あの人と。

Haru.

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本編

75 街へ

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 2時間ほどアーノルドさん達と一緒に過ごして、そろそろ街へ向かうことになった。
 ちなみに僕の呼び方はユキちゃんでもう定着したようで、マリオンさんにまでユキちゃんと呼ばれた。ダグと同じ顔でユキちゃん……今度ダグにも呼んでもらおう。

 エントランスホールまで降りてアーノルドさん達と挨拶を交わす。

「ユキちゃん、シーズン中だけじゃなく私達がいない時でもここを使っていいからね。街に出た時の休憩所にでもしておくれ。機会があれば本邸の方にも遊びにおいで」

「はい、ありがとうございます。アーノルドさん達もお城に来た時はお声をかけてくださいね」

「ああ、そうするよ。ユキちゃん気を付けて街に行くんだよ」

「はい、はしゃぎすぎないように気を付けます」

 リディアにヴェールとローブを着けてもらい、馬車に乗り込む。窓から外を見ると、外からは中は見えないだろうに手を振ってくれていた。僕も見えないだろうけど、と軽く手を振り返すとゆっくりと馬車は動き始めた。アーノルドさん達の姿が見えなくなると大人しく座りなおし、目的地までのんびりと過ごした。





「着いたようですね。いいですかユキ様、街中には騎士も配置していますがダグラスからは絶対に離れないでください。ヴェールもフードも取ってはいけません。気になるものがあってもお一人で先に行ってはなりません。もしもユキ様が神子様だと気付かれた場合、直ちに騎士でユキ様を囲み、お出かけは強制的に終了です」

「わかってる。僕も迷惑はかけたくないからちゃんと守るよ」

 馬車が止まると今日までに何度も言われたことをまた言われた。僕が街に出ること自体が迷惑かかってる気もするけどそこは頻繁に行くわけじゃ無いから許してほしい。

「はい、ならばどうぞ本日はデートをお楽しみ下さいね。本日はこちらでユキ様のお気に召した物をご購入下さい」

「ありがとう、リディア。リディアにも何かお土産買ってくるね!」

 渡されたお財布はずっしりと重たく、結構な額が入ってるように感じる。無駄遣いだけはしないように気を付けよう。

「では楽しみにしていますね。ダグラス、頼みましたよ」

「ああ、わかっている。さあユキ行こう」

「うん!」

 馬車を降りてダグと離れないようにギュッと手を繋ぐ。いわゆる恋人繋ぎってやつです。照れるけどあれだね、日本だったら男同士で街中で手繋いだりとかなかなかできないけどこの世界だと堂々とできるのは嬉しいね。


「何から見る? この通りなら自由に見ていいぞ」

「うーん、何があるのかわからないし歩きながら気になったところに入ろうかな」

「じゃあゆっくり歩くか」

「うん!」

 この通りはお店が集中していて、庶民向けから貴族向けまでいろんなお店が並んでるらしい。だから通行人も結構いろんな人がいる。かといって治安が悪い感じもなくて居心地のいい通りだ。

「ダグ、あれはなに?」

 なんか白いポワポワした巨峰くらいの丸っこいものを量り売りで売ってる。さっきからそのお店の袋を持ってる人を見かけるから結構人気なのかもしれない。

「あれはフルラだな。ふわふわとした軽い食感の菓子だ。甘すぎず食べやすいぞ。食べるか?」

「ちょっと食べてみたい」

「じゃあ買うか」

「うん!」

 どんな味かな? 近づけば近づくほど甘いミルクの匂いがしてきてすごく美味しそう。

「いらっしゃいませ!」

「そうだな……3掬いくれ」

「3掬いですね、900ギルになります」

 僕は注文の仕方がわからないからダグに任せると、店員さんはおたまでフルラの山から3掬い分を袋に入れてくれた。
 あ、因みにこの世界の通貨はギルだよ。庶民の平均月収が15万ギルいくかいかないかくらいだからフルラはちょっとお高めかもしれないね。そんなに頻繁には買えないお菓子、かな。

「ちょっとダグ、僕貰ったお金あるのに」

 量り売りといっても厳密に量るわけじゃなくてざっくりおたまで掬うだけなんだなぁと興味深げにフルラの山を見ていたら、ダグが先にお会計を済ませてしまっていた。

「いいじゃないか、初めての外でのデートなんだ。恋人に払わせてくれ」

「う……ありがとう」

 優しく微笑まれちゃったからありがたく受け取ることにする。ダグもお出かけ嬉しいって思ってくれてるって思うとかなり嬉しい。

「どういたしまして。ほら、食べていいんだぞ」

「ん、いただきます!」

 1つ摘んで袋から出してみるともうふわふわ過ぎてちょっと力を入れると潰してしまいそうなほど。ドキドキしながら口に含むと、ふわっと蕩けて甘いミルクの味が口の中に広がった。ほんのりとバターの香りもしてあまりにも美味しくて思わずダグをバッと見ると微笑ましそうに笑われてしまった。

「そんなに美味いか、良かったな」

 ほとんど顔は見えない筈なのに僕が物凄い喜んでるのがバレたみたいだ。動きでわかるのか。

「美味しい!! 僕これ好き!!」

「ははっ、そんなに気に入るとはな。もっと買えば良かったか」

「ううん、十分だよ! ありがとうダグ、すごく美味しい!」

「それは良かった。好きなだけ食べていいぞ」

「うん!」

 ふわって……ふわって溶ける……アイスとは違うのになにこれ……おいしい……

 黙々と食べているといつのまにかあと半分になってしまっていた。結構量あったのに……

「ん? もういいのか?」

「帰ってから食べる。なんかもったいなくて」

「また買ってやるから全部食べてもいいんだぞ?」

「ううんいいの、大事に食べるの」

 だって初めて買ってもらったものでもあるし……半分も一気に食べちゃったの実は結構後悔してるんだよ。

「そうか? ならもう魔法収納マジックボックスに入れておくか?」

「うん、お願い」

 魔法収納は上級魔法。異空間を作って収納スペースにする魔法で、その中には生き物以外ならなんでも入れておけるんだけど、魔力の強さで入れておける量が変わるらしい。ダグは魔力もかなりある方だから入れておける物も多いんだって。
 便利だから僕も覚えたいなあって思ってるんだけど、僕はまだそこまでたどり着いてないんだよね。

「また食べたくなったら言うんだぞ」

「うん」


 フルラを食べるのに離していた手をまた繋ぎ直してぶらぶらと歩き、少しいったところで見つけた楽器屋さんに入った。

「ねぇねぇ、ダグは何か楽器弾けないの?」

「ふむ……ユキほどではないが一応ピアノとヴァイオリンは弾けるぞ。家でやらされていたからな」

「そうなの?!」

 これがギャップ萌えってやつ……?! 物凄く男らしい騎士なダグがピアノもヴァイオリンも弾けるなんて物凄くグッとくるものがあるのですが……!

「一応これでも貴族だからな。何かしらの楽器はある程度やらされるんだ」

「物凄く聴きたい!! ね、ね、ピアノ二重奏やってみよ? それかダグがヴァイオリンで僕が伴奏の二重奏! あ、僕一応ヴァイオリンも弾けるからヴァイオリン二重奏もありかな……ね、一緒に弾こ?」

 いろんな組み合わせで二重奏できる……! うわぁ、絶対楽しい!!

「やりたいなら構わないが俺は本当に一応弾けるだけだからな? ヴァイオリンはどうなのか知らないが少なくともユキのピアノのレベルには合わせられないぞ」

「それでもいい! 一緒に弾けるだけでいいの!! ね、楽譜選ぼ!」

「あまり難しいのはやめてくれよ?」

「はーい」

 ふふ、どんなのがいいかなぁ?


 あれこれ話し合いながらとりあえずヴァイオリンソナタの楽譜を数種類とついでに僕が気になったピアノの楽譜も買ってみた。ピアノ二重奏はとりあえず日本で聴いたことのある曲を後で譜面に起こしてみようかなって思って買わなかった。
 あ、ちなみに楽譜も翻訳対象なのかバッチリ読めるし書けるみたいです。


「楽しみ!」

「あまり期待はしないでくれよ?」

 とか言ってダグはさらっと弾いてみせそう……ってダグがヴァイオリン弾いてるところ想像してみたらかっこよすぎてやばかった。
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