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本編
86 何気ない日に
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あのお出かけから早10日と少し。やっとダグのお休みがきた。ひさびさに一日中ダグとゴロゴロできる日です!!
もうここぞとばかりに朝からベッタリひっついてるよ。ちなみにリディアはまたか……って顔で出て行った。ごめんねリディア。護衛さん達も外で待機させてしまってごめんなさい。
そして僕はこんな日にやりたいことがあるのです!
「ダグ! 二重奏しましょう!!」
そうです、あの日に買った楽譜を一緒に弾きたいのです!
「……もう、か?」
「いきなり最初から最後まではしないよ? 少しずつやろ?」
「……わかった。教えてくれよ?」
「えー、多分ヴァイオリンはダグの方が上手だよ……」
僕ほんとに得意なのはピアノでヴァイオリンはいまいち。弾けるには弾けるけど特技って言えるほどではない。一応習ってはいたんだけどもメインはピアノだったからなぁ……うぅむ……
「一度聴いてみたい」
「うー……ほんとにピアノとは比べ物にならないくらいに下手なんだよ?」
「それでもいいさ。ユキの音が聴きたいんだ」
「……わかった、少しだけね?」
僕もたとえ下手でもいいからダグと二重奏したいってゴリ押ししたから嫌なんて言えないのですよ……
「ああ。よし、そうと決まれば一度俺の部屋へ行こう」
「ダグの部屋?」
「部屋に俺のヴァイオリンがある。それを取りに行こう」
「なんで兵舎に??」
騎士としていたら使わなさそうだけどなぁ……
「たまに弾いておかないと腕が鈍っていくばかりだからな。兵舎に持ちこんだんだ」
「なるほど! じゃあすぐ取ってきてホールで弾こ!」
「ああ」
おっと、楽譜忘れるところだった。僕はすでに例の暗記能力で暗譜済みだけど、ダグはまだ見てないから持ってかないとね!
楽譜を右手に抱えて左手をダグとつないで出発!! 部屋の外で立っていた護衛さんたちは後ろからついてきてますよ。
「ユキ様、ダグラス、どちらへ?」
部屋を出て少しのところにリディアがいた。書類を持っているようだから何かお仕事片付けてる途中だった?
「リディア! これから一度ダグの部屋へヴァイオリン取りに行ってからホールで一緒に弾こうと思って」
ちょうどよかった、リディアに会えなかったら誰かに伝言頼むか連絡石借りないとダメなとこだった。
「そうでしたか、ではお供いたします」
「あれ、でもお仕事あるんじゃない??」
「ああ、これは大したことないので大丈夫ですよ。魔法収納にでも入れておきます」
「そうなの? じゃあリディアも一緒に行こ!」
リディアも魔法収納使えるんだよね。結構色々入れてあるらしい。何かあったときのための僕の着替えとか軽食とか飲み物とか……毛布も入ってるって言ってたかな? 僕のものばっかり……僕が魔法収納習得したら全部引き受けるんだけど……
そのまま3人+護衛でぞろぞろとダグの部屋へ行ってから
ホールへ向かった。
「ダグ、弾いて弾いて!」
「まずはユキから、だな」
ダグのヴァイオリンをすっと渡された。艶やかな綺麗なヴァイオリン。ものすごく高そうで持つだけで緊張する。
「うー、ヴァイオリン久しぶりすぎて弾けるかどうか……」
「好きに弾いてみたらいいさ」
むぅ……とりあえず構えよう。むむ、ちょっと大きめ? 異世界サイズ?
実はピアノも少しサイズが違うんだよね。なんとか慣らしたけど少し大きい。オクターブは問題なく届くから大丈夫なんだけどね。
試しに一音。
「わ、いい音!」
「だろう? 俺も気に入ってるんだ」
「僕が持ってたのはお小遣いで買った安いものだったからなぁ……ピアノは良いものをって父さんが買ってくれたんだけどね」
ローンまで組んで買ってくれたなぁ……僕がいなくなってあのピアノどうしたんだろう。そもそも元の世界で僕ってどんな状態なんだろう……? 行方不明? それとも最初からいなかったことになってる? ……どっちにしても悲しいなぁ……
「ユキ……」
少し元の世界を思い出してしんみりした僕を抱きしめてくれたダグの腕は相変わらず暖かくて。
「ん、大丈夫、ありがと」
「……帰りたいか?」
「……わからない。でも、離れたくない……」
目の前のたくましい胸元へ擦り寄る。
確かに家族には会いたい。会いたくてたまらない。だけど、みんなと……何よりダグと離れるのが嫌で……今更ダグと離れてなんて暮らせない。
「ああ、俺もだ。……俺が幸せにする。ずっとここにいてくれ……」
そう言ったダグの声は少し震えた懇願するような声で。泣きそうになったのをぐっと堪えてぎゅっと抱きつく。
「……うん。僕はここにいる。ずっといるよ……」
「ああ……」
「……ごめんね、もう大丈夫。……もう、そんな顔しないでよ。僕はずっとここにいるよ? 今だって幸せすぎるくらいだもん」
見上げたダグはどこか不安そうな表情で。
「……すまない。もっと幸せにする」
「これ以上? ふふ、楽しみ!」
少しぎこちなくなってしまったけれど笑顔を向ければ優しく微笑んでくれた。
ああ、やっぱり好きな人には笑っていてほしい。
「ね、どんな曲が聴きたい? 僕なんでも弾くよ」
「そうだな、ユキが好きな曲が聴きたい」
「僕が? ん、わかった。ヴァイオリンはうまく弾けるかわからないけど……」
ヴァイオリンは僕の好きだった、簡単だけれど有名な曲を弾いた。懐かしい音色が心地よく響いた。
ああ、この曲だ。懐かしいなぁ……
ピアノはいつも弾いている曲に加えてこの世界では初めてだけれど日本ではよく弾いていた曲を弾いた。
好きな曲を目一杯弾けば暗い気持ちも吹き飛ぶと思った。
でも、弾けば弾くほど、元の世界が思い出されて──
ああ、この曲は父さんが褒めてくれた。
この曲は母さんが好きだったなぁ……
こっちは兄さんにリクエストされたんだっけ。
ああ、どの曲にも思い出がある……
父さん、母さん、兄さん達……みんなが笑って僕のピアノを聴いてくれた、そんな情景が浮かんできて……
手も動かなくなって、ただただ涙ばかりが溢れてくる。
「う……ぁ……っく……」
「ユキ……」
後ろからきつく抱きしめてくれるダグの腕に必死に縋る。
「ひっぅ……ダ、グ…………」
「泣いていい。いくらでも泣け。泣いていいから、泣き止んだらまた明日笑顔を見せてくれ……」
「う、ぁ……うぁああああああっっ!!」
だめだ……やっぱり会いたい。会いたいよ。
まだ僕は覚悟したつもりでも出来ていなかった。
この世界で生きていくことを、覚悟できていなかった。
家族に会いたい。みんなに会いたい。
でも、僕はダグと離れることもできない。
この世界に来て、出会ってしまったから。
人生で1番愛しい人に会ってしまったから。
それでもなお日本を忘れることなんてできない僕は欲張りですか……? 日本を想うことは罪ですか……?
僕をこの世界に連れて来た神様は、なんで僕を選んだんだろう……
これは、なんの試練なんですか……
もうここぞとばかりに朝からベッタリひっついてるよ。ちなみにリディアはまたか……って顔で出て行った。ごめんねリディア。護衛さん達も外で待機させてしまってごめんなさい。
そして僕はこんな日にやりたいことがあるのです!
「ダグ! 二重奏しましょう!!」
そうです、あの日に買った楽譜を一緒に弾きたいのです!
「……もう、か?」
「いきなり最初から最後まではしないよ? 少しずつやろ?」
「……わかった。教えてくれよ?」
「えー、多分ヴァイオリンはダグの方が上手だよ……」
僕ほんとに得意なのはピアノでヴァイオリンはいまいち。弾けるには弾けるけど特技って言えるほどではない。一応習ってはいたんだけどもメインはピアノだったからなぁ……うぅむ……
「一度聴いてみたい」
「うー……ほんとにピアノとは比べ物にならないくらいに下手なんだよ?」
「それでもいいさ。ユキの音が聴きたいんだ」
「……わかった、少しだけね?」
僕もたとえ下手でもいいからダグと二重奏したいってゴリ押ししたから嫌なんて言えないのですよ……
「ああ。よし、そうと決まれば一度俺の部屋へ行こう」
「ダグの部屋?」
「部屋に俺のヴァイオリンがある。それを取りに行こう」
「なんで兵舎に??」
騎士としていたら使わなさそうだけどなぁ……
「たまに弾いておかないと腕が鈍っていくばかりだからな。兵舎に持ちこんだんだ」
「なるほど! じゃあすぐ取ってきてホールで弾こ!」
「ああ」
おっと、楽譜忘れるところだった。僕はすでに例の暗記能力で暗譜済みだけど、ダグはまだ見てないから持ってかないとね!
楽譜を右手に抱えて左手をダグとつないで出発!! 部屋の外で立っていた護衛さんたちは後ろからついてきてますよ。
「ユキ様、ダグラス、どちらへ?」
部屋を出て少しのところにリディアがいた。書類を持っているようだから何かお仕事片付けてる途中だった?
「リディア! これから一度ダグの部屋へヴァイオリン取りに行ってからホールで一緒に弾こうと思って」
ちょうどよかった、リディアに会えなかったら誰かに伝言頼むか連絡石借りないとダメなとこだった。
「そうでしたか、ではお供いたします」
「あれ、でもお仕事あるんじゃない??」
「ああ、これは大したことないので大丈夫ですよ。魔法収納にでも入れておきます」
「そうなの? じゃあリディアも一緒に行こ!」
リディアも魔法収納使えるんだよね。結構色々入れてあるらしい。何かあったときのための僕の着替えとか軽食とか飲み物とか……毛布も入ってるって言ってたかな? 僕のものばっかり……僕が魔法収納習得したら全部引き受けるんだけど……
そのまま3人+護衛でぞろぞろとダグの部屋へ行ってから
ホールへ向かった。
「ダグ、弾いて弾いて!」
「まずはユキから、だな」
ダグのヴァイオリンをすっと渡された。艶やかな綺麗なヴァイオリン。ものすごく高そうで持つだけで緊張する。
「うー、ヴァイオリン久しぶりすぎて弾けるかどうか……」
「好きに弾いてみたらいいさ」
むぅ……とりあえず構えよう。むむ、ちょっと大きめ? 異世界サイズ?
実はピアノも少しサイズが違うんだよね。なんとか慣らしたけど少し大きい。オクターブは問題なく届くから大丈夫なんだけどね。
試しに一音。
「わ、いい音!」
「だろう? 俺も気に入ってるんだ」
「僕が持ってたのはお小遣いで買った安いものだったからなぁ……ピアノは良いものをって父さんが買ってくれたんだけどね」
ローンまで組んで買ってくれたなぁ……僕がいなくなってあのピアノどうしたんだろう。そもそも元の世界で僕ってどんな状態なんだろう……? 行方不明? それとも最初からいなかったことになってる? ……どっちにしても悲しいなぁ……
「ユキ……」
少し元の世界を思い出してしんみりした僕を抱きしめてくれたダグの腕は相変わらず暖かくて。
「ん、大丈夫、ありがと」
「……帰りたいか?」
「……わからない。でも、離れたくない……」
目の前のたくましい胸元へ擦り寄る。
確かに家族には会いたい。会いたくてたまらない。だけど、みんなと……何よりダグと離れるのが嫌で……今更ダグと離れてなんて暮らせない。
「ああ、俺もだ。……俺が幸せにする。ずっとここにいてくれ……」
そう言ったダグの声は少し震えた懇願するような声で。泣きそうになったのをぐっと堪えてぎゅっと抱きつく。
「……うん。僕はここにいる。ずっといるよ……」
「ああ……」
「……ごめんね、もう大丈夫。……もう、そんな顔しないでよ。僕はずっとここにいるよ? 今だって幸せすぎるくらいだもん」
見上げたダグはどこか不安そうな表情で。
「……すまない。もっと幸せにする」
「これ以上? ふふ、楽しみ!」
少しぎこちなくなってしまったけれど笑顔を向ければ優しく微笑んでくれた。
ああ、やっぱり好きな人には笑っていてほしい。
「ね、どんな曲が聴きたい? 僕なんでも弾くよ」
「そうだな、ユキが好きな曲が聴きたい」
「僕が? ん、わかった。ヴァイオリンはうまく弾けるかわからないけど……」
ヴァイオリンは僕の好きだった、簡単だけれど有名な曲を弾いた。懐かしい音色が心地よく響いた。
ああ、この曲だ。懐かしいなぁ……
ピアノはいつも弾いている曲に加えてこの世界では初めてだけれど日本ではよく弾いていた曲を弾いた。
好きな曲を目一杯弾けば暗い気持ちも吹き飛ぶと思った。
でも、弾けば弾くほど、元の世界が思い出されて──
ああ、この曲は父さんが褒めてくれた。
この曲は母さんが好きだったなぁ……
こっちは兄さんにリクエストされたんだっけ。
ああ、どの曲にも思い出がある……
父さん、母さん、兄さん達……みんなが笑って僕のピアノを聴いてくれた、そんな情景が浮かんできて……
手も動かなくなって、ただただ涙ばかりが溢れてくる。
「う……ぁ……っく……」
「ユキ……」
後ろからきつく抱きしめてくれるダグの腕に必死に縋る。
「ひっぅ……ダ、グ…………」
「泣いていい。いくらでも泣け。泣いていいから、泣き止んだらまた明日笑顔を見せてくれ……」
「う、ぁ……うぁああああああっっ!!」
だめだ……やっぱり会いたい。会いたいよ。
まだ僕は覚悟したつもりでも出来ていなかった。
この世界で生きていくことを、覚悟できていなかった。
家族に会いたい。みんなに会いたい。
でも、僕はダグと離れることもできない。
この世界に来て、出会ってしまったから。
人生で1番愛しい人に会ってしまったから。
それでもなお日本を忘れることなんてできない僕は欲張りですか……? 日本を想うことは罪ですか……?
僕をこの世界に連れて来た神様は、なんで僕を選んだんだろう……
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