あの人と。

Haru.

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本編

83 兵舎の食堂で

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 あの後、長く居座ってお仕事の邪魔をするのは、と退散し、早めに昼食をとって現在兵舎に来てます。

 おそらく食堂にいるだろうと、迷いなく歩を進めるダグの腕の中で、騎士さん達から集まる視線に身体を縮こめる。

「神子様だ……」
「なんでここに?」
「神子様どっか体調でも悪いのかな」
「いつもなら楽しそうに歩いてるのにな」
「大丈夫かな……」

 ……ごめんなさい、体調は悪くないです。身体が痛いだけです……お昼になってもまだまだ痛くて動けないってどういうこと……




 食堂に着くと、お昼時なためかなり賑わっていて空席はほとんど見当たらなかった。それぞれが友人や仲間達と会話を楽しみながら食事をとってる。僕はまだ気づかれていないからさっきみたいに視線は集まっていない。

 ダグが食堂を見渡し、目当ての人物を見つけたのかその方向へ一直線に進んでいく。ダグの視線の先には随分と図体の大きい、豪快に食事を取っている人。間違いない、アルバスさんだ。


「アルバスさん!」

 あと10歩ほど、というところで声をかければ食事の手を止めてこっちを振り向いたアルバスさん。

「んあー? おお、ユキじゃないか! どうしたんだ?」

「お久しぶりです。昨日街に行ったお土産を、と思いまして」

「おっちゃんにか? そりゃ嬉しいねぇ」

「ユキ様、こちらを」

「ありがと。

はい、アルバスさん。気に入ってくれると良いのですが……」

 出してくれるように言う前にサッと出してくれたダグの手から少し大きめの箱を受け取ってアルバスさんに渡す。ちなみにダグは僕を片腕で軽々と抱えられるから片手離して魔法収納から取り出しても何も問題ないのです。

「おお! 本当にくれるとは! だーいじょうぶ、ユキがおっちゃんの為に選んでくれたってだけで嬉しいからな!」

 みんなそういうなぁ……本心としか思えない表情で言われるから多分本心で間違いはないと思う。
 流石に嫌がらせでしかないものはあげるつもりないけど、本当になんでも喜ぶのか試したくなっちゃうのは僕だけ?

「開けても良いのか?」

「どうぞ!」

 おっ、アルバスさんは意外に丁寧に包装を剥がすタイプか! 大きな手でそっと包装紙を破かないように剥がしてる様は見ていてなんだかほっこりする。
 ……ラスはビリッビリだったからなぁ……え? 別に根に持ったりなんてしてないよ? 包装は包装だもん。

「おおっ! グラスじゃないか!! おっちゃん酒飲むの大好きだからなぁ……今夜から使わせてもらうな」

「ダグにアルバスさんはかなりお酒を飲むって聞いて。大きめのものにしてみました。酔っ払って割っちゃったりしないでくださいね」

 ちょっと冗談めかして言えばアルバスさんはニカッと笑って僕の頭をポンポンと撫でた。

「おっちゃん滅多なことじゃ酔わねぇから大丈夫だ。ちゃんと大事に使うさ。

それにしても……ユキが動けなくなるほど、ねぇ。なぁ、ダグラス?」

 あ、だめだアルバスさんニヤニヤしだした。かんっぜんにばれてる。そして面白がってる。
 ここに来た時に何も言われなかったからちょっと安心してたのに……!!

「おーいダグラスくん? 可哀想にユキ、全身痛いんだろう? いやぁ、こうなった経緯が知りたいねぇ」

 ニヤニヤと……! ニヤニヤと……!!

「……職務中ですので」

「あいっかわらずクソ真面目だなぁ。どーよ、ユキちゃんは寂しくねぇのか? 恋人がこーんな堅っ苦しい態度でよ」

 アルバスさんほんっと楽しそうだなぁ……多分アルバスさんは僕が寂しいって言うと思ってるんだろうね。そうしたら恋人を寂しがらせるのかーってダグを突くんだと思う。
 でも、残念ながら僕は護衛中のダグも大好きなのです!

「寂しくなんてないですよ? 恋人としてのダグも、護衛としてのダグも大好きなので。どっちのダグも、僕を大事にしてくれているのがわかりますから!」

「ユキ様……」

「ふふ、ダグ大好き」

「はい、私もお慕いしております」

 うー、微笑んでるダグ見てたらキスしたくなってきた……ダメダメ! 今はダグは任務中! さっき護衛としてのダグも大好きっていったのにそれを邪魔することなんてしちゃダメ! 朝にこういうのはお預けって言ってたじゃないか!!
 それにここはいっぱい視線あるし……って本当に視線多い!! めちゃくちゃ騎士さん集まってる!! うわ、さっきの僕の言葉聞かれた?! 恥ずかしい!!!

 キスどころじゃなくなった僕はぽすりとダグの首筋に顔を埋めて視線から逃れた。

「ほぉ、甘えちゃって可愛いじゃねぇの」

 甘えて……? ……はっ! 今の僕って側からは恋人に甘えてるようにしか見えないのか!!!

 うぅううう、でも今更顔なんてあげれない! だって今顔真っ赤だもん!!!





「ユキ様、他のお土産はよろしいのですか?」

 ダグの首筋に顔を埋めたままなかなか引いていかない顔に集まった熱に困っていると、ダグから声がかかり、その言葉にハッとなる。

「そうだった……! アルバスさん、いつも護衛してくれている騎士さん達と昨日警備に当たってくれていた騎士さん達、集められますか?」

「んあ? あー、全員はちと厳しいがこの中にいるメンバーなら取り敢えず集めれるぞ」

「なら少しだけお時間貰えますか?」

 本当は全員に直接お礼を言いたいところだけど、わざわざ集めてもらうのも申し訳ないし諦めよう。今日調節言えなかった人には他の人に伝えてもらえるように言っておかないとね。

「かまわねぇよ。そうだな……会議室でも開けっか。ダグラス、先に行ってろ」

「はい。ユキ様、行きましょう」

「うん。アルバスさん、お手数かけてすみません」

「なぁにこれくらいなんてことねぇよ。先に行って待ってな」

「はい」

 そのまま食堂を後にして兵舎内の会議室に向かう。と言っても歩いてるのはダグで僕はその腕の中でおとなしくしてるだけだけどね。



 ついた場所は大学の講義室のような広い部屋。

「ダグもここで普段会議とかするの?」

「そうですね、ここは頻繁に使いますね。といっても会議というよりは情報交換の為にですね。騎士には情報交換等も重要となってきますので、ここで他部隊の部隊長や私の直属の部下と情報を交換し合うんです」

「へぇ……」

 ここで他の騎士さん達と話し合うダグを想像してみる。
 
 ダグは部隊長だからきっと前に立って部隊の騎士さん達を取り纏めてるんだよね。
 真面目なダグは無駄なことは怒るけれど、きっとどんな細かな情報も聞き逃さない。もしかしたらそれが何か重要なことに繋がってるかもしれないからってね。だから例えどんな些細な情報でもそれを出した部下を蔑ろにしたりはしないと思うんだ。

 ……僕の想像でしかないけど僕の恋人かっこよすぎませんか?!


「どうされました、随分とご機嫌ですね?」

「内緒!」

 ついついダグをキラキラとした目で見てしまうのも仕方ないと思うの!!
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