あの人と。

Haru.

文字の大きさ
上 下
226 / 396
After Story

ブルー

しおりを挟む
「ふふ、まずはオーソドックスな髪型からね! 三つ編みにして毛先をリボンで結ぶのも可愛いわよねぇ」

 キャッキャッと楽しそうに僕の髪の毛を梳かす母さん。楽しそうで何よりだけど、僕が男だって忘れないでね……

 まずは後ろで一本の三つ編み。たまにリディアにされます。楽で結構好きだけど僕的にはポニーテールの方が楽かな。首に髪の毛が当たるとなんか変な感じがするのです。

 お次は三つ編みとちょっと似てるけど編み込み。全部を一本に編み込まれました。少なくとも男にやる髪型ではないと思う。

 次は……シニヨン? とかいう髪型。よくわからないけどいくつかにブロック分けしてそれぞれを編んでクルクル巻いてピンで固定されました。女の人はこういう髪型もするのかぁ……なんだか重さがぐっと一箇所にかかって辛いです。

 ……頭のてっぺんでのお団子はちょっと女の子すぎないかなぁ。兄さん達編み込みのところから笑い始めてたけどもう爆笑してるよ。

「もうもうもう、ゆきちゃんたらなんでも似合うわ!」

「……ありがとう」

 親孝行、これは親孝行……うぅ、もう少しおとなしい髪型にして欲しいよう……

「次は~そうねぇ、やっぱりこれはやってみなくちゃね!」

 ……嫌な予感がするの僕だけかなぁ。

 心を無にして母さんが髪の毛をいじるのを受け入れる僕。思った以上に女の子らしい髪型にされて複雑な心境だけど我慢我慢……

「でーきたっ!」

 ……うん、なんかね、耳より上の方に髪の毛が引っ張られてる感じがあるよね。二箇所かなぁ……

「ほらみてみて! 可愛いわよ!」

「ひっ、ひぃ……! か、かわいいぞゆき……!」

「ぶっふ……!」

 ……泣きたい。母さん、なんで18歳の息子にこの髪型をさせたのですか。僕ね、流石にね、ツインテールはないと思うんだツインテールは。しかもものすごく高い位置でやりましたね。そして赤い大きめのリボンで結びましたね。

「……解いていい?」

「だーめ! 可愛いからしばらくそのままよ!」

 嘘でしょ……うぅ、辛い……

「父さん……」

「……」

 なんで何も言わずに目を逸らすの……! 肩が震えてるの見えてるからね……! 父さんなら母さんの暴走を止めてくれると思ったのに……!

 そしてね、リディアさん。

「このような髪型もあったのですねぇ……」

 なんて言わないでくれるかな……! これ女の子用の髪型だからね!? 僕男だから!! 文化祭とか宴会とかでノリでやるならまだしも普段からこの髪型をするなんて僕嫌だからね!?

「ふふ、女の子が生まれたら絶対にやってあげたい髪型よね! ゆきちゃんが髪の毛を伸ばしててよかったわ! お母さん長年の夢が叶ってとっても幸せよ!」

 それは良かったです……でもツインテールはどうか今日限りでお願いしたいです……精神がゴリゴリと削られてもう僕ブルーだもん……

 それとね、なんか視線を感じるなぁ、と思ったらダグにものすごく見られてました。穴が空きそうなほど見られてますよ。

「ダグ……?」

「……可愛い」

 ん~っっ! ダグに可愛いって言われるのは嬉しいんだけど髪型が髪型だから複雑!!

「ダグラスちゃんも可愛いゆきちゃん見たいわよね?」

「ユキはいつも可愛いですが……そうですね、普段見ていない姿も可愛くて見ていて幸せになりますね」

 うぅ、ずるいぞ母さん……! ダグの為にならって僕がなると思って……! いやまぁなるけどもね……!! だって大好きな人が喜ぶことしたいじゃん……それが痛いこととか苦しいことじゃない限りさぁ……精神的にダメージあるけどその分後で甘えるからいいのです。

「ふふ、ゆきちゃん? そこからもーっと可愛くしましょ!」

 え……

 ウキウキと楽しそうな母さんによってツインテールはお団子2つに変えられました。ダグの為ダグの為……これはダグの為……

「う~んこれも可愛い! ゆきちゃんったらなんでも似合うわ! 今日はこのままキープね!」

 今日だけだからね……! ツインテールもこれも……!

 げんなりとした僕にリディアがクリームもりもりに加えてチョコシロップがたっぷりかけられたカロリーがやばそうなココアを出してくれました。うん、精神的に疲れた時には甘いものは必須なのでありがたく飲みますとも。

 ……可愛い飲み物をもたせたかったわけじゃないと思いたい。

「うふふ、ゆきちゃんは肌も白いし、蒼ちゃん達よりも華奢だから女の子の髪型でも似合うわねぇ」

 何も嬉しくない……スカートとかはかされないだけマシかな……お化粧もされてないし……いやでもいっそ誰? ってなるくらいに変えられた方が恥ずかしさはないのかな……いや、中身が変わるわけじゃないから結局恥ずかしいか……

「次に舞踏会に参加することになればそちらの髪型にいたしましょう! 話題に上ること間違いなしです!」

 嘘でしょ……!? 話題に上ることがあってもなんだあのバカみたいな髪型はってならないかな……!? 僕これで人前に出る勇気はないよ……

「あら! いいじゃない! 上の方に編み込みをしてからお団子を作っても可愛いのよ!」

「なるほど……勉強になります」

「私も紅茶の入れ方とか聞いたもの! 教えられることがあるならいくらでも教えるわ!」

 教えないで……! 僕のダメージ大きいから……! リディアはやると言ったらやる人だから……!

「僕もう絶対舞踏会に参加しない……」

「おや、舞踏会はまだしも私の結婚式にも参加してくださらないのですか?」

「この髪型で参加しろと……!?」

「私は結婚式に可愛らしいユキ様を見られたらとても幸せだと思うのですが……」

 残念です、と目を伏せたリディアに母さんが可哀想よ! と突いてくる。リディアのは演技だってもちろんわかってるけど、わかってるけど……!

「わかったよ! リディアの結婚式はリディアのしてほしい髪型で出ます!!」

「ではそれに合わせてご衣裳も用意しておきますね!」

 ……早まったかな。この髪型に合うってなるともうビラッビラの衣装しか思い浮かばない……今までの比じゃないくらいにレースを重ねられるんじゃないかな……

 とりあえずね、母さんとリディアのコンビは相性がやばいと思います。

「うふふ、リディアちゃんが結婚なんておめでたいわぁ。お相手は聞いてもいーい?」

「アルバスと言って、一応騎士団長をしています。熊みたいな図体でガサツですが、懐の広い男だと思います」

 僕もそれは思う。アルバスさんって何だかんだ面倒見よくて優しい人だよね。僕のダグだって優しいし面倒見いいしかっこいいし強いけどね!!

「まぁ! 素敵だわ! うふふ、結婚式ってワクワクするわよねぇ……」

 しみじみと呟く母さんは多分自分の結婚式を思い出しているのだろう。

「でもマリッジブルーになっちゃって大変だったのもあるわ。一回不安になっちゃうとズブズブとはまっちゃうのよね」

「あ、僕もなりかけた。でもダグと話してすぐ解決したよ」

「あら、ゆきちゃんも?」

「母さんにお嫁さんをもらった時に相手が辛そうになったらちゃんと話し合ったり寄り添ってあげたりするんだよって言われてたから気づいたの」

 僕がなったのは花婿じゃなくて花嫁でしたけどね。マリッジブルーの存在を聞いてたから原因がポーンっとわかってダグと話して解決。まぁ最初は僕は理由がわかったからいいやーってなったらダグがそうなるまでの気持ちを話せって言ってきたんだけどね。そこまで時間が経ったわけじゃないのにもう懐かしいです。

「よかったわ! やっぱり幸せな方がいいもの。リディアちゃんも不安になったらお相手の方にちゃーんと相談するのよ? 経験者のゆきちゃんに相談してもいいけれど、1番はやっぱりお相手の方と話すことだわ」

「ありがとうございます。覚えておきます」

 アルバスさんならいくらでもリディアの不安を受け止めてくれると思うからね。僕ももちろん相談には乗るけど、アルバスさんに話す様子がなければ僕がアルバスさんを突きに行くよ。リディアが大変だから話し聞いてあげてって。結婚式が近づいたらリディアの様子をしっかりと見ておかなくちゃね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

侯爵令息セドリックの憂鬱な日

めちゅう
BL
 第二王子の婚約者候補侯爵令息セドリック・グランツはある日王子の婚約者が決定した事を聞いてしまう。しかし先に王子からお呼びがかかったのはもう一人の候補だった。候補落ちを確信し泣き腫らした次の日は憂鬱な気分で幕を開ける——— ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初投稿で拙い文章ですが楽しんでいただけますと幸いです。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

追放されたボク、もう怒りました…

猫いちご
BL
頑張って働いた。 5歳の時、聖女とか言われて神殿に無理矢理入れられて…早8年。虐められても、たくさんの暴力・暴言に耐えて大人しく従っていた。 でもある日…突然追放された。 いつも通り祈っていたボクに、 「新しい聖女を我々は手に入れた!」 「無能なお前はもう要らん! 今すぐ出ていけ!!」 と言ってきた。もう嫌だ。 そんなボク、リオが追放されてタラシスキルで周り(主にレオナード)を翻弄しながら冒険して行く話です。 世界観は魔法あり、魔物あり、精霊ありな感じです! 主人公は最初不遇です。 更新は不定期です。(*- -)(*_ _)ペコリ 誤字・脱字報告お願いします!

転生令息の、のんびりまったりな日々

かもめ みい
BL
3歳の時に前世の記憶を思い出した僕の、まったりした日々のお話。 ※ふんわり、緩やか設定な世界観です。男性が女性より多い世界となっております。なので同性愛は普通の世界です。不思議パワーで男性妊娠もあります。R15は保険です。 痛いのや暗いのはなるべく避けています。全体的にR15展開がある事すらお約束できません。男性妊娠のある世界観の為、ボーイズラブ作品とさせて頂いております。こちらはムーンライトノベル様にも投稿しておりますが、一部加筆修正しております。更新速度はまったりです。 ※無断転載はおやめください。Repost is prohibited.

処理中です...