あの人と。

Haru.

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After Story

side.リディア

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 留学先のリンドール学園にて、親しいご友人も出来てキラキラとした笑顔を浮かべながら楽しそうに過ごしていらしたユキ様。お出かけも随分と楽しみにしていらっしゃり、我々も微笑ましく見守っていたのですが……それがまさかユキ様に新たなトラウマを作ってしまうことになるとは思いもしませんでした。

 あの日、昼食を買いに屋台通りへ入った我々は人波に揉まれてユキ様と引き離され……その先でユキ様は誘拐されてしまったのです。ユキ様にはダグラスと共にどこか安全な場所でお待ちいただき、私が購入してくるべきでした。

 ユキ様から引き離された後、我々はすぐさまコルンガの騎士と連絡をとり、協力を要請しました。影からユキ様の警護をしていた暗部の人間は、ユキ様が人と人の間に入ると途端に姿を見失ってしまったとのこと。ちょうど交代時間で見張っていた人員が通常より少なくなっていたことも災いしました。

 そこからは最後にユキ様のお姿を確認できた地点からおおよそのユキ様が流された先を予測し、捜索……しかしユキ様は見つからず……とおもいきや、ラギアスが驚く活躍をみせたのです。

「────こっちです!」

「っ、案内しろ!!」

 何かに集中していたラギアスはおそらく、ユキ様かサダン様、どちらかの匂いを発見し、行き先を特定したのでしょう。迷いなく走り始め、暗部の騎士含め我々も共について行きました。

 ラギアスの案内でついた先はなんでもない一軒家に見えましたが……そこへ押し入ると見張りの人間が3名ほど。すぐさま暗部の騎士が対処し我々は隠されるように奥に位置していた階段から地下へ向かいました。ダグラスが扉を突き破り、中へ入ると────


────そこにはご衣裳を無残にも引き裂かれ、泣きながら組み敷かれている黒髪の、ユキ様が。

 いえ、髪の色などどうでも構いません。ただただ、ユキ様がどれほど恐ろしい思いをしたのかと、それだけが心に重くのしかかりました。

 ブチ切れたダグラスにより犯人はすぐさま制圧され、ユキ様とサダン様の保護に成功。

 ダグラスの腕の中で意識を失われたユキ様をきつく抱きしめるダグラスの様子を見て、私はしばらく2人きりにしようとユキ様に浄化魔法と治癒魔法をかけてから毛布だけを渡し、先に出て行ったラギアスを追いかけるために私も部屋を出ることにしました。

「すまない……守れなくてすまなかった……っ」

 ……部屋を出てすぐ、聞こえてきた悲痛なダグラスの声は今までに聞いたことのないような声音で、思わず振り返りましたがそれも一瞬のことでそっとその場を離れてラギアスの元へ向かった私はまた違った意味でみてはいけないものを見たような気分になりました。

「ちょ、ラギアス、大丈夫だから降ろしてくれ! それよりユーキが……!」

「ユーキ様にはラグルスさんがいる。手も足も擦れているだろう。早く手当をしなければ」

 ……はて、この2人はこのように親しげな様子だったでしょうか。ラギアスから敬語が抜け落ちているなど……これはユキ様が知れば嫉妬間違いなしですね。まぁそれはそれとして、確かにサダン様も同じく攫われた身であり、手足に擦過傷がございます。使われていた縄はあまり清潔そうに見えませんでしたし、すぐにも治癒をしなければなりません。

「サダン様、傷をお見せください。治癒をいたします」

「え、あ……すみません、ありがとうございます」

「いえ。まずは浄化をかけます。痛みがあれば仰ってください」

「は、はい」

 そっと魔法を構築、発動し、綺麗に傷がふさがったことを確認してラギアスに目配せをすればそのまま暗部が手配した馬車へと乗り込んで行きました。未だラギアスに抱えられていたサダン様はまたも騒いでいらっしゃいましたが、ラギアスに気にしたそぶりは一切ございませんでしたね。やはりラギアスに春が到来していることは間違いないでしょう。

 しばらくしてユキ様を抱えたダグラスも上がってきて、そのまま馬車へ乗り込むと全員でお城へと向かうことに。ユキ様のお身体のこともございますし、何より今回のことでユキ様のご正体がばれてしまったこともありますので。今後の対応について国王陛下からのご連絡をまたねばなりませんから。

 できればユキ様の望みを叶えて差し上げたいのですが……安全を考慮するなら、とも考えてしまいます。どちらに転んだとしても、ユキ様の憂いを取り除けられるよう精一杯努めましょう。

 ユキ様を抱きしめてしきりに撫で続けているダグラスはかつてないほどに憔悴した様子。ユキ様をお守りできなかったことが悔しくてならないのでしょう。ですが、そのような様子をユキ様にお見せするわけには参りません。ユキ様のことですからお気になさることが目に見えています。

「ラグルス、ユーキ様にはそのような表情は見せてはなりませんよ」

「……わかっている。ユーキ様が起きるまでには今の感情は抑えておく」

「それならばよろしいでしょう」

 ふと視線を感じてそちらへ視線を送りますと、サダン様が何か聞いていいのか迷ったご様子でユキ様と私を見比べていらっしゃいました。

「どうかなさいましたか?」

「あの、ユーキの髪は、その……」

「こちらが本来のお色でございます。到着次第お話しいたしましょう」

「……はい」

 ユキ様の御髪の色を知ってしまった以上、正体を隠せはいたしません。正直にお話しするしかないでしょう。ユキ様の懸念していた事態にならなければ良いのですが……

 ですが……今の様子からするに、おそらくユキ様のご友人でなくなってしまう、ということはなさそうです。戸惑いが見られるだけで怒りだとかの感情は感じませんから。ただただ神子であったということに驚いているだけに見えます。

 サダン様にはどうか末永くユキ様のご友人であって欲しいものです。ユキ様はお立場上、同年代のご友人を作ることが難しくなっていらっしゃいますから……一般の学生のように過ごされるユキ様は楽しそうで、幸せそうで……我々としましてもユキ様の笑顔が消えるようなことは起きて欲しくないのです。

「あ……魔力の流れを乱す魔法具を使われたんだった……ゆ、ユーキは大丈夫ですか?」

「魔力を……? ご報告ありがとうございます」

 やはり、サダン様はユーキ様から離れることはないでしょう。普通に考えてサダン様も同じものを使われたはずですが、ユキ様のことを第1に心配なさるとは……流石ユキ様。良きご友人を作られたものです。

 魔力の流れを阻害する魔法具は基本的に継続的に使用しない限りは使用後数日ほどで効果は無くなり、障害なども残りません。ですが万が一、ということがございます。今はまだ効果が消えていませんから確認できないのが歯がゆいですね……しかし、今からならまだ万が一に備えて準備ができます。サダン様に感謝しなくてはなりませんね。

「サダン様、明日から毎日光球ルースを試されてください。間違えても上級魔法などをいきなり使わないでください。光球ルースが滞りなく発動出来て魔力の流れに違和感を覚えなくなってから、少しずつ使う魔法を複雑にされてください。1番障害が残りにくい方法です」

「わ、わかりました」

 ユキ様にも後ほど言っておかなければなりませんね……完全に魔力の流れが回復していない中で神級魔法など使われたら……少々想像したくありません。


 その後お城へと着くと国王陛下の元へと案内され、サダン様はガチガチに緊張されていましたが心配の声をかける陛下へなんとか感謝を述べられていました。

 私が簡潔に報告を上げると取り敢えず今は被害者であるユキ様とサダン様に休養を、となりそれぞれに部屋をあてがわれることになりました。私は取り敢えずサダン様はラギアスに任せ私はダグラスとともにユキ様にあてがわれたお部屋へ向かったのです。

 ユキ様のお身体を拭き清め、2人で話し合った結果ユキ様のお心の安定のためにもダグラスのシャツを着せてベッドへ寝かせ、私は後はダグラスに任せてサダン様の元へ向かいました。
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