あの人と。

Haru.

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After Story

side.アルバス

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回想シーンらへんにおいてのアルバスサイドのお話になります。


──*──*──*──*──*──*──


「──と、言うわけでこっちの1番の有望株を次の討伐に連れて行ってもらうぞ。頼んだからの」

「ちょ、おい」

 止める間も無くさっさと行っちまった爺さんに、俺は溜息を吐くことしかできなかった。まだ2年目の神官をあのクソみてぇな討伐に連れて行けと……? しかも陛下の許可まで下りてるんじゃ断れねぇじゃねぇか……

 確かこのリディアとか言うやつは超ド級の美人だったよな……遠目からしか見たことはねぇが、好みのど真ん中だったのは覚えている。

 騎士達の中でも噂になっていて、討伐に来ないかってニヤニヤ笑いながら話しているのを聞いた回数数知れず。こりゃ、面倒なことになる気がするが……流石に、あの現状を伝えないってこたないだろ。有望株を潰すような真似は流石の爺さんも……しない、よな……?



 ……まぁその予想は大きく外れたわけだが。念のためダグラスの班にしておいてよかったな……こっちの有望株のダグラスには、リディアが助けを求めてきたら俺のテントへ避難させるように言っておいたんだ。あれだけの綺麗どころなんざアホどもの群れに突っ込めばどうなるかは目に見えてるからな。

「私は端の方で構いません」

「いいからこっち使え。慣れてねぇ新人が遠慮すんな」

 今は俺のテントへ避難してきたリディアと誰がマットを使うかの話し合い中だ。

「騎士団長を差し置いて下っ端がマットを使えるわけがないでしょう」

「身体壊して明日うごかねぇ方が困るだろうが。俺はこれくらいじゃなんともねぇから気にすんな」

 実家は貴族だが、騎士として今までやってきてんだから雑魚寝くらいなんともねぇ。体力も違ぇからこれくらいで体調を崩すなんてこともねぇ。だがリディアは見るからに神官らしい体格で、俺たちよりも体力は格段に少ないだろう。床で寝たりなんざしたらすぐに身体を壊しそうで嫌なんだが……

「わ、私だってこれくらいなんともありません!」

「ただでさえ顔色悪りぃのに無理すんじゃねぇ。……ったく、そんなに言うならもう2人でこっちで寝るぞ。心配すんな、手は出さねぇよ」

「なっ……わ、かりました……ほ、本当に触らないでくださいよ!」

「わぁってるよ。もしも俺が触ったら煮るなり焼くなり好きにしたらいいさ。ほれ、さっさと寝ろ。明日は早いぞ」

 さっさと先にマットへ寝転んで隣を叩けばおずおずとやってきたリディアのためにさらに端へ寄って場所を開けてやる。でけぇマットだから十分にスペースはあるから手を伸ばさねぇ限り触っちまうことはねぇだろ。

「し、失礼します……」

 そろりとマットに上がってきたリディアを安心させるよう、背中を向けるように寝がえりをうてば、しばらくこっちを窺うような気配を感じていたが、やがて信用してくれたのかすうすうと小さく寝息を立て始めた。

 そっと身体の向きを戻して寝たリディアを見てみると、顔色はまだ若干悪いが表情は穏やかなもんだった。


 俺が騎士団に入った時、そこは思った以上にクソみてぇな場所だった。お綺麗なのは表向きだけで、上部は腐りきっていた。それが今の陛下になって少しずつ改善されてきて、俺が騎士団長に任命されると俺はすぐに改革をした。大幅に部隊を再編成してせめて腐ったやつらはあまり表には出てこない位置にした。

 漸く今の形になって機能してきたところだった。討伐の野営地で行われるクソみてぇな悪習は若干後回しになっていた感は否めない。神官も神官でなかなかに腐っているみてぇだからなんとかなっているなら徐々に改善していけば、と思っていたんだが……こいつがこれからも討伐に参加するならそうはいかねぇ。

 俺は今までにただ1人の神官を匿ったことなんざねぇ。途方に暮れている神官を見ても第1部隊の信用できる誰かに適当に託しただけだった。それが……リディアは他に回したくねぇと思ってた。今日までこんなに近くで見ることなんざなかったのにな。

 こいつは俺のもんだって俺ん中の何かが叫んでやがる。バカ言え、どれだけ年齢差があると思ってんだ。これだけ綺麗なやつだぞ。いくらでもこいつの望む相手は見つかるだろう。こいつと一緒に歳をとって、一緒に老いて、一緒に寿命を迎えられる誰かが絶対にいるはずだ。

 俺みてぇな先に爺さんになっちまうだろう奴が、こんな綺麗なやつを汚していいわけがない。……そうだ、いいわけがねぇんだ。

 だがせめて、俺の目の届く範囲ではこいつを汚すような真似はさせねぇ。俺が守ってみせよう。いつかこいつが安心できる相手を見つけるその日まで。

 はは、こんな歳にもなって漸く初恋、か……初恋は実らねぇって聞くが、全くもってその通りだな。すやすやと安心したように眠るこいつの表情が歪むことないよう、らしくもなく祈りながら目を閉じた。


 次の日の夜、警戒もせずに俺の前で着替え出した時はギョッとしたが、結果として討伐は問題なく終わった。リディアが誰かに手を出されることも無かったし、死者どころか大したけが人も出なかった。上等なもんだ。

 ……毎回恒例の痴情の縺れと言うと純粋に恋愛を楽しんでいる奴らに失礼なくらいのくだらねぇいざこざはあったらしいがそんなこたぁどうでもいい。んなもんは勝手にやらせときゃいいんだ。どうせ野営地限定でばかみてぇに盛って、それを愛し合ってるかのように錯覚しちまっただけだ。んなもんはどっちにしろ直ぐに冷めんだからほっときゃいいんだ。

 とりあえず、陛下に報告も終わったことだし戻ってきたばっかの今日くらいはゆっくりするかね。


 ブラブラと適当に庭を歩いていると、向こうからやってきたのはリディアだった。こっちへ向かってくるリディアに俺も近付けば、リディアは数歩離れて立ち止まって俺に頭を下げた。

「その節はありがとうございました。お陰で無体を強いられることもなく帰還できました。何かお礼をしたいのですが……」

 どうやら律儀に礼を言いに来たようだ。別に礼を言われるようなことをしたつもりはない。バカどもを制御できていないのは俺の落ち度でもあるからな。

 礼はいいと断り、また討伐に参加することがあるならば俺のテントに来ていいと伝えれば少し目を見開き、一瞬迷ったようなそぶりを見せてからいつもあの状況を知らない神官に同じようにしているのかと聞いてきた。

 そういうわけじゃない。ただ、お前を誰か違うやつらに託すのはなぜか許せなかった。そう馬鹿正直に言うわけにもいかず、ただリディアが初めてだとそれだけを言ってその場を去ったが……あの瞬間の少し揺れたリディアの目が忘れることが出来ず、その日は何をやろうにも身が入らなかった。


 それから数年後、ダグラスをこき使いつつなんとか騎士団から汚れを取り除くことに成功し、討伐地では完全に騎士と神官のテントを分けることに成功した。夜間に理由なく行き来することを禁じ、これを破れば向こう1年5割の減俸、再犯者は問答無用でクビにすることとすればもちろん反発はあったが、文句があるならば俺を討って団長の座を奪い取って改革をしなおせと言えば、勝てる者など1人も現れなかった。まだまだ新人に毛が生えたくれぇのダグラスにも勝てねぇんだから情けねぇ奴らだ。

 ちなみに騎士と神官のテントの間には夜間の魔獣の襲撃に備える見張りを配置した。賄賂を渡して通ろうとする奴が現れたが、これを捕らえて突き出せばボーナスを出すと言えば喜んで突き出すようになった。もちろん賄賂を受け取って通したことが発覚したらその見張りも通った奴も揃ってクビだ。

 次第にテントを行き来する奴らは居なくなり、ヤるなら野営地からちょっと離れた外でヤるようになっていったが……まあそいつらは適当に放置だ。テントは安全地帯になったからいいだろう。外で馬鹿みたいに盛った奴らが魔獣に襲われても夜間の危険性を理解しなかったそいつらの自業自得だ。

 とりあえず、これでリディアが野営地で襲われる心配はなくなった。今の状態になるまでにリディアが討伐に参加したのは数回。全て俺のテントに来ていたが……それももうなくなるんだろうなぁ……だがまぁ、これ以上あいつと関わっているとあいつを俺の物にしてぇって気持ちが消えなくなっちまいそうだったから良かったのかもしれねぇ。

 いつかあいつがいい奴と共になった時、よかったなって言ってやれるようにここら辺で距離を置くことにしよう。
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