あの人と。

Haru.

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本編

40 第3王子

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 側にダグがいる安心感と、異例の出来事に対する少しの恐怖の中、リディアを待っていると、リディアと共にアルがやってきた。

「リディア!! それに、アルも……?」

 アルがこの部屋に来るなんて初めてのことだ。異例のことが起きてる今、初めてアルがこの部屋に来た意味は──

「ユキ様が見つけられたあの竜人はドラゴスニアの第3王子殿下とその護衛数名でした。
やはり来訪の予定はなく、突然の来訪のようです」

「第3王子? どうして来たの?」

 王族が他国の王城へ先触れなく訪問するのはどうなのだろうか。外交問題とかに発展しそうだけど……

「それが……」

「神子……つまりユキに会わせろって、その一点張りなんだ」

 言いづらそうに言葉を濁したリディアの代わりに、アルが口を開いた。

「僕……?」

「ああ……いきなり城にやって来たかと思えば、謁見の間に勝手に押し入ったと報告があって、慌てて俺とロイが向かえば、礼もなしに神子を出せってな……いくら竜人の王子であるとはいえ、他国の王族、それも国王に会うとなれば、礼を尽くし、下手に出るのがマナーなんだが、かなり上からな態度でな……」

「陛下方がお披露目もしていないユキ様を他国の王族に会わせるようなことはできないと断られたのですが、それでも会わせろと譲らないのです」

 ロイ達が断っても会わせろって言い続けてるのはわかったけど一個わからない言葉があった。

「お披露目? お披露目って何?」

「そろそろお話ししようと思っていたのですが、神子様が降臨なさり、世界に慣れた頃に披露目の場を設けるのが慣例となっているのです。
黒髪黒目のお姿を世界に広め、神子様が降臨したことを証明するのが慣わしとなっております」

 え、僕そんなことしないとなの? お役目ないって聞いてたけどお披露目はあるの?

「役目とかなかったんじゃ……」

「申し訳ありません、ユキ様。
民衆の心に平穏をもたらすためにもお披露目はかかせないのです……
はじめに申しますとユキ様は混乱なさるだろうと、落ち着いた頃にお話しすることになっていたのです」

 ……うん、今まさに混乱中です。
 でも確かに、神子が来たよーって聞くのと、実際目にするのとじゃ全然違うよね。まぁお披露目をしたところで、世界中の全員が見れるわけじゃないだろうけど、一部の民衆が実際に見たってなれば、信憑性が上がるしね。王家の発表だけでだれも姿を見たことがないってなると、本当にいるのかってなるかもだもんね。
 ……神子って平和をもたらすとかそんなのだから、お披露目は必要、か……うん、それで多くの人が安心するっていうならそれは受け入れよう。

 だけどね、ちょっと気になることがあるんだよね。


「ねぇ、リディア。お披露目の必要性はわかったよ。僕もそれは受け入れる。
んでね、さっきの言葉から察するに、僕、お披露目したら他の国の王族とかと会う機会があるってことかな?」

 僕がそういうとリディアはしまったって顔になった。

 だってそうだよね。ロイはお披露目をしていないから断ったんでしょ。じゃあお披露目をしていたら?

「そ、その……義務ではないのです。勿論、ユキ様が拒否なさればそれで構わないのですが……
ユキ様に御目通りを、と願う国が殆どなのです。お披露目をしていない今ですら、国書を持った各国の使者がこの国を訪れていまして……」

「……なるほど。うん、まだちょっとそれは受け入れがたいけどそれはおいおい考えよう。幸いお披露目もまだだしね」

「ええ、それで構いません」

「ん、じゃあそれは置いといて今は来ちゃった竜人の王子様だよね」

 今まではあくまでも国書をもった使者だったから断りの文言をしたためた書を持たせて国に帰らせたら良かったんだろうけど、今回は先触れもなく王子が直接来て、しかも国王に礼を欠く行為をしてるから問題なんだよね。

「それなんだがな、ユキ。会わないって文を書いてくれないか」

「ん? 会わなくていいの?」

 それは僕としては万々歳だけども。

「俺たちとしては、会わせたくないんだ」

「どうして?」

「第3王子はちょっと危険な噂があってな……」

 危険な噂? それを理由に会わせたくないって言うのはよっぽどのものなんだろう。

「どんな噂?」

「ドラゴスニアの第3王子の派閥は、竜人至上主義で、人間を含めた他種族を支配しようと画策している、と。この大陸を支配し、竜人である自分達がその頂点に立つのだと、ドラゴスニアの中で言い続けているらしい」

「竜人って他種族を下に見たりしてないんじゃなかったの?」

「元々竜人至上主義の竜人がまったくいなかったわけじゃないんだ。だが、本当にごく少数で、しかも権力者ではなかったからさしたる問題はなかった。
そこに第3王子の噂だ。幸い、竜人は基本的に無関心な気質だから勢力はあまり伸びていないらしいが、危険なことに変わりはない」

「うーん、そんな第3王子がに会わせろ、って言うのは……」

「間違いなく、ユキを取り込もうとしている」

 やっぱそうだよね。流石に僕もそれは予想がつくよ。
 世界中で同じ神を信仰している以上、竜人にとっても神子は崇める対象だからね。そんな神子を取り込めたら勢力は確実に伸びる。

「だよね。そうなると僕としても会いたくないなぁ……僕は全種族が平等であって欲しいからね。竜人至上主義には賛同できない。
取り込まれるつもりはさらさらないけど、どんな手を使ってくるかわからない以上接触は避けたいところだね」

「ああ、ユキが賢くて良かった。
そうなんだ、だから俺らは王子達の申し出を断ったんだがまるで聞く耳を持っていない状態でな……
埒があかないからユキに直接会いませんって書いてもらおうと思って。
ちなみにレイにはドラゴスニアの王家に連絡を取らせてるんだけどな。第3王子が来たのは向こうの王家は把握してるのかどうか確認のためにな。あいつ向こうの王太子と仲良いからさ」

 レイがドラゴスニアの王太子と仲が良かったとは……王太子同士仲いいってのは国にとってかなりいいことだね。

「じゃあ確認はレイに任せて、僕は会いませんって言う文を書こうか。
リディア、書くもの用意して」

「すでにご用意しております」

「ん、ありがとう」

 さすがリディアは仕事が早い。

「んー、どんな文がいいかな────

って、ラギアス、どうしたの?」

 突然ラギアスが剣を抜いて扉の前で構えた。

「……竜人の気配が近づいています」

「なんだって?! まさか、ロイは何をやってるんだ……!」

 ラギアスの答えにダグが素早く反応し、僕とアルを背後にかばうと同様に剣を抜いて構えた。

「ユキ様、王妃陛下、お下がりください」

 いつのまにかリディアもどこから出したのか短剣を構えて僕を庇うように立っていた。


 初めての緊張感にかなりの不安が襲う。それに気づいたのかアルが手を握ってくれたが、やはり不安はぬぐいきれない。


 そうしているうちに扉の外がどんどん騒がしくなってきて─────












「お待ちください!!!!!」

───バン!!!!


「やぁっぱここだ! 遅いから待ちくたびれてこっちからきちゃったよ」
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