あの人と。

Haru.

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After Story

子供

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 クレアさんはマルク君と一緒に来た。どうやら今日の勉強が終わったらしく、暇だからと一緒に来たらしい。

「すごく綺麗な音色でうっとりしてしまいました」

 キラキラの目をした小さなダグにそう言われて思わずキュンとしてしまいました。その瞬間背後から野生的な視線を感じたのは気のせいではないと思います。

「叔父様のヴァイオリンも凄かったです」

「でしょ? ダグったら剣や魔法を自在に操る凄く凄~く強い騎士なのにヴィオリンも弾けちゃうなんてすごいよね。僕ダグの弾くヴァイオリンが大好きなの」

 おっと、ダグを褒められたのが嬉しくてついのろけちゃいました。でもダグは嬉しかったのか感じる視線が甘くなりました。

「ユキさんは叔父様のことが大好きなのですね」

「うん、大好き! 人生で1番大事な人なの」

「俺も人生で1番ユキが大事だ。愛している」

「ふふ、嬉しい」

 後ろから抱きしめてくれたダグを見上げると上からキスが降ってきました。子供の前だからちゃんと軽いキスだよ! 

「僕もお2人のように心から愛せる人を見つけられるでしょうか」

「うん、きっと。僕達なんて世界跨いでるもん」

 僕が神子じゃなかったらダグとも出会えていないわけで。あまり敬われるのは好きじゃないけど、神子でよかったなぁって思います。

「それもそうですね。僕も叔父様のようになってユキさんのような伴侶を得られるように頑張ります」

「頑張ってね」

「はい」

 お義兄さんみたいにではないんだなぁ、と若干思いながらもマルク君の頭を撫でてあげるとふにゃりと嬉しそうに笑ってくれまして。こ、これは破壊力が……! と小さなダグの子供らしい笑みに思わずキュンとしたらグイッとダグにひきよせられました。見上げてみるとちょっと不機嫌そうな表情をしてました。

 むすりとした大きなダグも可愛くて目一杯背伸びして頭を撫でると優しい目元に早変わり。僕のダグは本当に可愛すぎます。僕の行動ひとつでこんなに喜んでくれるダグが大好きです。

「ダグ可愛い」

「ユキの方が可愛い」

「俺もユキの方が可愛いと思うが」

 淡々とそう言うクレアさんとその横で頷くマルク君にがっかりしてしまう。ダグの可愛さをわかってくれる人はいないみたいです。僕だけが知ってたらいいけども!

「母様、恋は盲目とはこのことですか」

「そうだ。だがユキは可愛らしいだろう? マリオンみたいな馬鹿者にはなってはならない」

「僕も父様のようにはなりたくありません」

 ……お義兄さんこの会話聞いたら泣きそうだなぁ。そして僕もダグもフォローしないあたりがなんとも言えない。尊敬される父親になれるように頑張ってください。

「そ、そろそろ弾きますか? マルク君も何か弾ける?」

「まだ拙いですがヴァイオリンを少し……叔父様のようには弾けません」

 おお、こんなところまでダグに似てるんだね。小さなダグが一生懸命ヴァイオリンを弾いている姿を想像したらキュンとします。おっと、こんなこと思ってたらまたダグが嫉妬しちゃうね。気をつけなくちゃ。

「じゃあマルク君の弾ける曲に合わせようかな? クレアさん、それで構いませんか?」

「そうだな、とりあえずはそうしよう。あとでまたユキとダグラスの2人の演奏を聴かせてくれ」

「はい! じゃあマルク君、弾ける曲を教えてくれる?」

「えっと……」

 おずおずとマルク君が教えてくれた曲は有名な曲で、簡単とは言い切れないくらいのそこそこの難易度のものだった。7歳でそれなら十分すぎるくらいだと思います。これからまだ手も大きくなるだろうし、ダグみたいに上手くなるんじゃないかなぁ。

 その曲なら僕も合わせられるから、とマルク君中心になるように僕とダグとクレアさんはサポートに回りながら楽しい演奏会を開催しました。


**********


「すっごく楽しかったです! それに、ユキさんも叔父様もサポートが上手でとても弾きやすかったです」

「ふふ、よかった。僕も楽しかったよ」

 やっぱり子供らしい笑みを浮かべるマルク君は可愛いです。体格は僕と大して変わらないんだけどね……そこは気にしたら負けです。身長はもう諦めたもん。……夕食会の時、僕が座っている椅子がマルク君と同じものって気づいてちょっとショック受けたけどね。完全なる子供椅子でした。

「また上手くなったんじゃないか? 前より音が安定していた」

「ありがとうございます、母様。もっと頑張ります」

「無理はするなよ」

「はい」

 あ、クレアさんに撫でられるマルク君嬉しそう。そんなところも子供らしくて可愛い……あれ、僕もダグに撫でられていっつも喜んでるな……ぼ、僕も子供っぽいって思われてたのかな……い、いやもう体格も子供みたいなものだしゆ、許され……る、かな……許してほしいなぁ。だってダグに撫でられるの大好きだもん。撫でられないとか考えられません。

 だめかなぁ、とおずおずとダグを見てみたらふっと微笑んで撫でてくれました。

「ユキを撫でるのは俺も好きだから気にするな」

 耳元でそうやって囁いてくれて、嬉しくなった僕はグリグリとダグの手に擦り付きました。こうやって僕の気持ちをすぐに察してくれるダグが大好きです。

「可愛いな」

「ダグの手大好き」

 大きくて優しくていつも変わらず温かいダグの手は僕に安心を与えてくれるのです。きっとおじいちゃんになってもずっとダグに撫でられるのが好きなんだろうなぁ。

「やはり仲がいいな。まだ初々しい」

「えと……えへへ。毎日恋をしているような……そんな気分です」

「ふ、いい夫婦だ」

「……母様と父様も僕がいないところで仲がいいのは知っています」

「マルク! あ、あいつと仲がいいなど……」

 ボソリと呟いたマルク君に顔をほんのり赤くして焦るクレアさん。可愛らしいです。やっぱりクレアさんもお義兄さんのこと好きなんだねぇ。

「僕、弟を楽しみにしています」

「……そのうちな」

 せめてあいつの変態さがどうにかなれば、とかブツブツ呟くクレアさん。たしかにお義兄さんは変態だよねぇ……ダグもたまに変態くさいけどそれよりも飛び抜けた変態というか……なんか方向が違う変態な気がしてそこは直した方がいいと僕も思います。

 そしてマルク君、もう子供の作り方とか分かってるんだね……貴族だから? それともこの世界が成熟してるの? それともまさかお義兄さんが……! うぅん、貴族の跡取りだからそういう教育もあるのだと思いたいです。だって純粋なはずの7歳児がそういうことを口にするのはなんだか複雑なのです。まだ純粋でいてほしい……

「ユキは子供は?」

「僕はもともとできないみたいです。神様にそう言われました。神子の血統は残すと権力問題とかあるから、と」

「そうだったのか……すまない」

「いえ、僕も男の人は子供を産めない世界から来たので複雑な思いもあったので……ダグも子供はいなくてもいいと言ってくれましたしいいのです。だからこそ僕たちは万年新婚夫婦でいようって」

 今も子供が欲しい、という気持ちはあまりない。ダグがいたら僕はそれでいいのです。

「子供ができたらユキがとられてしまいますし。自分の子供ですら嫉妬してしまいそうなのでユキと2人でいいんです。俺はユキさえいればそれで」

 ダグも同じ思いで嬉しいです。望まれても子供を作ってあげられないしね。

「そうか……まぁ、そうだな。子供がいることが幸せとは限らないからな。2人のような夫婦もいいだろう。子供は互いに望んでこそ宝となる。俺も望んでマルクを産んだからこそ宝となったんだ」

「母様……照れくさいです」

「たまにはいいだろう」

 はにかむマルク君を撫でるクレアさんの表情は慈愛に満ちています。いい親子だなぁ……なんだか少し、子供がいる幸せが羨ましくなってしまったのは内緒です。
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