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第4話
首謀者さん電波ジャック ③
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「“元カレ”って元彼氏って意味での元カレ……ですよね?」
全く予期していなかった“元カレ”というパワーワードにたじろぎ、アホ丸出しの質問をする俺に、佐原さんは、
「他にどの“元カレ”があんのよ」
とめんどくさそうに答えた。
「つっても、1年の夏から付き合って2カ月で別れたけどね」
「あ、へぇ……そうすか」
まあ佐原さん、口は悪いけど見た目は結構可愛いからそういう恋愛案件の一つや二つあってもおかしくはないのだろうなとは思いつつ、どう答えればよいかいまいち分からず、曖昧な返事をする。
俺たちの会話を聞いていたその元カレ・西田が電話越しに割り込んでくる。
「「……こうやって電話で話すのも懐かしいもんだな?時間を置いた今ならまたヨリを戻してやらんこともないぞ?ンフフ」」
「は?ヨリ戻すもなにもフッたのあたしのほうだっつの。冗談は存在だけにしてよ」
いやめちゃめちゃ当たりきついやん……と冷え切ったやりとりを聞きながら、その遠慮のない様子が、逆に2人がホントに元カップルであったことを妙にリアルに暗示してんな、とも思った。
「まあ……妙に納得したけどね、西田くんがこれをやったっていうのは」
半分呆れたような顔で、佐原さんがそう言う。
「「ほう?」」
「理屈は1ミリもわかんないけど……人のやる気を奪う“水鉄砲”なんて、よくよく考えてみれば、思いつくのも、実際に作れちゃうのもこの学校であなたくらいのもんよ」
「「ふん……それは褒めの言葉と受け取っておこう」」
「うん、ちょっと待て」
いやなんか2人で勝手に納得して話進んでるけども、と慌てて割って入る。
「え、この西田ってやつが首謀者、だとして」
俺は手に持っていた水鉄砲を佐原さんにかざした。
「この水鉄砲……てか水鉄砲の中に入ってる、人を廃人にする“変なクスリ”も、こいつ、佐原さんの元カレがつくったってことか?」
「「おいおい大概だなぁ、早見くん」」
相変わらずねちっこい声で、電話の向こうの西田は俺の問いに反応した。
「「あの偉大な発明を“変なクスリ”とは。あれは我々化学部の髄、というかぶっちゃけほとんど私の天才的才能を結集して調合した珠玉の傑作!触れたり、吸い込んだりした人間すべての“やる気”を奪う秘薬、“ドウデモヨクナール”!……そう呼んでもらわんと癇に障る」」
「いや名前ださっ!!」
壊滅的なネーミングセンスに思わずツッコミを入れる。
「名前はほとばしるほどださいけどね、実際にそれを作れちゃうのが、入学以来全テストで学年一位、うちの学校で唯一東大A判定の、科学部部長の西田くんなのよ」
佐原さんが不愉快そうに言った。
「いやいや……」
と俺は苦笑いしながら首を振る。
「作れちゃうっつっても、いくら学年一位で頭いいからって、一高校生がこんな半分化学兵器みたいなもんどうやって作んだよ?西田って……何者なの?マッドサイエンティストなの?」
「マッドサイエンティストなのよ」
冗談のつもりだったのに、佐原さんは大真面目な顔でそう言った。
「去年さ、世界史の溝口先生と英語の篠宮先生が結婚したの覚えてる?」
「あー…覚えてるもなにも、篠宮先生普通に25,6とかで若いし、めっちゃ美人だから、俺含めてクラスの男は結構ショックだったけどな。相手が40手前で正直パっとしない溝口先生だったのも意外だったし……ってこれ何の話?」
「あれ、西田くんの仕業なの」
「あ?」
「西田くんが、科学部の部費アップを条件に、自分の作った惚れ薬、“スキニナール”を溝口先生に渡したの。溝口先生は篠宮先生にそれを使って、めでたくゴールイン」
そんな悪趣味な冗談みたいな話、あるわけない……と喉まで言葉が出かかったけれど、実際に今、あるわけないことの渦中に自分がいることを思い出す。
「マジ、なのか……?」
ゴクリと唾をのむ俺に、佐原さんは、それに……と話を続けた。
「去年の修学旅行で、西田くんのクラスだけホテルの部屋がロイヤルルームで、夕食も他はコロッケ定食だったのに西田くんのクラスだけ黒毛和牛鍋だったのも、西田くんがホテルの関係者全員を、“ゴホウシクン”っていう薬で洗脳したから。もっと言うと、今年の中間テスト、赤点常習犯のサッカー部のレギュラー4人が、偏差値20はねあげて赤点補修を免れたのも西田君のつくった“キオクヨクナール”のおかげ。あと……」
「いやすげぇな!!すげぇな西田!!なんか……佐原さんさっきから淡々と喋ってるけど、え、結構ファンタジーなクスリ量産してるよね?下手したら世界征服狙えるよね?」
「「ようやく俺の凄さが分かったかい、早見跳彦くん」」
顔は見えないけれど、その声から、西田がしたり顔でいるのが分かる。
「ああ……やっぱりネーミングセンスだけぶち壊れてるけどな」
「で?今回は何が目的なの?」
生産性のない話してても電話代が無駄になるわ、と言わんばかりに、佐原さんがぴしゃりと話を本筋に戻した。いたずら好きのこどもに付き合い疲れた母のような、気だるい口調だった。
「「目的か。ンフフ、少し考えればすぐに分かることかと思うがね……そうだな、ヒントをあげよう。……“ドウデモヨクナール”の効力は約3日。これがどういうことか分かるかい?」」
「どういうこと……って、どういうこと……?」
いまいちピンと来ないままきょとんとする俺の横で、佐原さんの表情が、急に険しくなっていた。そして、確かめたくない事実を、おそるおそる照らすように、佐原さんが静かに尋ねた。
「文化祭が出来なくなる……そう言いたいの?」
「ンフンフフ…その通り。今年の、我々3年にとっては最後となる浜風高校文化祭……その中止が、私の目的だ」
全く予期していなかった“元カレ”というパワーワードにたじろぎ、アホ丸出しの質問をする俺に、佐原さんは、
「他にどの“元カレ”があんのよ」
とめんどくさそうに答えた。
「つっても、1年の夏から付き合って2カ月で別れたけどね」
「あ、へぇ……そうすか」
まあ佐原さん、口は悪いけど見た目は結構可愛いからそういう恋愛案件の一つや二つあってもおかしくはないのだろうなとは思いつつ、どう答えればよいかいまいち分からず、曖昧な返事をする。
俺たちの会話を聞いていたその元カレ・西田が電話越しに割り込んでくる。
「「……こうやって電話で話すのも懐かしいもんだな?時間を置いた今ならまたヨリを戻してやらんこともないぞ?ンフフ」」
「は?ヨリ戻すもなにもフッたのあたしのほうだっつの。冗談は存在だけにしてよ」
いやめちゃめちゃ当たりきついやん……と冷え切ったやりとりを聞きながら、その遠慮のない様子が、逆に2人がホントに元カップルであったことを妙にリアルに暗示してんな、とも思った。
「まあ……妙に納得したけどね、西田くんがこれをやったっていうのは」
半分呆れたような顔で、佐原さんがそう言う。
「「ほう?」」
「理屈は1ミリもわかんないけど……人のやる気を奪う“水鉄砲”なんて、よくよく考えてみれば、思いつくのも、実際に作れちゃうのもこの学校であなたくらいのもんよ」
「「ふん……それは褒めの言葉と受け取っておこう」」
「うん、ちょっと待て」
いやなんか2人で勝手に納得して話進んでるけども、と慌てて割って入る。
「え、この西田ってやつが首謀者、だとして」
俺は手に持っていた水鉄砲を佐原さんにかざした。
「この水鉄砲……てか水鉄砲の中に入ってる、人を廃人にする“変なクスリ”も、こいつ、佐原さんの元カレがつくったってことか?」
「「おいおい大概だなぁ、早見くん」」
相変わらずねちっこい声で、電話の向こうの西田は俺の問いに反応した。
「「あの偉大な発明を“変なクスリ”とは。あれは我々化学部の髄、というかぶっちゃけほとんど私の天才的才能を結集して調合した珠玉の傑作!触れたり、吸い込んだりした人間すべての“やる気”を奪う秘薬、“ドウデモヨクナール”!……そう呼んでもらわんと癇に障る」」
「いや名前ださっ!!」
壊滅的なネーミングセンスに思わずツッコミを入れる。
「名前はほとばしるほどださいけどね、実際にそれを作れちゃうのが、入学以来全テストで学年一位、うちの学校で唯一東大A判定の、科学部部長の西田くんなのよ」
佐原さんが不愉快そうに言った。
「いやいや……」
と俺は苦笑いしながら首を振る。
「作れちゃうっつっても、いくら学年一位で頭いいからって、一高校生がこんな半分化学兵器みたいなもんどうやって作んだよ?西田って……何者なの?マッドサイエンティストなの?」
「マッドサイエンティストなのよ」
冗談のつもりだったのに、佐原さんは大真面目な顔でそう言った。
「去年さ、世界史の溝口先生と英語の篠宮先生が結婚したの覚えてる?」
「あー…覚えてるもなにも、篠宮先生普通に25,6とかで若いし、めっちゃ美人だから、俺含めてクラスの男は結構ショックだったけどな。相手が40手前で正直パっとしない溝口先生だったのも意外だったし……ってこれ何の話?」
「あれ、西田くんの仕業なの」
「あ?」
「西田くんが、科学部の部費アップを条件に、自分の作った惚れ薬、“スキニナール”を溝口先生に渡したの。溝口先生は篠宮先生にそれを使って、めでたくゴールイン」
そんな悪趣味な冗談みたいな話、あるわけない……と喉まで言葉が出かかったけれど、実際に今、あるわけないことの渦中に自分がいることを思い出す。
「マジ、なのか……?」
ゴクリと唾をのむ俺に、佐原さんは、それに……と話を続けた。
「去年の修学旅行で、西田くんのクラスだけホテルの部屋がロイヤルルームで、夕食も他はコロッケ定食だったのに西田くんのクラスだけ黒毛和牛鍋だったのも、西田くんがホテルの関係者全員を、“ゴホウシクン”っていう薬で洗脳したから。もっと言うと、今年の中間テスト、赤点常習犯のサッカー部のレギュラー4人が、偏差値20はねあげて赤点補修を免れたのも西田君のつくった“キオクヨクナール”のおかげ。あと……」
「いやすげぇな!!すげぇな西田!!なんか……佐原さんさっきから淡々と喋ってるけど、え、結構ファンタジーなクスリ量産してるよね?下手したら世界征服狙えるよね?」
「「ようやく俺の凄さが分かったかい、早見跳彦くん」」
顔は見えないけれど、その声から、西田がしたり顔でいるのが分かる。
「ああ……やっぱりネーミングセンスだけぶち壊れてるけどな」
「で?今回は何が目的なの?」
生産性のない話してても電話代が無駄になるわ、と言わんばかりに、佐原さんがぴしゃりと話を本筋に戻した。いたずら好きのこどもに付き合い疲れた母のような、気だるい口調だった。
「「目的か。ンフフ、少し考えればすぐに分かることかと思うがね……そうだな、ヒントをあげよう。……“ドウデモヨクナール”の効力は約3日。これがどういうことか分かるかい?」」
「どういうこと……って、どういうこと……?」
いまいちピンと来ないままきょとんとする俺の横で、佐原さんの表情が、急に険しくなっていた。そして、確かめたくない事実を、おそるおそる照らすように、佐原さんが静かに尋ねた。
「文化祭が出来なくなる……そう言いたいの?」
「ンフンフフ…その通り。今年の、我々3年にとっては最後となる浜風高校文化祭……その中止が、私の目的だ」
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