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第二十三話・真っ直ぐな言葉

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 ーー媚薬怪人との戦いは難航した。

 やはり四天王、五人揃って戦ってもなかなか隙を作れない。

『ミダラーファイブ・・・・・・その程度か‼︎』

 媚薬怪人が、媚薬成分を濃縮した空気砲でオトヤとユウキを吹き飛ばす。

「ぐぁッ・・・・・・‼︎」

「うっ‼︎」

「ーーユウキ、オトヤ‼︎」

 慌てるシン、しかし助けに行こうにも怪人の攻撃の手が全く緩まらない。

「・・・・・・クッ、私が前に出ます‼︎」

 レイジは抱き起こしたユウキにリビドーライフルを任せると、鞭を取り出して駆け出した。

「ーー皆、聞こえるか。怪人の核は胸の中央だ。近づくのが難しければ、弓矢か銃で狙い撃て」

 無線からリヒトの声が聞こえてくるが、皆その指示を実行できるかどうか、全く自信が持てない。

 オトヤは吹っ飛ばされた時に足を挫いたらしく戦闘不能、ユウキはなんとかライフルを構えているが、彼は絶望的なまでに射撃が下手である。

「・・・・・・シン君、私が隙を作るのでシン君は敵の背後に周り首を絞めて動きを止めてください。その瞬間にアオイ君が核を撃ち抜く。これしかありません」

 レイジが言うのに、シンは息切れに肩を上下させながらもしっかりと頷いた。

「聞いてたか、アオイ。やるぞ‼︎」

 発破をかけるシン。しかし、アオイの返事はない。

(~~ッ、アオイ・・・・・・‼︎)

 ぎゅっと唇を噛み締め、もどかしさに苛立つシンを横目に、レイジが駆け出す。

 シンも持ち前の脚の速さで走り出すと、怪人の背後に回り込んだ。

『すばしっこい奴め・・・・・・我の媚薬で腰抜けにしてやる‼︎』

 どうやらガスマスクの存在を知らないのか、必死に媚薬を噴出してファイブにぶっかけてくる怪人。

 その触手に似た四肢に、レイジが鋭い鞭攻撃を打ち込む。

 怪人がひるんだ、その一瞬の隙をついて、シンは怪人の背に抱きつくとその首を思いっきり締めた。

『ぐあぁっ‼︎』

「ーーアオイ、今だ‼︎」

 シンが声を張り上げる。・・・・・・しかし、矢は飛んでこない。

「・・・・・・アオイッ‼︎」

「ッ・・・・・・‼︎」

 アオイの焦燥が伝わってくる。弓を構える手がぶれて、上手く狙いを定められない様子だ。

『離せ、離せぇっ‼︎』

 触手をばたつかせ、暴れる怪人。なんとか押さえつけるも、長くは持たなそうだ。

「ーーアオイッ‼︎」

「アオイ君・・・・・・」

「アオイ・・・・・・‼︎」

 皆の呼びかけにも答えず、アオイは弓矢を構えたまま手を震わせる。

 その仮面の下では青白い顔をして、ミダラースーツの中に冷や汗を流す。

(あぁっ・・・・・・もう‼︎ アオイの馬鹿野郎ッ‼︎)

 ーー痺れを切らしたシンは、怪人に必死にしがみつき首を絞めながら、己のガスマスクを外し、仮面の前面すら開放して素顔を晒した。

「なっ・・・・・・シン⁉︎ なにしてッ・・・・・・」

 全員、仮面の下で目をまんまるに開いて驚く。

「ーー喋りづらいんだよッ、こうでもしないと、伝わらない‼︎」

 アオイを真っ直ぐ見据え、声を張り上げるシン。

「アオイ‼︎ 今お前が本当は何を悩んでるのか、俺は分からないッ・・・・・・でも、これだけは言わせてくれ‼︎」

『うるさいッ耳元で大声を出すなぁぁあ‼︎』

 怪人が暴れる。噴出された媚薬ガスを直に吸い込んでしまい、シンはゲホゲホと咽せた。しかし、アオイに向けた言葉を必死に紡ぎ続ける。

「ーー俺もッ・・・・・・お前が好きだ‼︎ たとえリビドーのためでも、俺以外とはシて欲しくない‼︎」

「ッ、シン・・・・・・‼︎」

 いつも天邪鬼で、素直になれなくて、ツンケンしてばかりのシンが、真っ直ぐな言葉を向けてくるその姿に。

 アオイは、弱っていた心をグッと奮い立たされ、胸を打たれた。

「アオイが好きだから、だからッ・・・・・・こんな戦い終わらせて、ちゃんとアオイと付き合いたい‼︎ 同じ気持ちなら、アオイっ・・・・・・ 俺と一緒に戦ってくれ‼︎」

 シンの顔は、恥ずかしいほど素直な言葉を必死になって叫んでいるからか、それとも媚薬が回ってきたのか、真っ赤になっている。

 そんな姿を目にしたアオイは、ギリ、と歯を食いしばり、弓矢を力強く引き絞った。

(ーー俺は、なんて情けないんだ。シンにここまで言わせて、ようやく目が覚めるなんて)

 ・・・・・・もう、迷わない。アオイはそう胸に誓うと、怪人の胸の核に狙いをしっかりと定める。

 先程までの手先のぶれが嘘だったかのように、思考が澄んでいく。

(シン、すまない。・・・・・・こんな不甲斐ない姿を見せたのに、俺のことを好きでいてくれて、ありがとう)


「ーー俺も好きだ、シンッ・・・・・・俺達の未来のために、俺も戦う‼︎」

 刹那、アオイの弓から矢が放たれる。貫かれる核、霧散する四天王・媚薬怪人の体。

「ッう・・・・・・やば、媚薬、これッ・・・・・・‼︎♡」

 媚薬が効いて、ふらふらと倒れ込みそうになるシンの身体を、アオイは優しく支え深く抱きしめた。

「・・・・・・愛だねぇ、愛の勝利ってやつだね」

「ようやくくっついたかって感じですが」

「シンの告白、すごかったなぁ・・・・・・‼︎」

 三人が見守る中、ピンク色の媚薬の霧が消え青く澄んだ空の下で、シンとアオイは誓い合うように口付けた。
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