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一章
【変化-4】
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辺りは相変わらず人っこ一人いない。
今になって考えれば誰もいないのがかえって彩に刺激を与えずに済んで好都合だったと修一は思った。
(彩も僕もみんな形は違っても、苦しみを抱えて生きてる。前の僕じゃ、こんなことを考えもしなかったのにな……)
夜空を見上げながら、そんなことを考えてる間に彩は廃墟ビルの暗闇から姿を現した。
「こんばんは。修一君」
「こんばんは彩。てか、このビルの高さじゃ多分飛び降りても死ねないよ。高さが足りないしさ。屋上と地上でお互いの声が届くくらいだしね」
「言われてみればそうね……」
「まあ、それで良かったんだけどさ」
気兼ねない会話にお互いほくそ笑む。
さっきまでは廃墟ビルの屋上に居たため彩の姿はしかっりと見えなかったが、目の前にいる彩を見て修一は思った。
(僕のタイプだな)
彩はショートヘアーでキリッとした目、そしてキレイに整った顔立ちをしていた。笑った時のえくぼが可愛らしく、修一は素直に一目惚れしてしまった。
「さっきの話し本気で信じたわけじゃないけど、修一君の気持ちは伝わったわ。そのアドレスを試すのも良いかもね」
「事実は小説よりも奇なりさ。試す価値はあるよ」
「そうね、意味が無いわけじゃないし。でも、本当だったとしても私は変われるのかしら?」
彩は不安気に問いかける。
「彩なら大丈夫だよ。まぁ僕も正直このアドレスに関して詳しいことがわかるわけじゃないけどさ、前の僕と同じように苦しみを持った彩なら大丈夫」
「でも私は犯罪者。罰を受けるような人間よ。そんな私に修一君に起こったような変化が起きるの? 変わる資格はあるの?」
「さっきも言ったけど、資格なんか必要ないよ。確かに彩は過ちを犯したけど自分の罪を後悔してるんだから、きっと変われる」
だが、やはり不安はあった。修一に起こったような変化が本当に彩にも起きるのか、どういう仕組み、何故こんな力があるのか、修一もアドレスの謎がわからないからだ。
「彩、君は死のうとしてたんだ。それに比べればどんな結果になってもマシさ。死ぬこと以上の不幸は無いって良い見本だよ」
彩は少しためらっていたが納得し頷いた。
「わかったわ。そのアドレスを私に教えて。私は弱い自分と向き合う。まず先に私のアドレスを教えるわね」
そう言って、彩はスマホを取り出し修一に自分のアドレスを赤外線送信で送った。
修一は内心嬉しかった。今までの人生で女性とアドレスを交換したことが無かったからだ。
「ありがとう。それじゃメールを送るよ」
数秒後に彩のスマホが鳴り出し、アドレスを載せたメールが届いた。
「アドレスを変更すれば良いのね?」
「うん。あと、さっき言ったけど、この特殊なアドレスは共有して使うことが出来る。だけど、僕が送った僕のこのアドレスの一文字を変更してから、新たに自分のアドレスとして使ってね」
「わかってるわ。そうしないと修一君のアドレスのままだし、私のケータイで使えないからでしょ」
それから少しの間があった。
「変更したわ」
「彩、きっと変化が起きるから自分を信じて」
「うん」
そう言うと彩はスマホの画面を見続けた。
長い沈黙が続いたが、しばらくしてから彩の目から涙が流れだした。そして、涙を拭った彩の顔には現実を受け止めて現実と向かい合う覚悟があらわれていた。
そして、遠くを見ながら彼女はスマホを開き何処かに電話を掛けた。
「彩……?」
「行くべき場所に行くだけよ」
彩の顔から迷いや不安や苦しみは既に消えていた。数分間、電話が続き話が終わると通話を切った。
「さっ! 後は待つだけ!」
彩は髪をかきあげて言った。
「彩、気分はどう?」
「フフ、修一君が経験したのと同じ気分じゃないかしら?」
そう言った彩の目は輝いている。
「そっか、良かったよ」
「そうだ修一君。私の新しいアドレスを登録してね」
彩はスマホを開き、修一にメールでアドレスを送った。
彩からのメールが届き、修一はスグに彩のアドレスを登録した。
「登録したよ。コレで僕たちは繋がった」
「フフ、修一君ってさっきからドラマのセリフみたいなことを言うよね」
「ハハハ、まぁね」
それから数分間、二人は話をした。その会話の一言一言はお互いに共感でき、二人にとって安らぎの時間だった。
十分ほどが経過した頃、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
ハッとした修一は彩を見た。彩は少し哀しい目をしたが、顔は彩り満ちている。
二分後にパトカーが到着した。
彩は修一に一度微笑んでからパトカーに向かって歩いていく。
その時、辺りが彩り夜空が明るく晴れ渡ったような気がした。
「彩!」
彩は振り返り修一を見る。
「彩が罪を償い終わって刑務所から出てきたら、彩にメールを送るから! 僕はアドレスを変えないから! 二人の繋がりのこのアドレスで送るから! 約束だ!」
「フフ、本当に?」
「ああ、約束するよ!」
それを聞いてから彩はパトカーに乗り、こちらを振り向き頷いた。
パトカーは赤いサイレン灯で辺りを照しながら走り去った。
そのあと、事情聴取で修一も連れて行かれた。
そして数時間後に解放された。
晩飯は食べていなかったが食欲がなかったので部屋へと入りベットに倒れこんだ。
(今日は疲れた一日だった……)
頭の中で呟きながらズッと気になっていることを考えている。
(それにしても、このアドレスは一体なんなんだろう? なんでこんな力が? そして僕にアドレスを教えてくれたのは一体誰? なんで僕の連絡先を知っていたんだ?)
そう考えながら眠りにつき、長い一日が終わった。
修一が眠りにつく数時間前、福原市の「桜木町」にあるオフィスビルの中で一人の女と二人の男が探知機のモニターを見ていた。
「電波をキャッチしました」
男が言った。
「完璧ね。これでソフトが発売されれば」
女がモニターを見ながら言った。
「発売が待ち遠しいぜ!」
もう一人の男が言った。
三人は同じ会社の情報部の社員。本来は開発部の仕事なのだが三人が新作のソフトウェアのチェックをしていた。
それは探知機を使いそのソフトウェアをインストールした通信機器から特殊な電波が発せられているかをチェックする作業だった。
ソフトウェアは二年前から開発が始まり、今から半年前に完成はしていた。しかし、何度も何度も電波のチェックをして欠陥がないかを確かめていたためにソフトウェアの発売は先伸ばしになっていた。
「あら?」
女が怪訝な表情を浮かべた。
「他に電波が。どういうことかしら?」
女は探知機のモニターを見ながら言った。
「何故だ? どうして?」
男はモニターを見て驚く。
「故障じゃないんですかい?」
もう一人の男が言った。
「それはないわ! 探知機は正常のはずよ!」
「つまり『パンドラ』のプログラムをインストールした通信機器を持った人間が外部にいるってことですか?」
「そうなるわね」
「だったらヤバイんじゃないですかい? ソフトの発売前にプログラムの情報が世間に知れたら」
「ええ、計画が全て終わるわ」
「どうします? スグに探知機で電波をたどって相手の元に向かいますか?」
男がイスから立ち上がり女に言った。
「いや、すぐに行動する必要は無いわ」
「俺は今すぐ行って取り返した方が良いと思いますぜ。ぶっ飛ばして締め上げりゃ簡単に取り戻せますし」
指をパキパキと鳴らしながらもう一人の男が言った。
「私が決めることよ。それに電波の持ち主には『パンドラ』のプログラムの力で災いが起きているはずよ」
「確かにその通りですね。ならば、その者から情報が漏れる心配はないですね」
男が頷き言った。
「それじゃ、頃合いを見計らって取り戻しに行くんですかい?」
もう一人の男は残念そうにしながら言った。
「ええ。今はしばらく様子を見ましょう」
そう言ってから女はモニターを見て、眉を寄せて呟いた。
「それにしても、どうして『パンドラ』のプログラムを……」
今になって考えれば誰もいないのがかえって彩に刺激を与えずに済んで好都合だったと修一は思った。
(彩も僕もみんな形は違っても、苦しみを抱えて生きてる。前の僕じゃ、こんなことを考えもしなかったのにな……)
夜空を見上げながら、そんなことを考えてる間に彩は廃墟ビルの暗闇から姿を現した。
「こんばんは。修一君」
「こんばんは彩。てか、このビルの高さじゃ多分飛び降りても死ねないよ。高さが足りないしさ。屋上と地上でお互いの声が届くくらいだしね」
「言われてみればそうね……」
「まあ、それで良かったんだけどさ」
気兼ねない会話にお互いほくそ笑む。
さっきまでは廃墟ビルの屋上に居たため彩の姿はしかっりと見えなかったが、目の前にいる彩を見て修一は思った。
(僕のタイプだな)
彩はショートヘアーでキリッとした目、そしてキレイに整った顔立ちをしていた。笑った時のえくぼが可愛らしく、修一は素直に一目惚れしてしまった。
「さっきの話し本気で信じたわけじゃないけど、修一君の気持ちは伝わったわ。そのアドレスを試すのも良いかもね」
「事実は小説よりも奇なりさ。試す価値はあるよ」
「そうね、意味が無いわけじゃないし。でも、本当だったとしても私は変われるのかしら?」
彩は不安気に問いかける。
「彩なら大丈夫だよ。まぁ僕も正直このアドレスに関して詳しいことがわかるわけじゃないけどさ、前の僕と同じように苦しみを持った彩なら大丈夫」
「でも私は犯罪者。罰を受けるような人間よ。そんな私に修一君に起こったような変化が起きるの? 変わる資格はあるの?」
「さっきも言ったけど、資格なんか必要ないよ。確かに彩は過ちを犯したけど自分の罪を後悔してるんだから、きっと変われる」
だが、やはり不安はあった。修一に起こったような変化が本当に彩にも起きるのか、どういう仕組み、何故こんな力があるのか、修一もアドレスの謎がわからないからだ。
「彩、君は死のうとしてたんだ。それに比べればどんな結果になってもマシさ。死ぬこと以上の不幸は無いって良い見本だよ」
彩は少しためらっていたが納得し頷いた。
「わかったわ。そのアドレスを私に教えて。私は弱い自分と向き合う。まず先に私のアドレスを教えるわね」
そう言って、彩はスマホを取り出し修一に自分のアドレスを赤外線送信で送った。
修一は内心嬉しかった。今までの人生で女性とアドレスを交換したことが無かったからだ。
「ありがとう。それじゃメールを送るよ」
数秒後に彩のスマホが鳴り出し、アドレスを載せたメールが届いた。
「アドレスを変更すれば良いのね?」
「うん。あと、さっき言ったけど、この特殊なアドレスは共有して使うことが出来る。だけど、僕が送った僕のこのアドレスの一文字を変更してから、新たに自分のアドレスとして使ってね」
「わかってるわ。そうしないと修一君のアドレスのままだし、私のケータイで使えないからでしょ」
それから少しの間があった。
「変更したわ」
「彩、きっと変化が起きるから自分を信じて」
「うん」
そう言うと彩はスマホの画面を見続けた。
長い沈黙が続いたが、しばらくしてから彩の目から涙が流れだした。そして、涙を拭った彩の顔には現実を受け止めて現実と向かい合う覚悟があらわれていた。
そして、遠くを見ながら彼女はスマホを開き何処かに電話を掛けた。
「彩……?」
「行くべき場所に行くだけよ」
彩の顔から迷いや不安や苦しみは既に消えていた。数分間、電話が続き話が終わると通話を切った。
「さっ! 後は待つだけ!」
彩は髪をかきあげて言った。
「彩、気分はどう?」
「フフ、修一君が経験したのと同じ気分じゃないかしら?」
そう言った彩の目は輝いている。
「そっか、良かったよ」
「そうだ修一君。私の新しいアドレスを登録してね」
彩はスマホを開き、修一にメールでアドレスを送った。
彩からのメールが届き、修一はスグに彩のアドレスを登録した。
「登録したよ。コレで僕たちは繋がった」
「フフ、修一君ってさっきからドラマのセリフみたいなことを言うよね」
「ハハハ、まぁね」
それから数分間、二人は話をした。その会話の一言一言はお互いに共感でき、二人にとって安らぎの時間だった。
十分ほどが経過した頃、遠くからパトカーのサイレンが聞こえてきた。
ハッとした修一は彩を見た。彩は少し哀しい目をしたが、顔は彩り満ちている。
二分後にパトカーが到着した。
彩は修一に一度微笑んでからパトカーに向かって歩いていく。
その時、辺りが彩り夜空が明るく晴れ渡ったような気がした。
「彩!」
彩は振り返り修一を見る。
「彩が罪を償い終わって刑務所から出てきたら、彩にメールを送るから! 僕はアドレスを変えないから! 二人の繋がりのこのアドレスで送るから! 約束だ!」
「フフ、本当に?」
「ああ、約束するよ!」
それを聞いてから彩はパトカーに乗り、こちらを振り向き頷いた。
パトカーは赤いサイレン灯で辺りを照しながら走り去った。
そのあと、事情聴取で修一も連れて行かれた。
そして数時間後に解放された。
晩飯は食べていなかったが食欲がなかったので部屋へと入りベットに倒れこんだ。
(今日は疲れた一日だった……)
頭の中で呟きながらズッと気になっていることを考えている。
(それにしても、このアドレスは一体なんなんだろう? なんでこんな力が? そして僕にアドレスを教えてくれたのは一体誰? なんで僕の連絡先を知っていたんだ?)
そう考えながら眠りにつき、長い一日が終わった。
修一が眠りにつく数時間前、福原市の「桜木町」にあるオフィスビルの中で一人の女と二人の男が探知機のモニターを見ていた。
「電波をキャッチしました」
男が言った。
「完璧ね。これでソフトが発売されれば」
女がモニターを見ながら言った。
「発売が待ち遠しいぜ!」
もう一人の男が言った。
三人は同じ会社の情報部の社員。本来は開発部の仕事なのだが三人が新作のソフトウェアのチェックをしていた。
それは探知機を使いそのソフトウェアをインストールした通信機器から特殊な電波が発せられているかをチェックする作業だった。
ソフトウェアは二年前から開発が始まり、今から半年前に完成はしていた。しかし、何度も何度も電波のチェックをして欠陥がないかを確かめていたためにソフトウェアの発売は先伸ばしになっていた。
「あら?」
女が怪訝な表情を浮かべた。
「他に電波が。どういうことかしら?」
女は探知機のモニターを見ながら言った。
「何故だ? どうして?」
男はモニターを見て驚く。
「故障じゃないんですかい?」
もう一人の男が言った。
「それはないわ! 探知機は正常のはずよ!」
「つまり『パンドラ』のプログラムをインストールした通信機器を持った人間が外部にいるってことですか?」
「そうなるわね」
「だったらヤバイんじゃないですかい? ソフトの発売前にプログラムの情報が世間に知れたら」
「ええ、計画が全て終わるわ」
「どうします? スグに探知機で電波をたどって相手の元に向かいますか?」
男がイスから立ち上がり女に言った。
「いや、すぐに行動する必要は無いわ」
「俺は今すぐ行って取り返した方が良いと思いますぜ。ぶっ飛ばして締め上げりゃ簡単に取り戻せますし」
指をパキパキと鳴らしながらもう一人の男が言った。
「私が決めることよ。それに電波の持ち主には『パンドラ』のプログラムの力で災いが起きているはずよ」
「確かにその通りですね。ならば、その者から情報が漏れる心配はないですね」
男が頷き言った。
「それじゃ、頃合いを見計らって取り戻しに行くんですかい?」
もう一人の男は残念そうにしながら言った。
「ええ。今はしばらく様子を見ましょう」
そう言ってから女はモニターを見て、眉を寄せて呟いた。
「それにしても、どうして『パンドラ』のプログラムを……」
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