君に銃口を向ける夏

やまだ

文字の大きさ
上 下
7 / 18
第4話

首謀者さん電波ジャック ①

しおりを挟む
「……いやだから、学校中の皆が生気を失ってるんすよ!はい、水鉄砲で撃たれて!あ、銃ではなくて、水鉄砲で……はい、多分変な成分とかが入ってて……え?いや死んではいないんすけど、いや、ふざけてるわけじゃなくて、あ、ちょっ!………」

プツリ、と電話が切れた。

「……まったく信じてくれねぇ」
「ダメ元の110番だったけど、やっぱダメね……」

 「廃人」だらけと化した高校で、なぜか俺たちを追ってくるグラサン男を退けた俺、早見跳彦……と佐原さんは、警察に電話するも全く相手にされず、どんよりとため息をついた。

 佐原さん曰く、校門も閉じられていて、見張りもいて、学校から出るのも難しい状況だという。

「まあ信じろっていうほうが無理な話か……。ていうかさ」
「なに?」
「なんで隠れ場所、ここなの?」

 あの後、依然状況はまったくつかめないまま、さらなる追手が来る前にどこかに身を隠そうとした俺たちは今……

女子トイレにいた。

「見た限り、あのグラサンのやつらはみんな男だし、少しでも入るのためらってくれれば、もうけもんでしょ?」
「…………」

黙って辺りを見回す。

なんだかんだ生まれて初めて(当然だ)足を踏み入れた「女子トイレ」という異質な空間に、妙な気恥しさを覚えていると、佐原さんが冷ややかな目でこちらを見ていた。

「なにそわそわしてんのよ。……なんかキモいよ」

 ピンチを救ってくれた人なのでとやかく言いたくはないが、ついさっき邂逅したばかりの佐原さんについて分かったことは、思ったことをオブラートにくるまずそのまま産地直送してくるきらいがある、率直に言えば口が悪い。

「きみ、早見くんでしょ、2組の」

 佐原さんがそう言ってきた。なぜか向こうは一方的に俺のことを知っているようだった。

「あれ、なんか絡みあったけ」

「ないけど……まあ、なんとなく知ってるよ。野球部のピッチャー、“だった”って」

 その少しだけ遠慮したような言い方に、ああ、と腑に落ちる。

 佐原さんのいる3年7組には、野球部の“元”チームメイトも何人かいた。1か月前まで野球部だった俺の身にまつわる“いろいろな話”は、どうやら俺が思っている以上に、校内の人間の知るところになっているらしい。当人の名前と顔もセットにして。

 いろいろと詮索されるのも嫌なので、「まあ俺のことはどうでもいいよ」と適当に受け流し、率直な疑問を投げかける。

「それより……シンプルに、今、この学校で何が起こってんのか教えてくれ」

「あたしだってよく分かんないっつーの」
佐原さんは肩をすくめた。

「朝、遅刻して学校きたら、既にみんな死んだみたいにやる気なくしてて……びっくりしてたら急に追っかけられて、そいつを蹴散らしたあと、別の敵に襲われてる早見くんに偶然遭遇したの」

「蹴散らした……って、そもそもよく蹴散らせたよな、そのとき一人だったんだろ?佐原さん」

「うん。たまたまあったこの竹刀使って。それと、蹴散らす前にその男はべらべらといろいろ喋ってくれたのは収穫かな。その水鉄砲についてとかね」

 春乃はそう言って、俺が手に持っていた水鉄砲を指さした。さっき倒したグラサン男から奪ったものだ。

 俺も水鉄砲をまじまじと見つめる。見た目上は、市販で売ってる、派手な色をした片手で持てるサイズの、特に変哲のない普通の水鉄砲に見えた。

「撃たれるとやる気を失くす、ねぇ……にわかには信じらんねえが実際この目で見ちまったからな」

 遠目ながら、グラサン男に撃たれて崩れ落ちる友達のエビちゃん、そして、ついさっき、俺が放った水鉄砲の水を浴び、急激に生気を失っていくそのグラサン男の様子が、鮮明に脳裏に蘇る。

「何者なんだアイツら」
「ホントにね」

 これからどうする?とか、あの「廃人」になったやつらを元通りにする方法ってあるのかな、とか、いろいろ頭の中に浮かぶけれど、お互い口にはしない。
 疑問はつきないし、受け入れることも土台不可能なぶっ飛んだ状況だが、今俺たちが何か考えたところで事態が好転しそうにないのは目に見えていた。
 朝から走り続けた疲労感も相まって、言葉の代わりに、はぁ……とほぼ同じタイミングで、二人でため息をつく。

ピンポンパンポーン。

 突然、音がした。

俺と佐原さんはビクッとして、思わず辺りをきょろきょろする。廊下のスピーカーから聞こえる、校内放送のアナウンス音だった。

「は?何だ…?」

「「あ――…これマイク入ってんのかい?大丈夫かい?」」

続けて、男の声がスピーカーから流れてくる。

「校内放送……?」
「みたいだな」

なんのこっちゃ、という表情で、春乃と顔を見合わせる。

「「えー残党諸君に告ぐ」」

 喋ってるやつとマイクが近いのか、必要以上に音量が大きく、ノイズのかかった耳障りな音質で男の声が、校内中に響き渡った。

「「この学校は……我々が乗っ取った」」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

セレンディピティ

藤澤 怜
青春
魅力的な人達との出会いは少年を成長させていく。 主人公、疾風の青春の物語。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【R15】【第一作目完結】最強の妹・樹里の愛が僕に凄すぎる件

木村 サイダー
青春
中学時代のいじめをきっかけに非モテ・ボッチを決め込むようになった高校2年生・御堂雅樹。素人ながら地域や雑誌などを賑わすほどの美しさとスタイルを持ち、成績も優秀で運動神経も発達し、中でもケンカは負け知らずでめっぽう強く学内で男女問わずのモテモテの高校1年生の妹、御堂樹里。親元から離れ二人で学園の近くで同居・・・・というか樹里が雅樹をナチュラル召使的に扱っていたのだが、雅樹に好きな人が現れてから、樹里の心境に変化が起きて行く。雅樹の恋模様は?樹里とは本当に兄妹なのか?美しく解き放たれて、自由になれるというのは本当に良いことだけなのだろうか? ■場所 関西のとある地方都市 ■登場人物 ●御堂雅樹 本作の主人公。身長約百七十六センチと高めの細マッチョ。ボサボサ頭の目隠れ男子。趣味は釣りとエロゲー。スポーツは特にしないが妹と筋トレには励んでいる。 ●御堂樹里 本作のヒロイン。身長百七十センチにIカップのバストを持ち、腹筋はエイトパックに分かれる絶世の美少女。芸能界からのスカウト多数。天性の格闘センスと身体能力でケンカ最強。強烈な人間不信&兄妹コンプレックス。素直ではなく、兄の前で自分はモテまくりアピールをしまくったり、わざと夜に出かけてヤキモチを焼かせている。今回新たな癖に目覚める。 ●田中真理 雅樹の同級生で同じ特進科のクラス。肌質や髪の毛の性質のせいで不細工扱い。『オッペケペーズ』と呼ばれてスクールカースト最下層の女子三人組の一人。持っている素質は美人であると雅樹が見抜く。あまり思慮深くなく、先の先を読まないで行動してしまうところがある。

そして鬼と成る

文月くー
青春
呪力と言う名の力が発見され、どんどん進んできく文明。 そして、それはスポーツの祭典であるオリンピックに取って代わるように、呪力を使ったスポーツ、〝呪術技〟が脚光を浴びていた。 そんな世界で、雫達のいる春峰高校は『彼ら』と闘い合い、全国一へと 駆け上がって行く、青春ストーリーである。

夏色リフレクション

劇団バスターズ
青春
期待されていたバスケットボールで怪我をしてしまい、期待から逃げるように姉妹校がある田舎の離島へ引っ越しを決めた、主人公「藤田光一」。 引っ越し先の離島、「才羽島(さいばじま)」で出会う様々な人たち。 目まぐるしく過ぎていく、島での生活。 今まで経験してこなかった、友との青春の日々。 そして明かされる、この島の秘密。 無限にあるようでいて、ほんの一瞬でしかなかった夏休み。 高校2年生の夏休みが、始まる。

秘密のキス

廣瀬純一
青春
キスで体が入れ替わる高校生の男女の話

感情とおっぱいは大きい方が好みです ~爆乳のあの娘に特大の愛を~

楠富 つかさ
青春
 落語研究会に所属する私、武藤和珠音は寮のルームメイトに片想い中。ルームメイトはおっぱいが大きい。優しくてボディタッチにも寛容……だからこそ分からなくなる。付き合っていない私たちは、どこまで触れ合っていんだろう、と。私は思っているよ、一線超えたいって。まだ君は気づいていないみたいだけど。 世界観共有日常系百合小説、星花女子プロジェクト11弾スタート! ※表紙はAIイラストです。

処理中です...