あの人と。

Haru.

文字の大きさ
上 下
329 / 396
After Story

side.リディア

しおりを挟む
「ん……」

「起きたか?」

「え? あ、す、すみません!」

 私としたことが、随分と深く眠ってしまっていたようです。普通所属は違うとはいえ、新人である私の方が先に起きているべきでしたのに……どうやら騎士団長はすでに起きて、用意も全て済ませている様子。完全に寝坊してしまいました。しかし騎士団長は起こる様子もなくあっさりとした様子で。

「時間には間に合ってるから構わねぇよ。そんだけ疲れてたんだろ。俺は打ち合わせもあるから先に出るが、お前も用意したら班の元へ行けばいい。また今夜もここに来ていいからな」

「あ、ありがとうございます」

 なぜこんなに良くしてくださるのでしょうか。昨日声をかけてきた騎士達が騎士達だっただけに、これだけ気を遣ってくださる騎士団長に違和感を覚えます。

「あ、そうだ、お前他の奴らに俺とのこと聞かれてもあんま否定するなよ。下手したらどっかのテントに引きずり込まれるぞ」

「……わかりました」

 流石に引きずり込まれるなど勘弁です。あんな筋肉ダルマ達に力尽くで来られたら対処のしようがありません。ここはお言葉に甘えておきましょう。

 そのままテントを出て行った騎士団長を見送り、私も手早く用意を済ませて外に出るとジロジロと嫌な視線を感じます。ニヤニヤと下卑た笑みを浮かべている騎士がちらほらと……本当に、腐った奴らですね。

「リディア! こっちだ、早く来い」

「ダグラス。すみません、遅れてしまいましたか」

「いや、まだもう少し間はあるが……はやく班の元へ行った方がいい。この視線だからな」

「ああ……ありがとうございます」

 たしかにこの視線の中1人でいるというのはなかなかに気疲れしてしまいます。ここは班のメンバーと共にいた方がいくらかはマシでしょう。

 班の元へ行けばどうやらダグラスが説明してくれていたのか、メンバー達からは気遣わしげな声をかけられました。

「大丈夫だったか? すまん、俺らのテントに連れて行けばよかったな」

「いえ、お気遣いありがとうございます。事前調査を怠っていた私も迂闊だったのです。肉欲のことしか頭になさそうな方々が華奢な神官と同じ場で過ごすことになれば、そういうことになる可能性があることなんて少し考えればすぐにわかったはずなのです。これからは情報収集は確実にします」

 身体を動かすことが仕事な騎士は無駄に元気が有り余ることであっちの方も色々と元気そうですし。こんなすぐ横に華奢な相手がいる場など格好の出会いの場になることなんて今考えればすぐにわかります。神官は神官で普段近くにいない男らしい体格の騎士達に心が揺さぶられて開放的になってしまう方が多いのでしょう。私はその限りではありませんが。

「にっ……お、おう……なんかすまんな……今夜はどうするんだ? こっちにくるか?」

「騎士団長が今夜も泊めてくださるそうですので、そのご厚意に甘えようかと。周りには騎士団長の相手をしていると勘違いさせておいた方が何かと安全だろうと言われました」

「……あの人が一番危ないような気もしなくないが……」

「リディアって団長のタイプど真ん中だよな……」

「なにか?」

 あまりにも小さな声だったので聞き取れませんでした。危ないとかなんとか……? たしかに馬鹿な騎士達がいる中で1人でいたら危ないですよね。

「いや、なんでもない。お前さんがいいならいいんだ。俺らもなんか聞かれたら適当に話合わせとくな」

「ありがとうございます。ところで、あなた方もまさか昨晩は誰かと……?」

「いや、それはねぇよ。そもそも、第1部隊はそういうことをする奴は入れてもらえねぇんだ。今の団長になってから、騎士団全部隊が再編成されたんだが、そういうことをする奴らは第2部隊以下に入れられた。ま、それを知ってるのは第1に入れられた奴らだけなんだがな」

 なるほど、確かになにも対策をしていないわけではないようです。そうやって区別していたんですねぇ……確かに騎士団を象徴とする第1部隊がそんなに腐っていたら国民に見せる顔がありませんからね。騎士団長の対応は間違っていないでしょう。

 ……やはり、騎士団長は信用に値する人間なのでしょうか……? 昨晩も一切触れてくることもございませんでしたし……やはり今晩も安心して泊めていただきましょう。他へ行くより安全に違いありません。


 そのあとは予定通り班ごとに別れて討伐へ。やはり私が入れられた班は精鋭部隊なだけありそれぞれ個々の力がとてつもないものであることはさることながら、その連携もかなりのもので私などいらないくらいでした。だからこそ体験としてここに入れられたのかもしれませんが。

 わざと隙を作ってくださったところへ魔法を放ち、僅かながら加勢しつつ討伐を続けること数時間。ようやく1度目の休憩のようです。少し疲れてきた頃だったので少しほっとします。

「なかなかいい腕だな。お前さんの年で討伐に参加させられるのもよくわかる」

「ありがとうございます。それにしても流石第1部隊ですね。素晴らしい連携でした」

「はは、ありがとな。ダグラスもなかなかのもんだろ? こいつ、この歳で未来の第1部隊隊長候補なんだわ」

「もうですか?」

 確か私と同じ18のはず。そんな歳から隊長候補とは……?

「こいつ、頭が良く回るんだ。それだけじゃなく魔力も多いし剣さばきも眼を見張るもんがある。そこらの新人とは全然違う。俺たちはこいつに追い抜かれねぇように必死さ」

「俺はまだまだです」

「俺に模擬戦で勝っておきながらそんなこと言うなよ……俺はどうなるんだ……」

「あれはたまたまです」

 模擬戦で第1班班長へ勝った……? 本当に、恐ろしいくらいの能力を持っているのですね……私も負けていられません。もっと訓練しなければ。帰ったらどなたかに魔法演習に付き合っていただきましょう。

 そのあとはまた何度か休憩を挟みつつ討伐し、日暮れまでには野営地へと戻りました。今夜またここで過ごしたらまた明日討伐をして、明後日の朝にお城へ向けて出発するのです。なので後二晩、ここで泊まると言うわけです。

「リディア、団長のテントまで送る」

「ありがとうございます。……それにしても、騎士というのは肉欲のことしか頭にないのです?」

 今も感じる視線は非常に下卑たものです。国の守りの要である組織がこれでは少し、いえかなり不安な気がいたしますよ。

「……少なくとも俺は違うぞ。あいつらの行動や思考は理解できん」

「それならばよかった。あまりにも頭のおかしい方々が多いので私がおかしいのかと思い始めていましたよ」

「あれが普通なら世も末だ」

「ふ、たしかに」

 未来の第1部隊隊長候補と言われているダグラスがこういう人間ならば少しはこの先の騎士団というものに希望が持てるような気がします。どうにか改善してほしいものですね。

 騎士団長のテントへ着くと、既に戻っていた騎士団長の許可を元に中へ入ると……

「し、失礼しました」

 着替え中ではないですか……! 何許可を出しているのです……!

「んあ? 別に気にするこたねぇだろ。別にもっと見てもいいんだぞ?」

 そう言ってニヤリと笑ってくる騎士団長は微かに野生的な雰囲気を纏っていて。しかし、性的な気配を一切感じさせず、間違ってもオツムの弱い騎士達と一緒とは思えないことから気にする方が馬鹿らしいと、私もさっさと着替えたのですが、そうすると少し慌てたように視線を逸らした騎士団長。

「気にすることはないのでしょう?」

「あー……いや、お前、随分綺麗な見た目してるだろ。自衛するならちっとくれぇ気を使え。その気がなくともその気があるようにとられちまうぞ。襲われたかねぇだろ」

「……貴方は私を襲うのです?」

「そりゃ気持ちのねぇ行為なんざ虚しいだけだから襲わねぇがよ……」

 ちらりと見た騎士団長の目は微かに何かを堪えるような光を灯していて。それを見てしまった私には“もしもそこに気持ちがあったのなら”、なんて聞くことは出来ませんでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

ブレスレットが運んできたもの

mahiro
BL
第一王子が15歳を迎える日、お祝いとは別に未来の妃を探すことを目的としたパーティーが開催することが発表された。 そのパーティーには身分関係なく未婚である女性や歳の近い女性全員に招待状が配られたのだという。 血の繋がりはないが訳あって一緒に住むことになった妹ーーーミシェルも例外ではなく招待されていた。 これまた俺ーーーアレットとは血の繋がりのない兄ーーーベルナールは妹大好きなだけあって大いに喜んでいたのだと思う。 俺はといえば会場のウェイターが足りないため人材募集が貼り出されていたので応募してみたらたまたま通った。 そして迎えた当日、グラスを片付けるため会場から出た所、廊下のすみに光輝く何かを発見し………?

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

カランコエの咲く所で

mahiro
BL
先生から大事な一人息子を託されたイブは、何故出来損ないの俺に大切な子供を託したのかと考える。 しかし、考えたところで答えが出るわけがなく、兎に角子供を連れて逃げることにした。 次の瞬間、背中に衝撃を受けそのまま亡くなってしまう。 それから、五年が経過しまたこの地に生まれ変わることができた。 だが、生まれ変わってすぐに森の中に捨てられてしまった。 そんなとき、たまたま通りかかった人物があの時最後まで守ることの出来なかった子供だったのだ。

お嬢様の身代わりで冷酷公爵閣下とのお見合いに参加した僕だけど、公爵閣下は僕を離しません

八神紫音
BL
 やりたい放題のわがままお嬢様。そんなお嬢様の付き人……いや、下僕をしている僕は、毎日お嬢様に虐げられる日々。  そんなお嬢様のために、旦那様は王族である公爵閣下との縁談を持ってくるが、それは初めから叶わない縁談。それに気付いたプライドの高いお嬢様は、振られるくらいなら、と僕に女装をしてお嬢様の代わりを果たすよう命令を下す。

謎の死を遂げる予定の我儘悪役令息ですが、義兄が離してくれません

柴傘
BL
ミーシャ・ルリアン、4歳。 父が連れてきた僕の義兄になる人を見た瞬間、突然前世の記憶を思い出した。 あれ、僕ってばBL小説の悪役令息じゃない? 前世での愛読書だったBL小説の悪役令息であるミーシャは、義兄である主人公を出会った頃から蛇蝎のように嫌いイジメを繰り返し最終的には謎の死を遂げる。 そんなの絶対に嫌だ!そう思ったけれど、なぜか僕は理性が非常によわよわで直ぐにキレてしまう困った体質だった。 「おまえもクビ!おまえもだ!あしたから顔をみせるなー!」 今日も今日とて理不尽な理由で使用人を解雇しまくり。けれどそんな僕を見ても、主人公はずっとニコニコしている。 「おはようミーシャ、今日も元気だね」 あまつさえ僕を抱き上げ頬擦りして、可愛い可愛いと連呼する。あれれ?お兄様、全然キャラ違くない? 義弟が色々な意味で可愛くて仕方ない溺愛執着攻め×怒りの沸点ド底辺理性よわよわショタ受け 9/2以降不定期更新

処理中です...