あの人と。

Haru.

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本編

41 vs竜人

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「お待ちください!!!!!!!!!」

「あ~はいはい、案内ご苦労様。まったくうるさいなぁ……」

 突然入って来た男の人は、直感的に竜人だとわかる人だった。多分、この人がドラゴスニアの第3王子。あ、他にも何人か竜人いるってことはこっちが護衛か。
 ……騎士と神官の制止を振り切って来たんだな……

「案内などしておりません!!! 貴殿が無理矢理に侵入したのでしょう!! 我々は止めたはずです!!!」

「ははっ、あんなにご丁寧にここまでの道塞がれてたら誰でもこっちに神子サマの部屋があるって予想ぐらいつくでしょ。
俺たち神子サマに会いに来てんだからそりゃくるよねー。
てか人間ごときが俺を止めるとか何様?」

 ……やっぱり人間を見下してる。竜人至上主義の噂は本当だったんだね……会いたくなかったなぁ……




「んで、なぁんで俺は剣を向けられてるのかなぁ? 人間ごときが俺に剣を向けていいと思うなよ。
……獣くせぇと思ったら首輪なしの獣までいるじゃねぇか」

「ここは神子の間だ。いくら貴殿でも許可なく立ち入ることは許されない。
護衛達は侵入者から神子を守ろうとしているに過ぎない」

 アルが第3王子にそう答えるが、相手は竜人至上主義。王妃の言葉も聞かないだろう。

「はあ? なんで俺が人間の許可をもらわないとダメなわけ?
まぁいいや。俺が用あるのは神子サマだしお前らは許してあげる。俺の寛大な判断に感謝することだね」

 ……やっぱりアルの言葉も聞かない。ってなるともう僕……いやの言葉しか通じないってことかな……
 うぅん、それも通じるかどうか……
 神子を敬う気持ちがあるようには見えないし……



「さぁて……お初にお目にかかります、神子サマ? 私はドラゴスニアの第3王子、アレクセイ。
貴方様は貴いお方。このような人間ごときの国にいるべきではありません。どうか私どもと参りましょう」

 一見神子を敬っているように見えるけど、その仕草はわざとらしく、浮かべた笑みもよく見れば目が笑ってない。
 目があうとぞくりとしたものが背筋に走ったが、身体の震えを必死に抑え第3王子を見据える。
 ここでひるめば負けてしまう。


「……私は貴様がこの部屋に立ち入ることを許可していない。直ぐに立ち去れ」

 わざと偉そうな言葉遣いを選んだのは、神子として発言していることを見せるため。こんな言葉遣いはしたくなかったけど、として発言すれば人間の言葉としてとられ、第3王子に通じなくなる。
 こんな言葉遣いをした僕にアルやリディア達は一瞬驚いた様子を見せたが、その意図を直ぐに理解したようだ。

 この場を収めるためならば神子の立場をフル活用してやる。

「どうなさいました神子サマ。ああ、人間達を庇っているのですね!
やはり人間は貴方様に悪影響でしかないようだ。さぁ、我らと共にドラゴスニアへ参りましょう。我ら一同歓迎いたしますよ」

 だめだ、話が通じない。

「私は貴様らと行く気はない。今すぐ自国に帰るがいい」

「なぜです? 貴方様はここにいるべきではない」

「私がどこにいるべきかは私が決める。貴様らが決めることではない」

「……ちっ。めんどくせぇ……
お前ら! 神子を捕まえろ! ドラゴスニアに連れて帰ればこっちのもんだ」

 神子に対しても本性を出した第3王子は僕を無理矢理連れて行くことにしたようだ。


 ……命令なんてしたくないんだけどな……だけどそんなこと言ってる場合じゃないよね。

「神子、幸仁の名においてヴィルヘルム王国騎士団騎士団員に命ずる!! ドラゴスニア第3王子含む侵入者を排除せよ!!」

「「「「「「はっ!!」」」」」」

 僕の命令に集まってきていた騎士が一斉に剣を抜く。とたんに部屋が戦闘モードに変わり背中には嫌な汗が流れる。

「アル……これで良かったのかな。他に方法が思いつかなくて……」

 竜人たちからは目を離さずに、囁くようにアルに話しかける。
 アルも同じように視線を動かすことなく小さく返す。

「ああ、十分だ。これで騎士たちは神子の命令という大義名分のもとで竜人たちに剣を向けられるからな。
それに、ユキをドラゴスニアに連れていかれたら救出が難しくなる。今この場で決着をつけないわけにはいかない」

「私もそう思います。ご立派でございましたよ」

「……ん、ありがと。僕命令とかしたくなかったんだけどな……」

「仕方ないさ。大丈夫、俺たちはちゃんとわかってるから」

 アルの言葉に重くなっていた心は軽くなる。

 




 しかし次の瞬間、騎士たちが突然ばたばたと倒れていった。

 血は流れていないから外傷はないはず……だけど突然どうして……

 騎士たちが剣を抜いてから竜人たちはそっちを向いていたけど、竜人たちが何かしたの……?

 今立っているのは僕とアル、リディア、ダグ、ラギアスと竜人たちだけ。だけど竜人たちと僕とダグ以外はどこか辛そう……?

「はあ……ったく、面倒なことしやがって……ま、でもこれで邪魔者は全部なくなったしさっさと神子サマ連れて帰るかね……って、は? なんでお前ら立ってんの?」

 またこっちを見た第3王子は僕以外が立ってることを予想していなかったのか不快感をあらわにする。

 ……やっぱり第3王子が何かしたんだ……

「へぇ~、竜人の威圧に耐えれんだ? さっすが神子サマの護衛って感じ?
ま、神子サマは渡してもらうけどね」

「ユキ様はドラゴスニアへ行くことをお望みではない。よって貴様らにはユキ様は渡さない」

 ダグが第3王子に静かに返す。
 一見落ち着いているように見えるけど、ダグからは強い怒りが感じられる。

 だけど怖さは全く感じなくて、むしろ絶対的な安心感を感じる。
 
「人間ごときが俺ら竜人に勝てると思うなよ……!」

「貴様らこそ人間だと侮るなよ」

「ちっ……お前ら、やれ!!」

 第3王子の声に向こうの護衛達が一斉にかかってきた。向こうの護衛3人に対しこっちの護衛は2人。しかも敵は竜人。明らかに分が悪い。










 ……と思ったけどダグの強さは想像以上で、竜人2人にされていない。ラギアスは竜人1人に少し圧され気味だけどそれでも負けてはいない。

 魔法を放っては剣を振るダグは素人目から見てもかなり強いことがわかる。
 洗練された動きに竜人もなかなか攻撃を入れられないようだ。







「くそっ、本当にめんどくせぇ奴らだな!! ならこうしてやる!!!!」

 なかなか決着がつかないことにイラついた様子の第3王子が僕を見据え、ニヤリと笑った。
 その笑みにぞくりとしたものが背中を走ったかと思えば、第3王子が伸ばした腕から何かが放たれた。



 まるで、空気でできたやいばのような──


「「「ユキ様っっっっっっ!!!!!!!!」」」
「ユキっっっっっっっ!!!!!!!!!」



 それが僕に向けられた攻撃魔法だと気づいた時にはそれはもう目前に迫っていて、くるであろう衝撃への恐怖に思わず目を瞑ってしまう。














 




 しかし、いつまでたっても衝撃は来ない。

 不思議に感じた僕はそろりと目を開けた。














 すると目に入ったのはきらきらと光る銀色で──

「ははっ!! やっぱり庇った! これでそっちの戦力はないようなもんだね。さ、神子サマを連れて国に帰るか」

「ダ……グ……?」

「ぐっ……ご無事、ですか……?
お逃げ、下さい……リディア、行け……!」

 ダグは辛うじて立っているけれど身体に力が入っていないのは一目瞭然で……





 ダグが僕を庇って、血が────





「ユキ様! こちらへ!!! ユキ様!!!!!」

 リディアが僕に何かを言っているが聞こえない。





























「い、いやぁぁあぁあああああ!!!!!!!!!」




 僕の中で、何かが切れる音がした──────
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