あの人と。

Haru.

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 髪を優しく梳かれる感触にゆっくりと覚醒していく。

 覚醒しきらないまま薄く目を開けると見えたのは微笑む愛しい人。

 まだその温もりを感じていたくてスリスリとすり寄れば、一瞬動きが止まった後に抱きしめられ、頭を撫でられる。

 あたたかくて優しい大好きな腕。

「はは、くすぐったいぞ」

「ん──……」

 離れたくなくてぎゅーっと抱きつけばくつくつと押し殺した笑い声が聞こえる。

「ユキ、リディアが来るぞ?」

「う──……?」

 りでぃあ。リディアが来る……?

「ほら、朝食も俺と一緒に食べるんだろう?」

「たべるぅ……」

 一緒にごはん……

「起きないと食べられないぞ?」

「や──……」

 ふるふると頭を振って抱きつく。

「じゃあほら起きような」

「んぅ…………う……?」

 優しく抱き起こされるとだんだんと頭が覚醒していく。

「起きたか?」

「……ダグ? あれ、僕……っ!!」

 寝ぼけてた……! かんっぜんに寝ぼけてた!!

 途端に恥ずかしくなって起こされた身体をもう一度倒して布団に頭までくるまる。

「はは、可愛いな」

「わ、忘れて!!」

 寝ぼけて擦り寄るとか恥ずか死ぬ!

「悪いがそれは無理だな。ほら、諦めて顔を見せてくれ」

「うぅ~っ」

 僕がくるまった布団をポンポンと叩いて促される。

 でも確かにいつまでもくるまっててもしょうがないし……リディアも来るって言ってたし……諦めて出ましょう……

「真っ赤だな」

「い、言わないで!!」

 わかってるから! わざわざ言うなんて意地悪!!

「はは、悪いな。

……身体は大丈夫か?」

 途端に心配そうな声で聞いてくるダグにはて、と首をかしげる。



 ……あ、そうだ、昨日の夜……!!

 い、言われてみれば少しの違和感、があらぬところに……あと太もも痛い……これは慣れない体勢から、かな……

「え、と……ちょっと違和感ある、かな……? あと多分太ももが筋肉痛……」

 恥ずかしいけど心配してくれてるんだから正直に言う。隠し事してもバレるし。ダグとリディアの僕センサーすごいから。

「そうか……無理をさせたな。どうする、辛いなら今日は授業も休んで一日休むか?」

 今日は月曜だから普通にヴォイド爺の授業がある。

「そ、そこまでのものじゃないよ! 大丈夫、普通に動けると思うから授業はちゃんと受ける」

 そ、それに休んだりしたら理由恥ずかしすぎるでしょ!! 昨晩の行為の名残で下半身に違和感があるので休みますって……!!

「わかった。だが少しでも無理そうだと判断したら問答無用で休ませるからな」

「うえ?! もう、ダグは心配性すぎるよ。大丈夫って言ってるのに」

「いいだろう? 昨日は俺のために頑張ってくれたんだ。心配もするさ」

 だ、ダグのため……口に出して言われるとものすごい恥ずかしいな……! 間違ってはないけど!!

「うぅ……」

 ふしゅーっと湯気が出ているんじゃないかってくらい顔が熱い。真っ赤になっているであろう顔を両手で隠しているとなでなでと頭を撫でられた。
 そろりと指の隙間からダグを見ていればものすごく幸せそうに微笑んでいて。

 愛しい人が幸せそうにしてるもんだから僕もつられてなんだか笑ってしまう。
 穏やかな朝がたまらなく幸せで。こんな日常がいつまでも続くといいなぁ、なんて思うけれどもそれを口に出してしまうと何かのフラグっぽくなってしまうから口には出さない。絶対に。

 顔を覆っていた手を離してダグに笑いかけると軽くキスしてくれる。そんなキスも嬉しくて幸せでたまらない。バカップル? いいんです、幸せだから!





「ユキ様、おはようございます。お召し替えをいたしましょう」

 それから間も無くやってきたリディアによって着替えさせられ、ダグも騎士の制服へと着替えた。あ、別室で着替えましたよ。だって男同士だけど恋人だもん。恥ずかしいんです! ダグも別室で着替えるのには賛成したんだよ。理性がなんちゃらとかいう理由だと思われます。

 それから騎士の制服姿のダグと朝ごはんを食べまして。なんだか任務中のダグとご飯食べてるみたいでソワソワした。護衛中は口調も変わっちゃうしね。


「ユキ、そろそろ護衛に移る」

「あ、そっか……」

 もう恋人としての時間はおしまいかぁ……うぅむ、寂しいなぁ。ものすごく近くにいるのに恋人として過ごせる時間が少ないんだよぅ……

「そんな顔をするな……また休みの日には一緒に過ごしてくれるか?」

「……! うん! 一緒にいたい!!」

「はは、俺もだ。さぁ、もう任務に移るぞ?」

「あ、まってまって」

 ちらりとリディアを見ると何か察してくれたのか視線を外してくれた。それを確認してからダグの首に手を回してちゅっと軽くキスをする。一瞬だけなのはあれだよ、リディアがいるからであって背伸びの体制がキツイからとかじゃないからね。断じて。

「ユキ……」

「ふふ、今日もよろしくね?」

「は──……

はい、本日もよろしくお願いいたします」

 瞼を閉じて1つ深く息を吐いてから護衛モードに切り替わったダグ。

 一瞬で切り替えれるダグカッコいい!! 寂しいって思ったけどこれはこれでアリ……? あ、でも恋人モードがあまりにも少ないと耐えれないから、ダグのお休みの日とかはちゃんと恋人モードにチェンジしてもらうよ!
 ほらあれだよ、普段いちゃいちゃできない分いちゃいちゃできる時間は余計に幸せに感じるよ、きっと。


 うーむ、でもリディアもそうだけどダグのお休みって確か大体10日に一度だよね。いや、半日休っていうのはもうちょいあるんだけども、丸一日ってなると10日に一度くらい。
 そうなると1ヶ月に恋人として丸一日過ごせるのはたったの3日間……流石に少なくない?! 半日休って完全なお休みじゃないから基本自室で待機だし……どこか行くときは申請が必要らしいし……

 いや遠距離恋愛の人からしたら3日でも十分多いかもだけどさ、こんだけ近くにいてそれは少なくない……?

 もっと恋人としての時間が欲しいけど護衛として頑張ってくれるダグを困らせるようなことは言えない……!

 うぅ、ここはリディアに相談、かな? 僕に香油を託したリディアのことだよ。きっといい案も思い浮かぶよ。




 ってなわけで下半身の違和感と戦いつつ1日を乗り切り、お風呂にてリディアに相談しましたところ。

「要は任務中でなければよろしいのでしょう? ダグラスが夜の警護に当たっていない日にでも泊まらせればよろしいのですよ。なんならダグラスの着替えもこちらのお部屋に置きましょう」

 なんて言われまして。

 それだ! ってなった僕は早速ダグに提案。ダグももっと恋人としての時間が欲しかったらしくあっさりとその話は通りまして。
 毎回ではないけれどダグの夜の警護がない日は時折僕の部屋で泊まることになり、晴れて恋人として過ごせる時間は増えることになりましたとさ。
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