あの人と。

Haru.

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After Story

春到来

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 手をしっかりと洗ったらラギアスとキッチンに立つ。結構広いから窮屈な感じは一切ないよ。それにしても随分な数の紅茶の缶が並んでるなぁ。これでもリディアにとったら一部でしかないんだろうけどね。多分ここに並べてあるのは使う頻度が高いものだけ。他のは酸化しないように魔法収納に入れているはず。本当にリディアのブレンドティーとか売れると思うんだけどなぁ。

 まぁいいや、今はプリンだ。まずはカラメル作りだね。なくても十分美味しいんだけど、あった方が断然美味しいから僕はちゃんとカラメルも毎回作ります。

「あとでレシピは紙に書いて渡すから分量とかは今は気にしないで手順を確認しよっか」

「はい」

「じゃあまずはカラメルを作るよ。カラメルの材料は砂糖と水だけだよ。小さい鍋に入れて、まずは薄い茶色になるまで火にかけるの。火を強くしすぎたらダメだよ」

 焦がしちゃったら台無しだからね。焦がさないように煮詰めていい色になったら火からおろして耐熱容器へ。簡単だからラギアスにやってもらおう。今回は分量は僕が計るけどね。

「ああ、火が強すぎるよ。もう少し弱くして」

「は、はい」

「ん、それくらい。そのままゆっくりゆっくり混ぜて」

「はい」

 真剣な目つきで混ぜるラギアスの横顔を見つめる。お菓子作りをやりたいって言い出すとはなぁ……いきなりだったしね。今日って言ったらサダン君とお菓子の話をしてサダン君は食べる専門って言ってて……ん? そういえばラギアスってサダン君のこと結構見てるよね。

 ……あれれ? いや、そんなまさか……いやでも……

 ……もしかしなくともラギアスさん、サダン君のためにお菓子を作ろうと……? わぁ、ちょっとまって、ラギアスに春が到来してる?? ちょっとちょっと、これはダグと緊急会議を開かねばなりませんよ!!

「ユキ様、これくらいでしょうか」

「ん? ああ、そうだね。そしたら火を切って、余熱だけで好きな色まで変えるの。好きな色になったらお湯をすこーしずつ入れる。少しずつだよ。撥ねちゃうからね」

「はい」

「カラメルが出来上がったら火から下ろしてこの器に同じ量ずつ入れて」

「わかりました」

 とりあえず今はプリンを作らなくちゃ。会議はあとです。夜にしましょう。

「じゃあその器は置いておいて、プリンの液を作ろっか。まずはボウルに卵を割って、泡だてないように混ぜて、砂糖を加えたら擦るように混ぜる」

「こう、ですか?」

「そうそう、上手だよ。じゃあ牛乳を温めよっか。小鍋に分量の牛乳を入れて、沸騰する寸前まで温めるの。バニラエッセンスは好みによるから今回はなしでやろうか。入れるならこの時に入れるよ」

「はい」

 鍋と牛乳を渡せばヘラでゆっくり混ぜながら温めるラギアス。今までの工程に関しても手元に不安さはないし、なんだかダグよりも先にお菓子作りを覚えそうな気がする。多分ラギアスはもともと料理ができるんだろうね。

「あったまったら、さっき混ぜた卵のところに少しずつ加えて混ぜてね。泡だてちゃダメだよ。気泡の入ったまずいプリンになっちゃうからね」

「は、はい」

 まずくなると聞いて焦ったのかより真剣な顔になって手つきも慎重になったラギアス。可愛いです。

「しっかり混ざったら、茶漉しで液を漉しながらさっきの器に流すの。そっとだよ」

「はい」

 本当に丁寧だなぁ。液をこぼすこともなく綺麗に入れてるし、気泡が入ってる様子もない。うん、美味しいプリンができそうです。

 綺麗に入れられたらあとは蒸して冷やすだけ! この世界にはアルミホイルがないから、ものすごく軽く作られた専用の蓋のようなもので蓋をします。少しずつお菓子作りの器具は自分のお金で揃えているのですよ。

 ちょっとチートをして魔法で粗熱をとったプリンを冷蔵庫に入れたらホッと一息。

「お疲れ様、ラギアス。夜には多分食べられるよ」

「楽しみです」

 ふわっと尻尾を振ったラギアス。思わず背伸びして頭を撫でてしまいました。だって可愛いんだもん。

「ユキ様……?」

「ふふ、なんでもないよ」

「ユキ様、そろそろ夕食になさいましょう」

「はぁい」

 もうそんな時間かぁ。多分夜ご飯を食べて、レシピを書き出して、ってしているうちにプリンも固まると思う。楽しみです。ラギアスが初めて作ったお菓子だもんね。

 夜ご飯をみんなでゆっくりと食べ、食べ終えたら食休みを少し挟む。それからプリンと……ついでに簡単なクッキーのレシピを紙に書き起こしてラギアスに渡せば喜ばれたました。

「ありがとうございます、ユキ様」

「また違うものも作ってみようね」

「はい」

 さて、そろそろプリンも出来た頃かな??

 ラギアスに声をかけて冷蔵庫の方へ行き、プリンを取り出してみればどうやらちゃんと固まっていそうだった。ちょっと傾けてもこぼれそうになることもないし、液体感もない。完成だね!

「ちゃんと出来てるよ、ラギアス。食べてみる?」

「はい。ユキ様もどうぞ」

「ありがとう。みんなで食べよっか」

「はい」

 みんなの分取り出して部屋へ戻り、ダグ達にも声をかけて渡したら、スプーンを片手にいただきます!

「ん~! おいしい! おいしいよラギアス!」

「美味いな」

「本当ですねぇ。うまく出来ているではありませんか」

「ユキ様が教えてくださったからで……」

 ふふ、ラギアス照れてる。尻尾もブンブン振られてるし嬉しいんだろうな。本当にうちのラギアスは可愛いです。

 いやぁ、それにしてもおいしいなぁ……すも入ってないし、トロッと滑らかで美味しい! 初めてとは思えないよ。カラメルもいいアクセントになってます。いくらでも食べられる……

 じっくり堪能してからふとラギアスを見ればチラチラとキッチンの方を見ていることに気づいた。冷蔵庫にはまだ1つプリンが入っている。多分それを気にしているのだろう。

「ラギアス、美味しく出来たしサダン君に持って行ったらどう? きっと喜ぶと思うんだ」

「い、いえ……俺が作ったもの、なんて……」

「こらラギアス。また自分を卑下して。ダメだよ。それにサダン君はそんな人じゃないでしょ? ほら、行っておいで。包んであげるから」

「う……はい……」

 なんとか持っていくことは納得したみたいだけれど、ラギアスの様子からしてラギアスは自分で作ったとは言わないだろうなぁ、って。だからちょっとカードをつけましょう。ラギアスが初めて作ったお菓子だよ、っと……これで完璧! 小さな箱にプリンとそのカードを入れて、紙袋に入れてラギアスに持たせてあげるとものすごく慎重に持ちました。初めてお母さんの誕生日ケーキを買いに来た小さい子みたいな雰囲気が出てます。可愛い。

「はい行ってらっしゃい! 今日はもうお仕事も終わりでいいからね。気をつけて帰るんだよ」

「は、はい。ありがとうございます」

「ん、僕もいつもありがとね」

 ラギアスを見送り、ほっと一息。

「ふふ、ラギアスにも春、ですかね」

「リディアも思った!? だよねぇ……あぁどうしよう、ラギアスには幸せになってほしいなぁ……」

 でも僕は神子ってことを隠してここにいるわけで。深く関わることで僕のことがバレたら……なんてラギアスが気にしてたらどうしましょう。うぅ、自由にしていいのに……!

「サダンをヴィルヘルムに来させたらいいだろう」

「へ?」

「うちの騎士になりたいと言っていただろう? ならせたらいいじゃないか。そうしたらラギアスと一緒に居られるぞ」

「……どうやって?」

 騎士には裏口なんてものは存在しないよ。能力が認められてからの推薦、っていうのはあるけど、その場合もそれを証明するための試験があるし。いくら神子でも僕の一存じゃサダン君を騎士には出来ません。

「俺が騎士になれるまで鍛えてやろう」

「なるほど!! それなら……! 魔法なら僕も教えれるし……よし、サダン君を騎士にするぞ……!」

 そしてあわよくばラギアスとくっつける!
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