今の僕にとって父さんと母さんの作った料理は本当に大事で、いくらでも食べたい。もういいってならないんだよ。次に食べられるのがいつかはわからないけど、お腹いっぱいの今からすっごく楽しみです。


 その後はそれぞれお茶を飲んだりデザートを楽しんだりしながらまったりとティータイム。僕はもちろんお茶だけだけどね。

 ゆっくり日本での最近の出来事とかを聞いていると、ひょっこりとリディアが現れた。

「ユキ様……おや、申し訳ありません。いらっしゃっていたとは」

「あら、リディアちゃん! 久しぶりね! ゆきちゃんにご用かしら? こっちで一緒にお話ししましょうよ」

「では失礼して……」

 母さんの勢いに若干苦笑したリディアは自分用のお茶を魔法収納から出してから僕から見て斜めの席へと座った。ちなみに隣は兄さん達でガッチリ固められてます。あ、ダグはもうお仕事の時間だからって立って警護を始めちゃったよ。僕は座ってていいって言ったけど、座ってばかりだったら身体も鈍るから、とのこと。

「どうしたの? アルバスさんは?」

「本日の午後は訓練の日でしたので私は大人しく編み物をとやっていたのですが……少々分からないところが出てきまして。ユキ様にお尋ねしようと思ったのですがまたにいたしますね」

「まぁ! リディアちゃんも編み物を?」

「ええ。……この子に何か私が作った物を与えたくて」

 この子、と言いながら両手でお腹を撫でるようにしたリディアはなんか……手を触れてはいけない神聖な何かのような……まさに聖母という言葉が似合う雰囲気を醸し出しています。流石リディアは美しい。

「まぁまぁまぁ! リディアちゃんに赤ちゃんが出来ていたなんて知らなかったわ!」

「あれ、言ってなかったっけ?」

 母さん達が来てる時もリディアは座ってたけど何も聞かれなかったから言ったと思ったんだけど……そう言われてみれば言ってなかったかも……?

「聞いてないわ! でもそうねぇ、言われてみればいつからかは忘れちゃったけどリディアちゃんの顔つきはどこか親としての顔つきになってるわね」

「そう、でしょうか……?」

「ええ! 3人の子供を育てた私が言うんだもの、本当だわ! ねぇ、雅仁さんも思うでしょう?」

「そうだな。むしろ美加子の時より親らしい顔つきなんじゃないか?」

「まぁあ! 酷いわ雅仁さん!」

「くく、冗談だ。美加子はいい親だよ」

「雅仁さん……」

 ぽーっと父さんに見惚れる母さん……僕と母さんは顔が似てる上に母さんはかなり若く見えるから、若干ダグにうっとりする僕に被って見えてなんだか苦いものが口の中に広がった気がしました。
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