あの人と。

Haru.

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本編

34 side.リディア

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 あれは数日前のことでしたでしょうか……ユキ様の護衛メンバーにダグラスがいなかった日の午後のことでした。

 ユキ様に、このように言われたのです。

「あのね、ダグに抱き締められるのと、ロイやアルに抱き締められるのとじゃね、なんだか感じ方が違うの。
ロイ達は家族みたいなものだから、そっちの方が安心感とか強いのかと思えば実はそうじゃなくてね? リディアはなんでかわかる??

あっロイ達には言わないでね? こんなこと言ってたって知られたら怒られちゃいそうだから」

 いつかユキ様にもお好きな方ができるのだとはわかっていたのですが、まさかこんなにも早いとは……!!!

 ユキ様自身はその想いには気付かれていないようで本当になんでかわからない、と言った様子でいらっしゃいましたが、そんな相談を受けたら誰でもわかるでしょう。

 ダグラスは少々堅物な面もありますが、真面目で気遣いもできるいい奴です。ユキ様を傷つけるような真似はしませんでしょうし、あいつならば私も安心してユキ様を任せられます。

 ですがあのダグラスのことです。ユキ様の想いを知れば、ユキ様から距離を置き始めてしまうでしょう。
 自分なんかがユキ様の隣に立つなどおこがましい、などと考えてしまうのが目に見えてわかります。

 下手したら護衛の任を降りかねません。
 そうなってしまえばユキ様は悲しむでしょう。恋心にはまだ気付いていらっしゃらない様子でしたが、ダグラスに想いを寄せているのは間違いないでしょうからね。

 以前陛下が新しく護衛を紹介した際にも、ダグラスが辞めてしまったのかと随分と悲しまれていらっしゃいましたから、本当に辞めたら……
 今思えばあの時からユキ様の心はダグラスに傾き始めていたのでしょうね。

 そう考えると、あの日の護衛にダグラスがいなくて本当に良かったと、つくづく思います。あの日の会話を聞いていたら、ダグラスもユキ様の想いに気付いていたでしょうからね。




 そして本日、午前にユキ様はヴォイド神殿長の講義を受けられ、その後神殿長とお話をされました。
 やはりユキ様はまだダグラスへの想いへ気付いていらっしゃらないご様子で、私へ尋ねたことと同じようなことを神殿長に尋ねていらっしゃいました。

 本日の護衛にはダグラスがいたので少々焦りましたが、ユキ様は名前を出さなかったので、バレてはいない様子でした。
 ただ、ダグラスも誰かに想いを寄せているとは気付いた様子で、お休みになられたユキ様の元から下がった現在、夜。ダグラスが自室へと訪ねてきました。本日は夜の警備は違う者が担当のようですね。

「おい、ユキ様が想いを寄せているお相手は一体誰なんだ」

「仕える主人のプライベートを詮索するなど無礼に当たりますよ」

 我ながらこの言葉はいい回避方法だと思います。これはこれからも使えそうですね。

「だが……! もしも危険な人物だったらまずいだろう。護衛として知っておかないわけにはいかない」

 おや、そこを突くとはなかなかやりますね。ではこういうことにしておきましょう。

「いえ、少なくとも危険な人物ではありませんよ。勿論私も相談を受けた身として調査済みです。
護衛もなしで2人きりで会うようなこともしてらっしゃらないようですし、危険はないでしょう」

 ほとんど事実ですし、何も問題はないですよね。
 危険な人物でないことは確か。調査はしていませんが、腐れ縁なのでどんな人物かは分かっています。
 そもそも相手が護衛なので護衛を除いて、なんて会っていませんしね。

「そう、なのか……?
その人物は本当に危険はないんだな?」

「ええ、それは確かですよ」

 あなたはユキ様に危害を加えないでしょう。

「そうか……その人物は俺も知っている者か?」

「ええ、知っていますよ」

 そもそも本人ですしね。

「何?! じゃあユキ様がお会いになっているところも見ているのか?!」

「ええ、見たことあるでしょうね」

 そりゃもちろん。基本毎日一緒にいますよね。

「なんだと?! なぜ俺は気付かなかったんだ……」

 いやこの場合気付かれてたら逆に困ります。あなた気付いたら絶対ユキ様のこと避けるでしょう。

「まぁ、気付かなくてもしょうがないでしょう。ユキ様自身が恋心に気付いていらっしゃらないので、本人の前でそのような様子を見せているようでもありませんしね」

「そうか……誰なのか気になるが、お側にいて危険な人物と接触なさったことはないし、問題はないか……」

「ええ、そうですよ。あなたやたらと野生の勘みたいなの優れていますし、危険な人物が寄っていたのならすぐにわかるでしょう?」

 こいつの危機察知能力半端じゃあないんですよね。

「それもそうだな。ユキ様が想いを寄せているお相手はお前しか知らないのだろう? ユキ様に危険が及ばないようにそのお相手に気を配っておいてくれ。もちろん俺もユキ様の様子には気をかけておくがな」

「ええ、勿論です。危険が及びそうならばあなたに報告しますよ。私も一応護身術は身につけていますし、いざとなれば命に代えてもお守りします」

 我々神官は万が一の侵入者にも対応できるよう、一通りの護身術を身につけることが義務付けられているのです。
 そもそも相手がダグラスなので危険はありませんしね。

「ああ、それなら安心だ。頼んだぞ」

「ええ、あなたもユキ様から目を離さないように」

 護衛として、なんて私は言ってませんよ?

「ああ、勿論だ」

 部屋を出て行ったダグラスを見送り、思わず安堵のため息がひとつこぼれました。
 よかった、とりあえずは本人にバレることは回避できましたね。せめてユキ様がご自身の想いに気付かれるまではバレないでいてほしいものです。

 ダグラスはどうでもいいですが、ユキ様には幸せになっていただきたいですからね。ユキ様の幸せのためにも、ダグラスが身を引くなどあってはなりません。

 この先ダグラスがユキ様のことで悩むようなことがあれば、相談くらいにはのってあげましょうかね。
 ダグラスのため? いえいえ、全てはユキ様のために。

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