あの人と。

Haru.

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本編

60 少しの覚悟

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「ああ、そうだユキ様。こちらをダグラスにお渡し下さい」

 マッサージが終わり、服を着せてもらった後に渡されたものは綺麗な小瓶だった。傾ければとろりと動く中の液体は香油だろうか。

「なぁに? 香油??」

「はい。いくらでも使って構わない、と言っておいて下さいね」

「リディアが渡すんじゃダメなの?」

 まだ今日中にダグとリディアも顔合わせるし。渡せるよね?? なんで僕に託すんだろ。

「是非にユキ様からお渡し下さい。その方が喜びますから」

「……? よくわからないけど、わかった。この香油は見たことがないけどどんなものなの?」

 普段僕の髪や身体にってリディアが使うオイルの瓶はある程度覚えているけど、これは見たことがない。

「お肌に優しいものです。しかしマッサージには少々向きませんので、ユキ様には使用したことがないのですよ」

「そうなの? ふーん……まぁいいや、とりあえず渡しておくね」

 マッサージ以外に何に使うのかよくわからないけどとりあえずダグに渡そう。渡せば何かわかるかもしれないしね。

「はい、よろしくお願いしますね」

 ……? なんだか意味深な笑みを浮かべているリディアが不思議だったけれど気のせいだと思うことにしよう。きっと見間違いだよ、うん。

 とりあえず小瓶はポケットに入れておくことにして部屋へ戻った。






 すでに戻ってきていたダグの隣へ座り、リディアの出してくれたミルクティーを飲み干すと、リディアは書類が残ってるからと行ってしまった。
 僕のお世話以外にお仕事があるのは知っているからそれは構わない。僕のせいで書類が滞ったりしたら大変だからね。

 ……でもダグと2人きりになってしまった。嫌なわけじゃないよ?! でも、なんだか夜に2人きり、っていうのは昼間に2人きりになるより緊張する。やっぱりそういう時間、ていうイメージがあるから、かな……?


 あ、そうだ。緊張をほぐすためにさっきリディアに託された香油をダグに渡そう。話題も昼間に色々話したのと緊張のせいで思い浮かばないしちょうどいいや。


「あ、そうだ。ダグって普段から香油使ってるの?」

「使ってないが……なんでだ?」

 あれ? 使ってないの? じゃあなんで渡すように言われたんだろ? まぁいいや、とりあえず渡そう。

「あれ? なんかね、リディアがダグにこれをって。いくらでも使っていいって言ってたよ。肌に優しい? らしいよ。使う?」

 そう言ってダグに小瓶を渡せば、目に見えて固まった。ビキシッて音が鳴った気がする。

 あれ? どうしたんだろ? 嫌いなものだった?

「……ユキ、これがなんだかわかるか?」

「香油じゃないの?」

 リディアもそうだって言ってたよ?

「そうだな、香油だ。たしかに香油なんだが……」

 言いづらそうな様子のダグ。ただの香油じゃないの?

「なぁに?」

「……これは性行為用の香油だ……」

 ……せいこういよう。


 …………。

「うえ!!? えっ……えぇっ!!?」

 ちょっ、はっ!? リ、リディアはなんてものを渡してくれてるの!!!!?

「……気持ちはわかるが落ち着け。大丈夫だ、ユキが怖くなくなるまでコレは使わない」

 問題の小瓶はテーブルへ置き、慌てる僕を落ち着かせるように優しく頭を撫でてくれるダグ。

 ……なんだか用途を知った途端に小瓶がものすごくやらしいものに見えてきたぞ……

 でもダグはその……したい、んだよね……僕が怖がってるからって抑えてくれてるだけで……

 ……僕も少し勇気を出さないとだめ、だよね。

 最後までするのはまだその、体格的に怖い、けども……体格差なんてどうにもならないし、最後までするには慣らすのが必要なわけで。

 今からそれをやっててもいいんじゃ、ないかな……むしろ今からでも慣らし始めないといつまでたっても最後までできない気がする。それはダグにも悪い、ような……

 でも慣らすのだけで最後までしないって生殺し……? うぅ、でも慣らさないといつまで経っても出来ない、し……ぼ、僕だって好きな人と繋がりたいとは思うんだからね……! ただ、怖さが残ってるってだけで……

「どうした、ユキ。何を悩んでいるんだ? 無理しなくていいんだぞ?」

 頭を撫でてもらっているまま考え込んでいたらダグが心配そうに聞いてきた。

「……その、ダグと最後までするのはやっぱり、かなり慣らさないとだめ、だよね……?」

「……そうだな、ユキにはかなり無理をさせることになるだろうからな。だからこそ無理強いはしない」

「う、うん、ダグの気持ちは嬉しい、よ。でも、その……僕だってしたくないわけじゃない、わけで……でもまだ最後まではちょっと怖くて…………それで、その……」

「ああ、ゆっくりでいい。ユキの気持ちを聞かせてくれ」

 ダグは真剣な表情で聞いてくれている。僕の言葉を、待ってくれている。

 やっぱりダグは優しいなぁ……

「その……慣らすだけ、って無理、かな……? ひ、酷いこと言ってるとは思うよ。慣らすだけさせて最後まではだめ、なんて……で、でも、今から少しずつでも慣らしたら怖さも早くなくなっていくかな、って……」

 そこまで告げるとダグはキツく抱きしめてくれた。

「……ありがとう、ユキ。俺を受け入れようとしてくれているんだろう? 怖いだろうに、そんな風に考えてくれて嬉しい。
酷くなんてあるものか。本当はユキが怖くなくなってから、何日もかけてゆっくり慣らしていくつもりだった。だが、ユキがそう考えてくれたのなら、今から少しずつでも慣らさせてほしい。
痛い思いはさせない。強引に進めることも絶対にしない。ユキが嫌だと感じたらすぐにやめよう。最後までは絶対にしないと誓う。

……だから、俺を受け入れるための準備をさせてくれ」

 そう言ったダグの声は少し震えていて……少しだけ泣きそうになった。
 どこまでも僕を気遣ってくれるダグの愛がたまらなく愛おしい。愛おしくて苦しいほどだ。

 僕を力で押さえつけるなど造作もないだろうに、それをしないで僕の気持ちを優先させてくれるダグが、狂おしいほどに愛しい。

 愛しい人の愛に応えたい、ただその一心で僕もキツく抱きしめ返し、頷いた。

「う、ん……うん。僕も、早くダグを受け入れられるように頑張るね」

「ああ……無理だけはするなよ?」

「ん、大丈夫。そんなことしたらダグが怒りそうだもん」

「はは、そうだな」


 僕たちはキツく抱きしめ合っていた腕をゆっくりと緩め、顔を見合わせるとそのまま深い深いキスをした。

 熱く、とろけるようなキス。
 脳がジンと痺れ、たまらなく気持ちいい。

 そっと目を開いてみると金色の輝きと目が合い、ゆるく微笑まれる。

 ゆっくりと唇を離すと間に銀色の糸が走り、いやらしく光った。

 銀色の糸が切れるとダグは僕の1番大好きな微笑みを浮かべた。

「ユキ、愛している」

「僕も、愛してるよ」
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