あの人と。

Haru.

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本編

84 鈍い

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 部隊長としてキリッとお仕事をするダグを想像してニマニマと笑いながら待っているとすぐにぞろぞろと騎士さんを引き連れたアルバスさんが入ってきた。

「おう、ユキ。食堂にいた奴らは連れてきたぞ」

「ありがとうございます」

 結構人数いるなぁ……これしかも全員じゃないんだよね。かなり多めに買っておいてよかった……

 えーと……見たことある人は普段僕の護衛としてきてくれてる人達だよね。見たことない人は……昨日の警備に当たっていた人、か……え? もの凄く多くない? 50人くらいいる気が……

「アルバスさん、本当に全員じゃないんですか? 普段護衛してくださってる方が全員いないのはわかるんですけど……昨日警備してくださっていた方達ってそんなに多かったんですか」

「んあ? おう、まだいるぞ。念には念をってことでな。ま、陛下方が外出なさる時も同じくらいは動かすからな。そんなもんだろ」

 あと20人ほどいるらしい。僕とダグが歩き回ったあの道はもちろん、馬車で通った道も警備してくれいたのだとか。騎士の制服だと何かあるのがバレるから私服でそれとなく怪しい人や物がないか見張っててくれたんだって。

「……すみません、僕の外出でかなりの人にご迷惑を……ここまでとは思っていなかったので……」

 そんなに多い人を動かしてしまったことが申し訳ない。他にもお仕事はあるだろうしもしかしたらお休みを返上した人だっているかもしれない……うぅ、もう僕やっぱり外でない方がいいなぁ……

「おいユキ、勘違いするなよ。昨日の警備は全員自分から希望したんだぞ。というか希望者多すぎてある程度選抜した後は最終的に抽選になったからな。ユキが気に病むこたぁねぇよ」

「え?」

 まさかの事実に唖然とする。
 70人くらいはいるってことなのにまだまだ希望者がいたなんて……でも、いやいやじゃなかったことにほっとしてしまう。望んで警備をしてくれたことが嬉しい。

「だからこいつらはユキからの謝罪なんざ望んじゃいねぇよ」

 ……そっか、僕が言うべきなのは“すみません”や“ごめんなさい”じゃない。



「昨日は警備してくださってありがとうございました。お陰で楽しくお出かけできました。みなさんのおかげです」

 ダグの腕の中からで全く格好はつかないけど、しっかり頭を下げて言えば、ぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。力強い手の主を辿ればニカリと笑ったアルバスさんがいた。

「おう、正解だ。こいつらもその言葉だけで嬉しいだろうよ。なぁ、お前ら?」

「「「はい!!」」」

「……本当にありがとうございました。これ、昨日警備してくださった皆さんで分けてください」

「はっはい! ありがたき幸せ!!」

 タイミングよくダグが出してくれたお土産を近くにいた騎士さんに渡すと挙動不審になりながらも受け取ってくれた。
 騎士さん達へはお菓子の詰め合わせを買った。ありきたりかもしれないけれど他に思いつかなかったんだ。

「またいつか外出することがあればお願いしますね」

「「「はい! お任せください!!」」」

「おい、次回もお前らとは限らねぇぞ!! ……ったく、仕方ねぇ奴らだな」




「ええと、それから……普段僕を護衛してくださってる皆さんも、本当にいつもありがとうございます。おかげで安心して過ごせます。これ、僕からの感謝の気持ちです。皆さんで分けてくださいね」

「ありがとうございます。我々護衛一同の喜びはユキ様が健やかな毎日を送られることです」

「うん、いつもありがとう。これからもよろしくね」

「末永くお守りいたします」

 受け取ってくれたのはラギアス。僕を護衛してくれる騎士さんは多いけれど、僕の専属護衛騎士はダグとラギアスだからね。護衛の中ではダグの次にラギアスが偉いことになるんだよ。
 ちなみに護衛してくれてる騎士さん達にもお菓子の詰め合わせ。だけどこっちの方が少し豪華になってるんだ。


「ユキ、こいつらにまでありがとな。ユキから直接もらえて嬉しいだろうよ。またいつでも兵舎に顔だしてくれや」

「はい、ありがとうございます」

「よし、お前らそらそろ昼も終わりだ! ユキに敬礼!」

「「「はっ!!」」」

「解散!!」

 アルバスさんの掛け声で集まっていた騎士さん達はみんなバタバタと出て行った。

「ユキ、ありがとうな。俺はもちろんあいつらもかなり喜んでた。まさか土産なんてもらえるとは思ってなかったからなぁ……」

「少ないですけど、お世話になった方への感謝の気持ちです。少しでも喜んでもらえたのなら嬉しいです」

「そりゃ嬉しいさ。騎士に直接そんなことする奴なんざいねぇからな」

「お世話になった方へ感謝の気持ちを伝えることは当然のことです」

 感謝の気持ちを伝えることは最低限の礼儀だと思う。親しき仲にも礼儀ありっていうし、例えどんなに親しい友人でも、それこそ家族だとしても最低限の礼儀は忘れちゃダメだと思う。

「ま、それが当たり前なんだがな。その当たり前を理解してねぇ奴が多いってことだな。やってくれて当たり前だと思い込んでるやつは多いんだよ」

「……悲しいですね」

「まぁな。ま、おっちゃんはユキがいい子で嬉しいぞ」

 そう言ってまたぐしゃぐしゃと頭を撫でられた。とっくにボサボサにされた髪を抑えながら僕はいつまでも礼儀だけは忘れたくないと思った。

 礼儀だけはと叩き込んでくれた両親に感謝しなくちゃ。







 まだお仕事があるアルバスさんと別れ部屋へ戻る道の途中、ダグの腕の中で大人しくしているとはっと気づいた。

「ラギアスにキャンドルホルダー渡し忘れた……」

 うぅ、しまったなぁ……いつ渡そう……お菓子と違って腐ったりはしないから遅くなっても別にいいんだけど僕としてははやく渡したい……

「……今夜にでもまた参りましょう。今は任務中でしょうから、終わった頃にでも」

「いいの?」

「ええ。おはやく渡したいのでしょう? またお連れいたしますよ」

「ありがと、ダグ」

 代わりに渡しておくってこともできるのに、その案を出さないのは僕が自分で渡したいって思ってることをわかってくれてるからだよね。やっぱりダグは僕の気持ちを理解してさらにそれを優先してくれる。優しくて甘い大好きな恋人。

「いえ、ですがお一人で行かれてはなりませんよ」

「? 僕だってラギアスの部屋の場所知らないから行けないよ?」

 行こうと思っても僕迷子になっちゃう。それにいくらお城の中でも護衛の問題があるんだろうし流石に1人では出歩かないよ?? そんな迷惑なことしようとは思わないのです。

「……そういう意味ではないのですが」

「ん? 何か言った?」

 何かボソリと聞こえたけれど、この距離でもあまりに小さすぎてちゃんと聞こえなかった。

「いえ、なんでもございませんよ」

「そう??」

 ……なんだったんだろう?? え? 鈍い?

 ……どういうこと??





 夜になってキャンドルホルダーを渡しに行くとラギアスはものすごく喜んでくれた。笑顔でホルダーをキュッと握りしめるラギアスはものすごく可愛かったです。
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