後藤家の日常

四つ目

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認識のずれ

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「ご、後藤さん、そのすみません、お呼び出しして」

放課後、私は同級生に呼び出された。もうこの時期だと余り人気のない部活棟の裏。
そして相手は一人ではなく複数人。ただ相手は全員女子生徒だ。
呼び出される理由は大体見当が付いている。

「く、草野先輩と、まだ付き合ってるんでしょうか」

冬休み明け、春さんとは帰り道でしか会わなくなった頃からこういう事が増えた。
いや、実を言うと、春さんと付き合う前からこういう事は有った。
ただその頃は付き合って無かったので特に問題は無かった。そんな事実は無いのだから。
けど今は実際に付き合っている。であれは私が答える事は一つだけだ。

「ええ」

特に装飾する事もなく、シンプルに答えた。
私の答えに女子生徒達は体を固くする。その目はまるで敵対者を見つけたかの様だ。
その目に対し、特に怯むでもなく視線を返す様に全員を見据える。
ただそれだけで彼女達は一歩身を引いた。

そんなに怯えなくても良いじゃない。別に取って食ったりはしないよ。
そもそも何と言うか、私は彼女たちの事を嫌いになれない。
だって彼女達が何のために来たのか、そう考えると嫌いにはなれない。

「わ、私達、草野先輩が、好きなんです」

彼女達はおずおずと、自分もそうだと、口々に言いだす。
私は彼女達の次の言葉を、ただ静かに待つ。
彼女達は私の様子に怯えながらも、それでも言葉を紡いだ。

「だ、だから、その、先輩と付き合ってるって、本当に、先輩とその」
「好きだよ。春さんの事。春さんも私の事好きだって言ってくれている」
「っ、そう、ですか」

私は普段通りの態度で口を開く。そんな私に彼女達は一層きつい眼を向けて来た。
ただその目の理由は、とても解り易くて、私はどうしてもその敵意が嫌いになれない。
だってこの子達は私なんだ。何かが違えばこの子達は私だった。
そう思うとどうしても、どれだけの敵意を持たれても彼女達を嫌いになれなかった。

「貴女達が春さんを好きな事は構わない。それの想いを彼に伝える事も構わない。けど、その為に私が邪魔だというならどんなことでも相手になるよ」

ただ、だからと言って私が彼女達の為に引く何ていう事はあり得ない。
私は春さんの事が大好きだし、春さんの事を譲る気なんて一切ない。
何より彼が私を好きだと言ってくれている以上、譲る必要もない。

「っ、わ、私達も、殴る気ですか」

そんな事はしないよ。と言っても前科がある以上説得力は無いのだろう。
実際今でも暴漢に偶々あった時、普通に手を出してしまうし。

「しないよ。けど私に何を言っても無駄だという事は解って欲しいかな。その代わり貴方達が春さんに好意を示しても、何も邪魔はしないから」

私に出来る譲歩はそこまでだ。
けどそれでも、彼女達が春さんに好意を伝える事は絶対に邪魔しない。
彼女達の顔は覚えた。ここまで怖がりながら正面切ってきた彼女達の邪魔はしない。

「貴女達が春さんに行動を起こす時は、その時はけして邪魔しない。それじゃ駄目かな」
「・・・解り、ました」
「ありがとう。じゃあ、私はもう行くから」
「はい、失礼、しました」

私が話を切り上げようとすると伝えると、彼女達も渋々ではあるが頷く。
それを確認してから、私は彼女達に背を向けた。

春さんの卒業が近くて関わる機会が限られているせいか、本当に最近この手の事が増えた。
面倒という気持ちは無い。むしろ春さんがもてる事には喜ばしく思う。

我ながら少しずれてるかなとは思うけど、それでも私には彼女達に対する想いはそんな所だ。
きっと嫌われているだろうし、嫌がられているだろう。
けど私は彼女達に好意的な感情を持ってしまう。
だって彼女達は、私が好きな人を好きなのだから。

しかし、春さんは本当に人気者だ・・・。
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