あの人と。

Haru.

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After Story

頑張ったのに!

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 さっそく探りに行こう! と立ち上がろうとしたらラギアスに止められた。

「ユキ様、ダグラスさん、なぜそこまで……」

「当たり前でしょ? ラギアスが僕の専属護衛騎士だって以前に僕ラギアスのこと好きだもん。だからラギアスが困っていたら力になりたいし助けたい。それだけだよ」

 あと単純にラギアスを泣かせた奴が許せない。もうほんと何かしらの罰を与えないと気が済まないくらいに。ええ。

「お前は真面目で曲がったことをしない。俺はお前のそんな真っ直ぐなところが気に入っている。力になれるならいくらだって手を貸そう」

 うんうん、それでこそ僕の愛するダグです!

「ありがとう、ございます……」

「よし、じゃあ行こう! 僕が兵舎の中をちょっと見てみたくなったっていう体でしばらく突き通そう!」

 見つからなければ? 決まってます、神子の権力をフルに使って強制捜査です。実際のところ盗みなんて犯罪なんだし最初っから権力使って一気にやっちゃってもいいんだけど、そこはほら、あれだよ。大ごとにさせる前に介入したらちょっとくらい直接手を出せるかなって。てへ。最終的にはもちろん罪人として突き出します。

「なんなら陛下に頼んで視察の形をとってもいいかもしれないがな。堂々と色んなところに入り込めるぞ」

「んー、確かにいいかもしれないけど、ロイに頼んだら多分僕が動く前にロイが動いて解決しちなうと思うの。僕は直接手を出したいからロイを頼るのはとりあえずなしかなぁ」

「……何をする気だ?」

「ん? じーっくりお話するだけだよ? ついうっかりトラウマ級の幻影魔法を放っちゃうかもしれないけど」

 ほら、僕って結構うっかりしてるから! よく色んなところで躓くし! つい幻影魔法使っちゃうこともあると思うの!

「……そうか」

 なんとも言えない顔をしてすっと目をそらしたダグ。多分ある程度のことは黙認してくれるのだろう。それでも暴走したら止めてくれるはず。有難いね!

「さっそく下に行こっか! ラギアスはどうする?」

「下まで一緒に行かせてください。見送りという体なら不自然ではないと思いますし」

「了解。ダグ、耳打ちしやすいように抱っこして?」

「ああ。1人でも見つかるといいな」

「だねぇ」

 気合は十分! いざ行かん、戦場いくさばへ! なんちゃって。言ってみたかっただけです。





 気合を入れてラギアスの部屋から出て下まで降りてきた僕達。もちろんすれ違った人達の魔力も全部確認してきたけれど、僕が記憶した魔力と一致する人はいなかった。あとは談話室みたいになってるロビーで探して今日のところはおしまい。1人でもいいから見つけたいんだけど……

「どうだ、わかるか?」

「……ごめん、もうちょっと待って。あれに興味持ったフリするから、近づいて説明して。その間に探る」

「了解」

 この会話、まるで恋人が甘い言葉を囁き合うかのようになされたものです。カモフラージュですよ! ちゅっと1つ頬にキスをして会話をひと段落つかせたように見せてから周りをキョロキョロ……

「ね、ダグ、ラギアス、あれなぁに?」

 まるで今初めて発見しましたと言わんばかりにダグに問いかけます。くいくいと胸元の服を引っ張るオプション付きです。

「あれか?」

「うん!」

「ユキ様の身近にはないものですし、初めてご覧になるのかもしれませんね。近くでご覧になってはどうです?」

「俺が説明してやろう」

「いいの? 見たい!」

 ダグに近づいてもらって、さっそく僕は目を閉じてぐっと集中する。これ、壁際にあるからそれに顔を向けてる僕が目を閉じていてもバレないのです。素晴らしい!

「これは好きな時に好きな飲み物を飲める魔法具だ。ここにボタンがあるだろう? グラスをここに置いて、好きなものを選んでボタンを押せば飲み物がグラスに注がれるんだ」

「タダで飲めるの?」

「ああ。騎士団の運営費の一部で賄われているから金はいらない。その代わりと言ってはなんだが、人気の飲み物は無くなるのが速かったりするんだ」

「どれが人気なの?」

「レモンスカッシュだな。体を動かす分、サッパリとした飲み物が好まれる。本当は騎士が1番好むのは酒なんだが流石にここにはないからな」

「なるほど!」

 流石ダグ、僕が一言ずつしか話さなくていいようにしてくれてる。お陰でちゃんと集中して確認出来ましたよ。レーダーにかかったのは2人。

「ダグ、2人いる。どうしたらいい?」

「そろそろ部屋に戻ろうという会話をしながらも、騎士が飲んでいるものに興味を示したユキはきょろきょろと周りを見渡す。わかれば合図してくれ」

「わかった」

「さてユキ、そろそろ部屋へ戻ろう。ここを見たいならいつでも案内しよう」

「ほんと?! じゃあ明日!」

 流石ダグ! このやり取りで明日またここへ来ても変に思われることがないのですね……!

「わかった。明日また来ような」

「うん!」

「お出口までお見送りいたします」

 出口に向かってゆっくりと歩き出したダグの腕の中で僕はさっきの指示通りにキョロキョロと周りを確認。1度探知済みなのでもう目を閉じなくても誰がどの魔力の持ち主かわかります。

「あっ、ねぇねぇダグ、あの人が飲んでるのがレモンスカッシュ?」

まずは1人目! 横に座ってる割と細身の騎士さんに絡んでて、絡まれてる騎士さんがものすごく嫌そうにしてる。無理やりとか考えられないよね。 ダグを見習いなさい!

「いや、あれはおそらくモヒートだな。テーブルに酒瓶が置いてあるだろう? 自分で材料を出して作ったんだろう。レモンスカッシュはあっちだ」

「むむむ……僕お酒はわかんないや……」

「ユキが酒を飲めるようになったら色々と作ってやる」

「うん! あっ、あっちの人が飲んでるのはなぁに?」

2人目! ……はなんだかものすごい色のなにかを飲んでます。何人かの仲間に囃し立てられてそれを一気に……うへぇ。

「あれは……全種類を混ぜたものだな。ただの罰ゲームだ」

「……全部?」

「全部だ」

 ……まずそう。紅茶にオレンジジュースにリンゴジュースにレモンスカッシュにコーヒーに……プリムスの果実水もあったっけ? ……絶対飲みたくない。

「不味いからこそ罰ゲームになるんだ。それにしても不味いがな」

 ……飲んだことあるんだ。何に負けて飲まされたのか気になる……うーん、アルバスさん絡みかな。

「他に気になるものは? なかったらもう部屋に戻るぞ。風呂にも入っていないのだからな」

「んー……うん、今日は大丈夫。お風呂入んなくちゃね!」

「一緒に入るか?」

 ニヤリと笑ったダグに一気に騎士さんたちから視線が集まりました。なんの試練でしょうか。僕今日は結構頑張ったと思ってるんだけどな……!

「ダグのばかばかばか」

「嫌か?」

「だ、だってダグ悪戯するもん……」

 途端にザワッとした周囲。ど、どうして……ってしまった! これじゃ今までに一緒に入ったことあるって言ってるようなものだ!!

「おい、聞いたか?」

「聞いた聞いた。部隊長、やるなぁ」

「あんな可愛い奥さんと風呂かぁ……いいなぁ」

「しかも悪戯だとよ。羨ましすぎるだろ」

「おいやめとけ、ユキ様で想像したら部隊長に殺されるぞ」

「んなことわかってるに決まってんだろ。誰もそんな死に急ぐようなことしねぇよ」

 うぅううう……騎士さん達の会話がものすごく聞こえてきます……! ダグのばかぁ……っ!!

「くっくっく……相変わらずユキは可愛いな。早く部屋に戻って風呂に入るか。期待通り悪戯もしてやろう」

「やだやだやだ……! 1人で入る……!!」

「遠慮するな」

「遠慮じゃない……! ラギアス助けて!!」

「お気をつけてお帰りください」

 なんてことだ、僕の味方が皆無だ……!! この国の騎士は見た目年齢12歳の人間が連れ去られるのをあっさり見送るのか……! 

 薄情なラギアスに見送られ、暴れる僕を軽々と抱え込んでお風呂場へ直行したダグに、僕は隅々まで余すとこなく洗い上げられました。悪戯? されないなんてことがあると思う……? もうね……お風呂から上がる頃にはグッタリだったよね……ダグは逆にそれはそれはイキイキとしていましたよ、ええ……
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